046.お話を伺いました

「いやあ、素直な人たちばかりで助かったよ」


 俺たちが別邸に到着したのはお昼前だったんだけど、午後のお茶の時間には兄上、こんなこと言ってマフィンをもぐもぐ食っていた。……こういうのの食い方見ると、鳴霞っぽいんだよなあ兄上。あ、他の皆も揃ってる。


「メイコールもダニエルも、ゲイルですらああではな……素直にならざるを得んというか」

「そんなにすごかったのですか?」

「あまり、女性に見せるものではなかったな」


 お疲れ様、ということでガレルにも同席してもらってるんだけど……がっくりと肩を落としてるのはもう、ね。

 シスコン兄上と俺ラブダニエルと、主に忠実なゲイルがあのエセ貴族どもにどんな『尋問』をやらかしたかは、想像したくないよ多分スプラッタまでは行ってないだろうけど。


「少々、お恥ずかしいものをお見せしましたようで……」

「見なかったことにしましょう。というか、他の捕虜に対しても同じように対処してもらえるとこちらが助かるので」

「は、はあ」


 思わず声をかけると、意外な返答が来た。そうか、兄上たちのやり方、捕虜への尋問としてはいい感じなのか。ちらりと兄上たちに視線を向けると、代表してダニエルが「考えておきます」と満面の笑みで答えてくれた。……ま、いいか。いいことにしよう。

 本題は兄上たちの所業じゃなくて、犠牲者……じゃねえ、えせ貴族どもの背後だ。


「ナルハ様の拉致未遂に関しては、カロンド本家からの指示だったそうです。男爵夫人が主体だったとか」

「ご自身の嫡男に嫁がせたかったわけですからね。まったく、冗談ではありませんが」


 報告はゲイル、それに対する感想はアリッサ。この兄妹、主にうち関係で問題起きると動き方がすごいんだよねえ。

 アリッサが俺付きなんで俺関係頑張ってくれるのは分かるけど、ゲイルも何だか頑張ってるというか……あ、兄上の命令ですねそうですねきっとそうだそういうことにしておこう、うん。

 で、今のゲイルの言い方にちょっぴり引っかかったことがある。ゲイルに尋ねてもいいけど、多分答えるのは彼ではないので直接、答えてくれそうな人に話を振ろう。


「……兄上」

「なんだい?」

「わたしの拉致未遂に『関しては』って、他にも指示を受けていたように聞こえますが」

「うん、さすが私のかわいいかわいいナルハ! 頭の冴えもさすがだよ」


 呼んだ瞬間ぱあっと笑顔になって、質問するとでれでれしまくる兄上。……鳴霞のとき、ここまでひどかったかな?

 ほら、ダニエルもマルカもガレルもドン引きしてるじゃねえか。ゲイルやアリッサはもう慣れてるんだけど……すごいなセファイア。


「ナルハに暴行を加えてダニエルを諦めさせろ、という指示を受けていたそうだ。シャナキュラスの当主からね」

『は?』

「まあ、二つの指示は同時に解決できなくもないから、両方受けたと言っていたよ。軽く踏み潰してやったけどね」


 兄上の、笑顔のままの答えにプラスしてダニエルも、同じく笑顔で続いた。

 ……踏み潰したって何をだ、もしかしなくても今の俺にはないものか。股間がひゅっとしたぞ、ないのに。

 落ち着けナルハ・グラントール。今の俺は伯爵令嬢で侯爵の跡継ぎの婚約者の女の子だ、よーし。

 というか、シャナキュラスねえ。いくら何でも、あいつがやったわけではなさそうだな。


「さすがに、ランディア嬢が噛んでいるとは思えませんね」

「真正面から勝負を掛けてきて自滅される方ですからね、ランディア様は」

「そこに関しては、俺もそう思う。彼女は鬱陶しいけれど、姑息な手を使う人ではないからね」

「ナルハがそういうのなら、そうなんだろうね。同じ教室で学んでいる仲だし」


 俺の意見を挟むと、アリッサもダニエルも兄上も頷いてくれた。マルカも無言でこくこく。つーかアリッサ、確かにそうだが言い方酷いな。

 実際のところをあまり知らないガレルだけが、ほうほうと感心したように話を聞いてくれてる。いやほんと、ランディアは悪い子じゃないんだよな。ダニエルにアタックしてくるのがうざいだけで。


「彼らは、どうなさいますか?」

「とりあえず、近衛隊に連れて行こう。グラントールの令嬢に暴力を加えようとした犯罪者で、裏にカロンドとシャナキュラスがいるらしいということだからな」


 アリッサの問いに、さすがというかガレルは即答。ああ、やっぱりそうなるよなあ。

 王都で起きた貴族令嬢の拉致未遂に、別の貴族が黒幕として潜んでるわけだ。王城としては、放ってはおけないもんな。ある意味部下同士の内乱みたいなもんだし……王城、どっちについてくれるんだろ?

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