045.無事のご帰宅

 さて。

 ここは、グラントールの別邸である。つまり、俺とアリッサがそもそも向かうはずだった場所。というか、ただいまーと帰ってきたわけだ。兄上とゲイル、ダニエルも一緒に。マルカは何か用事があるからって、近衛隊の宿舎に戻ったんだよな。

 で。


「なぜ、持ち帰られたのですか。兄上」

「表で尋問するわけにもいかないからね」


 裏口を入ったところには、さっき俺たちを襲ってきたエセ貴族共が猿ぐつわ付きでぐるぐる巻きに縛り上げられて転がっている。十人ほどいるのを、兄上たち三人とアリッサでよいしょ、と担ぎ上げて運んできたんだよな……うーむ、さすがというか。

 何で持ってきたのか、という質問に兄上は、とっても朗らかな笑顔で答えてくれた。尋問……拷問の間違いだろ、兄上。


「程々にお願いしますね」

「ナルハは安心しなさい。ちゃんと生かしておくから」


 いや、安心できない。生かしておくっつーても、心臓動いてりゃオーケーとかになりかねないしこのシスコン兄上。今は中に元のブラコン妹まで入ってるから、パワーアップしてる可能性がある。

 なので、強めに念を押すことにしよう。


「ほんっとうに、ほどほどに、お願いしますね!」

「ははは、ナルハは優しいね。分かったから」

「治療さえすれば意思疎通ができる、程度でいいかな?」

「自分で生活できる程度、でお願いしますダニエル様!」


 あー、婚約者も同類だったよそういえば。この二人、親友だもんなあ。ゲイルは兄上のお付きだし、このくらいの命令にならあっさり従う。マルカは……ま、反抗したところで勝てないだろ。


「ナルハ様がお優しい方で良かったですね。あなた方、少なくとも生命を取られることはないようですよ?」


 そうして、俺に危害が加わりかけたところで止めてもあまり止まらないアリッサが、これまた爽やかな笑顔でエセ貴族どもにお言葉を垂れる。その足元で奴らがブルブル震えているように見えるのは、多分気のせいじゃないな。


「もっとも、素直にお話しいただけないなら生活が不便になっていくことでしょうが」

「~~~!」


 あ、全員同時にこくこくこくと頷いた。多分、事情聴取はサクサク進むだろ。進まなかったら誰か、どこかの骨折られそうだし……アリッサに。

 こういうのは、一番非力そうに見えるアリッサがその力を見せてやるのが一番効果的だからな。事実、兄上ダニエルゲイルはアリッサより強いんだけどさ。

 そんな事を考えていると、別邸を取り仕切っているメイドさんがひょっこり顔を出した。


「メイコール様、ナルハ様。マルカ様が、レオパルド公爵のご子息をお連れしておりますが」

「ありがとう。通してくれ」


 うん? レオパルド公爵のご子息? ……っておい、近衛隊の小隊長じゃねえか。兄上たちがお世話になってる。


「お連れしましたー」

「失礼するぞ。これはまた、面白いものが転がっているな」


 うわ、ほんとに小隊長じゃねえか。エセ貴族どもを見てそんなこと言ってるってことは……うん、あきらめよう。俺の周り、こんな人ばっかりだ。ひとまず、挨拶はしないとね。


「まあ、小隊長様。よくおいでくださいました……こちら裏口なんです、すみません」

「ガレルで構いませんよ、ナルハ嬢。それに、こういった荷物はあまり表から入れたくないでしょうからな」


 あっはっは、何か話が合ったぞ。確かにこういうのって、表玄関から運び込みたくないよなあ。ちゃんとしたお客さまじゃないわけだし。


「わざわざお呼び立てして申し訳ありません、小隊長」

「いや。事情はマルカから聞いているのでな、致し方なかろう」


 あのメイコール兄上が、当たり前のように頭を下げて普通の人っぽく振る舞っているのがちょっと不思議。なんだけどまあ、外面よくないと貴族ってめんどくさいからな。そういうことできないのが、例えばあのアマンダさんになるわけで。

 まあ、そこらへんは兄上もちゃんと近衛隊でがんばれてるんだな、と思えばいい話だ。


「王都で良からぬことを企んでいたのだ、背後に何があるかわからんからな?」


 この小隊長……ガレルが見せた笑顔は、露骨に敵見つけた好戦的な獣だった。あー、白目剥いたやつがいるな。ご愁傷さま、目が覚めてもこれは現実だから消えないぞ。


「では、然るべきお部屋に連行いたしますので、一緒においでください」

「了解した。ナルハ嬢、アリッサ嬢はゆっくりお休みなさいませ。大変だったでしょうからな」

「お心遣い、痛み入ります」


 兄上の言葉に頷いて、ガレルは俺たちに気遣う言葉を掛けてくれた。……俺はいいんだけど、アリッサは多分そうでもないと思う。


「すまないね、ナルハ。少し休んでいてくれ。マルカ、一人くらいは運んできてくれよ?」

「一番軽いのでいいですかあ?」


 軽口叩きつつ、マルカは本当に一番ちっこい一人を小脇に抱えた。ダニエルが二人……あとは兄上、ゲイル、ガレルがひょいひょいひょいと担いだり襟掴んだり足首掴んだりして、そのまま持っていった。一部引きずっていった、とも言う。

 それを呆れつつ見送って、俺はアリッサに尋ねてみた。一応、確認な。


「……アリッサ、大変でした?」

「いえ、楽しかったです」

「でしょうねえ」


 ですよねー。

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