047.休みが明ける前に

 しばらくして、近衛隊の人たちがやってきた。エセ貴族を近衛隊の駐屯所までお持ち帰りして、あちらでも『穏便に』お話ししていただくためである。俺を襲ったのが悪いんだから、諦めて全部話しちまえ。うけけけけ。


「では、遠慮なく引き取っていくぞ」

「はい」

「どうぞどうぞ」


 兄上とダニエルはちゃんと休暇中なので、このまま別邸に居残りとのこと。エセ貴族たちに、早めにお話ししなければこの二人が帰ってくるぞといえば情報収集もスムーズになるのでは、とはゲイルのご意見である。兄上たち、脅しになるのか。なるだろうなあ、何したのか知らないけど。


「……メイコール、ダニエル。おまえたちは、それでいいのか?」


 ガレルが兄上たちに、何か尋ねてる。はて、何がそれでいいのか、なんだろう。俺にはちょっと、分からない……だけど、二人には分かるみたいだな。同時に「はい」と大きく頷いたから。そうして、ダニエルが言葉を続ける。


「結局のところ、王都で住民を拉致しようとした犯罪者ですので。それに、こちらはある程度気が済みましたから」

「だろうなあ」


 ああ、エセ貴族たちをあっさり近衛隊に引き渡してよかったのか、か。……食事に出てきたときにとってもスッキリした顔してたから、それなりに納得はしたんだろう。

 でも、近衛隊って二人の勤務先でもあるわけで。休暇終わったら、兄上たちはあの宿舎に帰っていくんだし。エセ貴族ども、その前に口を割りまくったほうがきっと、自分の身は安全だぞ。

 そんな事を考えていると、他の近衛隊の人たちがエセ貴族どもを引き立てて行くのが目に入った。ロープでしっかり縛られて、とぼとぼと歩かされている様子は何というか、しょぼい。


「歩かせるのですか?」

「犯罪者だからな、見せしめだ」


 アリッサが尋ねて、ゲイルが答える。ああ、犯罪者はこうなるぞーしょぼいぞーと見世物にするわけね。こういう世界だと、人権意識とか低いだろうしな。

 うん、でも全員が捕まってるならいいけれどコイツラの場合、黒幕がいるわけで。


「黒幕などがアレを見たら、逃げる準備をするのではありませんか?」

「そのあたりはまあ、大丈夫だろう。メイコールたちが飛び出した時点で手配はしておいたし、食事の前に進ませておいたからな」


 ガレルの答えに、アレっと思った。いや、ひどく手際が良いなと思ったんだよ。ま、アマンダさんのこともあったから色々調べてたんだろうけどさ。

 ……そうすると、手配された先ってもしかしなくても、あそこか。


「……もしや、カロンドとシャナキュラスの別邸ですか」

「確かにナルハ嬢、あなたは勘が良い方だ」


 お、正解だったらしい。……あれ、でもカロンドの別邸ってフィーデルとお母さんがいるんじゃなかったっけ?

 ふと気づいた俺が目を向けると、ガレルも何か気がついたらしい。


「ああ、カロンドというよりは正妻が使うスーロードの別邸があってね。そちらだ」

「まあ、ご実家頼りだったのですね」


 あーそっちかよ、よかったよかった。つーか、マジで実家に頼ってやがんな。

 フィーデルたちは大丈夫そうだけど、シャナキュラスって……あ、今週は確かランディアは寮に残ってたっけ。


「アリッサ。ランディア様は寮でしたわよね」

「はい。ナルハ様に座学の成績が負けているので、居残り自習だそうです」

「そう……頑張っていただきたいものですわ」


 あーよかった。それなら、別邸が近衛隊に踏み込まれたところにランディアはいなかったわけだ。いや、あいつ自身は悪いやつじゃないから、実家の面倒に巻き込まれても困るだろ。

 今後はどうなるか、わかんないけどさ。


「では、失礼する。メイコール、ダニエル、ナルハ嬢とアリッサ嬢のケアをよろしくな」

「は。ありがとうございます、小隊長」

「週明けには戻りますので、それまでよろしくお願いします」

「ああ。ではな」

「お疲れ様でございます」


 そんな事を考えている間にガレルと近衛隊、そしてエセ貴族一同はうちを後にした。あのままぞろぞろと、近衛隊本拠地まで歩いていくんだろうな……ま、頑張れよいろんな意味で。

 それから、こっちもちょっと何とかしないとな。


「……アリッサ」

「は」

「週明けには、カロンドとシャナキュラスのことは噂になっていると思うの。フィーデル様とランディア様のフォローはして差し上げたいから、よろしくね」

「お任せくださいませ。ナルハ様のお優しさにわたくし、やる気が湧き上がりますわ!」


 アリッサがものすごーくやる気になってくれたのはいいけど……さて、フォローと言っても何するべきかね? 事実は分かってるけどさ。

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