036.姫君と御庭番
翌朝、ルームサービスの形で朝食を取りながら手紙の内容をある程度アリッサに伝えた。いや、さすがにダニエルのらぶらぶ内容は話してないけどさ。
「まあまあ、それはそれはお幸せそうで何よりですわ」
「そ、そう?」
話してなくても、俺の顔でバレてるらしい。うん、まあ自分の顔が緩んでいるのは自覚してるけどさ。
「まあ、ダニエル様の方は問題なさそうで良かったですが」
くすり、と笑ってアリッサは食後のお茶を淹れてくれた。この後登校することもあり、割と朝早いんだよね。前世よりもご飯、のんびり食べるから。
「シャナキュラスとカロンド、スーロードですね」
「そうね。表立って何かをするわけでもないでしょうから、こちらも動きにくいのではないかしら」
「そこはご安心くださいませ、ナルハ様」
アリッサが挙げた三つの家。俺からダニエルを奪う気満々のそいつらに対し、俺自身は何の力もなく抵抗することも出来ない。つーか文句言ったところで何か証拠でもあるのか、って反撃されるのが関の山だ。
だけど、アリッサは自信たっぷりの笑みを浮かべて、ぶっちゃけてくれた。
「我がセファイア家の総力を持って、陰謀は叩き潰してご覧に入れましょう」
「あ、ありがとう……え、セファイアの総力?」
「はい」
あーいやちょっと待て、ゲイルとアリッサだけならまだしも何で、『セファイア家の総力』なんて言葉が出てくるんだ?
「セファイア家は男爵家として貴族の一角を担っている家でありますが、同時にグラントールの分家として本家を支える柱でもあります」
「ええ、それは存じております」
「その本家たるグラントールに仇なす者は、セファイアが排除すべき敵なのですよ。これは我が父も、次期当主たる一のお兄様も同様に考えております」
「……あ、ありがとう……」
……そうだ、セファイアの家ってゲイルとアリッサを生み出した家なんだ。今の当主であるセファイア男爵や、ゲイルたちのお兄さんに当たる次期当主の……えーとニール様だっけ。彼らがゲイルたちと同じ思考回路持ってないわけがなかったんだ、わーお。
「昨晩、兄やメイコール様より既に詳細な情報を得ております。既に兄からは、セファイア家にも同じ情報を渡しているとのことです」
「早いわね」
「セファイア本家でも情報の精査を行いますので、急いだほうが良いのです」
「なるほど。何重にもチェックするというわけですのね」
「はい」
セファイア本家の話ってわたしはちゃんと聞いたことがほとんどないのだけれど、これはもう丸投げでいいんじゃないかなー、と思った。どう考えても、グラントール付きの忍者一家みたいなものじゃねえか。ゲイルが嫡男付き、アリッサが俺付きの御庭番とか、そういう感じ。
ん、そういうことなら俺の意見をアリッサに聞いてもらってもいいわけか。よし。
「……これはまったくの、個人的な意見なのだけれど」
「はい」
「シャナキュラスの陰謀には、ランディア様は関わっていないんじゃないかしら」
「どうしてそう、思われますか?」
「だってあの方、そういう陰謀に加担しているとして顔に出ないと思う?」
「思いませんね」
ですよねー。
ダニエルへの感情を、俺の前ですら隠さないんだもの。というかランディアは、もともとそういう性格なんだと思う。隠し事のできない、あけっぴろげな性格。
だから、多分シャナキュラスの本家は、ランディアに伝えていないことがあるだろう。もしかしたら、ポルカの方は知ってるかもしれないけどさ。俺がシャナキュラスの当主なら、いろいろ謀っていることをランディアには伝えない。
「……なるほど。家のほうが、ランディア様の動きなどを利用している可能性はありますか」
「そう。わたしがランディア様を甘く見ているのかもしれないから、話半分でお願いね」
「は。ですが、ランディア様が陰謀に加担しておられないとなれば対処も変わってきましょう。そちらの方も、調査しておきます」
「ええ、お願い」
もしランディアが何も知らないのなら、親や親戚たちの迷惑や陰謀からできるだけ守ってやれないかな、とは思うんだ。
ポルカがアリッサみたいにランディアに忠実ならいいんだけど、シャナキュラスの家に忠実だってこともあるからな。
……何で俺は、ランディアのことなんて心配してやってるんだろうな?
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