033.おみやげ

「戻りました!」

「はわっ」


 突然のアリッサの言葉に、慌てて跳ね起きる。いや、彼女のことだからちゃんとノックして入ってきたんだろうけど、俺が気づかなかったわけだ。なんか、こっ恥ずかしいな、俺。


「いかがなさいましたか? ナルハ様」

「い、いいえ、何でもありませんわ」


 キョトンとこっちを見ているアリッサに、慌ててかぶりを振る。ご、ごまかせたかな、と思ったのは一瞬で。


「そうですか。わたくしとしては、ダニエル様のことを思い浮かべてベッドの上でゴロゴロしておられたのかと思ったのですが」

「うっ」


 ですよねー。全力でバレてますよねー。多分、顔とか赤くなってると思うんだ。あーもう、ここは乙女モードになって枕で顔を隠そう。多分意味ないけど。


「そのダニエル様より、お手紙が届いておりました。また、メイコール様からのものもございます」

「え。あ、ありがとう」


 おー、ダニエルと兄上から手紙か。色々、調査した結果とか出てきてるんだろうな。

 テーブルに置かれた手紙は、ダニエルのほうがちょっと薄めで兄上の方は夏休みの宿題レポートかなんかか、くらいの厚みがある。やっぱり調査結果だな、あれ。


「いえ。それから、ご所望のチョコクッキーとおまけにいただきましたプチショコラになります」

「あら、おまけいただけたの?」

「閉店直前でして。ナルハ様にはいつもお世話になっておりますから、と」


 やった。あのお店のチョコシリーズ、大好きなんだよなあ。

 鳴火のときは甘すぎるチョコは好きじゃなくて、カカオが七十五パーセント以上のやつを食ってたんだけどさ。ナルハになってからはそこそこ甘めのものもいけるようになって、アリッサが買ってきてくれたチョコクッキーもおまけのプチショコラもミルクチョコくらいの甘さ。さっぱりしたお茶で食うのがうまいんだ、これが。


「アリッサ、半分持っていってくださいな。独り占めはできないわ」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えまして」


 独り占めできない、という理由でアリッサに半分やったのは……あーまー、ほらカロリーな。この世界、学園の制服は良いんだけどパーティとかでドレス着る時はコルセット必須、つまりある程度痩せてないとぎゅうと締められて苦しいんだよね。

 痩せるには運動するか食べすぎないかだから、俺は基本後者を選んでいる。アリッサは露骨に前者だな。


「では、こちら失礼いたします。ナルハ様も、早めにおやすみなさいませ」

「ええ、手紙を読ませていただいたら休むわね。おやすみなさい、アリッサ」

「おやすみなさいませ、ナルハ様」


 チョコシリーズを抱えて、そそくさとアリッサは退室した。一応ベッドルームは別というか、侍従用の居室で寝てるんだよねアリッサ。これが普通だから、と本人はケロッとしてるけど。

 ……まあ、侍従用の部屋でも前世の俺の部屋より広いけどな。貴族が通う学園の寮なんて、こういうもんだ。これが庶民の家になると、寮の一室……侍従の部屋とリビングとベッドルーム、で大体一家族が住めるくらいの大きさ。田舎に行くとベッドルームくらいの部屋で住んでる家族も当たり前、になってくるらしい。

 田舎のほうが土地広そうなんだけど、土地があったら田畑にしたいとか家畜入れたいとか、そういうことになるらしい。そこら辺は俺、よくわからん。

 何だかんだ言っても、部屋の広さは今更だしな。そう思いつつ俺は、兄上とダニエルからの手紙を手にとった。それぞれに、封筒に俺の名前が書いてある。……アリッサ宛にもあったのかもしれないな。俺に見せられない内容とか、ゲイルからの手紙とか。


「さて、兄上の方から」


 好物は後に取っておくたちである。なので、ダニエルからの手紙は後のお楽しみに残しておいてまずは、兄上の推定なにがしかの調査レポートから見ることにしよう。

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