024.ランチボックス

 学園での生活、ってのは前世のときも今でもそんなに変わらない、と個人的には思う。前世の時は寮生活じゃなかったけど、学生食堂で飯食ったりするのは一緒だしな。

 あと、近くのコンビニで弁当買って食ったりもしたもんだが、それに似たようなことはこの学園でもできるわけだ、これが。


「いただきます」

「いただきます」


 今日は天気がいいので、園内の売店でランチボックスを買って花壇の側のベンチで食べることにした。まあ前世で言う弁当なわけだけど、貴族に食わせる弁当だからな。

 入れ物はしっかりした木の器で、その中に陶器の小鉢がいくつか並んでいる。俺は食ったことないけど松花堂弁当とかあんな感じに、小分けにされたおかずやフルーツがきれいに詰め合わされてるんだよね。パン、というかプチケーキがどうやら、主食代わりらしい。


「このランチボックスって、コンパクトにまとまっていて便利ですねえ」

「そうですわね。彩りも鮮やかですし、こうやってお庭でお食事というのもたまには楽しいですわ」


 アリッサと二人で、舌鼓をうつ。飲み物はこじんまりした陶器のボトルに入ったハーブティ、ランチボックスとセットになっている。ボックスとボトルは返却し、洗って再利用するんだそうだ。まあ、陶器なら割れない限り結構長く使えるし、いいんじゃねえかな。


「領地だとたまにピクニックなどで使いますけど、学園の中で使うとは思いませんでした」

「貴族たるもの、いついかなる場所でもそれなりにマナーを守らなくてはね。そういう練習の場、ということなのではないかしら」

「なるほど」


 貴族がいつでも食堂のテーブルで、テーブルマナーに従って飯を食うわけじゃない。今みたいに外出先でランチボックスで頂いたり、庶民の家でシンプルな一汁一菜……どころか一汁だけごちそうになることだってある。兵士になった者なら携帯食とか、下手すると現地調達だってやらなきゃならないだろう。

 そういったいろんな食事に慣れるべく、学園での食事はバリエーションがある。食堂以外に売店や、男子生徒が狩猟などの実務授業を行った後はバーベキューなんてこともあるんだぞ。個人的にはバーベキューが楽しみなんだが、なかなか機会がないなあ。


「こ、こちらよろしいかしら?」

「へ」


 いきなり声をかけられて、変な返事が出てしまった。いや、聞き慣れた声なんだけど意外性が、な。


「ランディア様、ポルカ様」

「構いませんわよ。ベンチならたくさんありますから、わたしたちに許しを得るまでもないかと」

「そ、そうですわね。おられたので、声をかけただけですわ」

「はいはい、ランディア様。あちらで食べましょう、ちょうどきれいな花が咲いてますよー」

「ええ、分かったわ。では、失礼」


 いってらっしゃーい、とランディア主従を見送る俺とアリッサ。ちょっと離れたベンチに座り、俺たちと同じランチボックスを広げる。ていうかあんたら、食堂以外で飯食うの初めてな気がするぞ。


「ランディア様たち、今までランチボックス買われたことないですよね?」

「わたしは見た記憶がないから、多分……」


 アリッサが聞いてくるくらいだから、俺たちが見てる範囲では初めてなわけだ。やっぱりな。

 何か、考えることでもあったんだろうか?


「まあ、美味しいですわ」

「そりゃそうですよ、学園に入ってる業者なんですから。美味しいに決まってます」

「それはそうですけど!」


 相変わらずポルカはやる気ねえなあ。あれでよく、ランディアの側付きが務まる……いや、あのくらいのほうがランディアにはいいのかな? 何だかんだで、ちゃんと面倒見て見られて、してるし。


「お口に合ったみたいね。よかったわ」

「ここでぎゃあぎゃあ文句言われても、困りますもんね」


 のんびりアリッサと言葉をかわしながら、もぐもぐとランチボックスの中身を頬張る。うん、シンプルな味付けが逆に美味えわ。


「ん、ぐぐぐ」

「喉詰めるなんて珍しいですねえ。お茶どうぞ、ランディア様」

「んく、んくっ……あ、ありがとう、ポルカ」


 どんな食い方したんだランディア、と突っ込む気にもならない。本当に、ポルカはちゃんとランディアの面倒見てるんだな。傍から見てると、めっちゃやる気なさげだけど。

 花壇の花を愛でるつもりが、ランディアとポルカのコント劇場を見物しながらのお昼になってしまったなあ。ま、面白いからいいけど。

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