019.めんどくさい休日
どたばた学園生活は、平和に過ぎていっている。今日は一ヶ月経ったところで、一度は戻ってみるかということでアリッサを連れて別邸で休日を過ごすことにしている。
……でまあ一応さ、ダニエルにそうしようかと思ってるって手紙出したわけよ。そうしたら。
「学園は楽しいかな?」
「ええ、とても」
「アリッサ嬢が一緒にいるのだから、俺たちも安心してはいるんだけどね。でも、こうやって顔を見られるとほっとするよ」
「入学式当日のせいで、今まで外出禁止令が出ていましたからね。我々」
「メイコール様やダニエル様はいいんですけど、俺まで巻き込まれるのは勘弁してほしいですよ」
のんびりとしたお茶の席。ダニエルとマルカは当然いるとして、兄上やゲイルまで一緒に来てるんだな、これが。いや、グラントールの別邸なんだから兄上一行がいてもおかしくないんだけど。
というか、顔を見なかった理由が外出禁止令かよ。兄馬鹿婚約者馬鹿に、あのガレル小隊長が呆れ果てた結果かもしれないなあ。やれやれ、あの後クラスで色々冷やかされたんだぞ。ざまーみろ、主に兄上。
「ぶっちゃけ、ランディア様のコントを見てるのが一番楽しいですね」
「コント?」
「兄上たちがおいでに来られたときの言動を思い出してくだされば、お分かりになるかと」
「ああ、あれかあ」
兄上、あっさり納得しやがった。この世界でも一応コント、という単語は通じる。芸人はいるからね、その中に話術を駆使する者や寸劇を演じる者だっているわけだ。
「まだやってるのかい? 彼女」
「まったく懲りておりません」
ダニエルの問いには、アリッサが端的に答えてくれる。いやもう、ずっとあの調子だもん。楽しくて楽しくて……でも、少しは成長しろよランディア。主にポルカが肩落としてげんなりしてるから。
「まあ、数年レベルで懲りてないものを入学からほんの一ヶ月で懲りるわけもないか」
「ただ、おかしな方向に走りますので見てる分には楽しいですよ? 特に誰かに害があるわけでもないですし」
「程々にしておいてやれよ?」
だよな、兄上。数年間、似たようなパターンでダニエルに迫ってきてるわけなんだし。学園に来てからたったの一ヶ月、それで変化があるわけないよな。
でもダニエル、あんたが迫られてるんだから程々じゃなくてもよくね? ……と思ってたら。
「シャナキュラスの取り巻き組が、そろそろうるさくなってきてね」
「ダニエル様の方に、ですか?」
「そう、こっち」
こっちって、近衛隊のほうかよ。ダニエル側に、直接アタックしてくる方法があるってのか……ああ、本人じゃなくてもいいんだ。
「近衛隊にも、王城にもシャナキュラス派閥の者はいるからね」
「もちろん、グラントール派閥もいるけれど」
ダニエルが肩をすくめて、兄上が楽しそうに笑いながら答えを教えてくれる。隊の内部で派閥争いが勃発してんのか、めんどくせえなおい。というか先輩方とかも介入してきてるってことか? マジ、めんどくせえな……。
「それと、王族が面白がって中立の立場を宣言してね……」
「は?」
「近衛隊に、王弟殿下のご子息が所属しておられます」
「あ、何か微妙な立場ですねえ」
「微妙だろう」
おお、もっとめんどくさいのがいるのか、ありがとうゲイル。というか王族の人、面白がってていいのかよ。自分の親戚守るための部隊だぞ、内部がごちゃごちゃしてて仕事手抜きとかになったらどうするつもりだろうな?
「ですが、どうしてその御方が面白がるのですか?」
そう、俺としてはそもそもそこが疑問だ。何で貴族の婚約者争い……あ、面白そうだな。でも、自分には関係ないんじゃないの?
「クライズが侯爵家だから、でしょう」
「それなりに有力な家柄だからね、その奥方にグラントールとシャナキュラスのどちらがつくかで貴族の勢力図にも影響が出る」
そこにはマルカ、そしてダニエルがあっさり答える。だあ、後々の貴族同士の覇権争いみたいなことか!
「それで、シャナキュラス派閥が躍起になっておられるのですね」
「そういうこと。……何の気兼ねもなく、ナルハを迎え入れたいのになあ」
いやもう、ダニエルが本気でそういうこと言ってくれるのだけが救いだよ。勢力争いなんて、巻き込まれるだろうってのは分かってるけど本当にめんどくさいんだからな!
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