018.たのしい学園生活

 さてさて。

 学園ていうのは、要するにいろんな勉強をするところである。うちの国の貴族の場合、基本的な教育は家庭教師に教わるもんだ。一部の大商人とかも、金にあかせて良い教師を呼ぶみたいだな。

 平民は寺子屋とかで、基本的な読み書き計算は教えてもらえるらしい。文字が読めないとできない仕事とかあるし、そうでなくても作業をメモとかで渡されたりもするからな。計算は、足し算引き算はできるようにしてるようだ。俺、この世界で平民だったことないから詳しくは知らないけれど。

 では学園では何を学ぶかというと、もっと難しいこと。例えば国の歴史とか、昔の本を読むための難しい言葉……日本だとアレか、古文とか。貴族としてのマナーも、基本は家で教わってるけど国王陛下とかにお会いするときの礼儀、なんてものはここで学ぶ。失礼があったらねー、家格の引き下げやら家の取り潰しとかいろいろあるしねー。


「幼い頃、兄上がよく読み聞かせをしてくださいましたので、自然に文字は覚えましたわ」

「文字くらい、家庭教師に教われば誰でも覚えますわ」


 まあそこら辺はいいんだけど、どういうわけかランディアがせっせと対抗してくるんだよなあ。いや、基本的な学力そんなに変わらないと思うぞ? 入学してすぐの小テスト、似たりよったりの点数だったじゃねえか。


「でもランディア様、もっと丁寧に書きなさいっていつも言われてましたよね?」

「ぽ、ポルカお黙りなさい!」

「焦って書かなくとも、ペンも紙も逃げませんわ。ランディア様」

「インクは乾きますけれどねー」

「アリッサも、少し黙りましょうか」


 で、なぜか俺たちにポルカまで含めてランディアへのツッコミ三昧になっている。てかポルカ、あんたはランディアの側付きだろうが。味方してやれよ、ご主人だろ一応?

 例えば、計算テストの場合。素直に言うけど、これはランディアのほうがわたしより点数が良かった。


「計算のテストは、わたくしのほうが良かったですわよね」

「そうですね。計算は、アリッサのほうが得意ですので」

「はい! お買い物のときにナルハ様のお手をわずらわせることのないように、足し算引き算掛け算割り算はがっつりと!」


 買い物、一応自分の手でやったことはあるというか、学園内だとそうしないといけないんだよね。

 値段は前世みたいに税別とかじゃないんで計算は楽なんだけど、俺がこれとこれとって品物手にとってる間に横でアリッサが全部計算済ませちまってるんだよ。自分でも一応暗算するけど、きっちり合ってるのはさすが。


「あ、あーら。お付きに計算をさせるなんて」

「ランディア様だって、お買い物のときは私に計算任せてるじゃないですか……」

「ポルカ!」


 ああ、ランディアもそうだよな。というか、お付きとか部下とか連れてる場合って大体面倒なことはそっちにやらせるもん、らしい。買い物の計算とか、小銭の勘定とかそういうの。自分でやろうとしたら貧乏くさいとか言われることもあるらしいぜ、めんどくさいな貴族。いやまあ、学園内だと自分でやることも多いから大丈夫なんだけど、外に出ると見栄を張るから。

 ……例えば、乗馬の話になったとき。実はそんなに得意じゃない。馬が乗せてくれる、って感じだな、俺の場合。

 そこに気づいたランディア、さすがに上から目線だったけどさ。


「ほほほ。馬でしたら、子供の頃から乗っておりますわ!」

「羨ましいですわ。自分で手綱を取って進めるのは、楽しいですものね」

「そうなんですの。」

「一応乗馬も嗜んでおりますけれど、基本的に移動は馬車ですし……その、ダニエルがよく一緒に乗せてくださいますので」

「うきー!」


 乗馬って貴族の嗜みの一つだから、それなりにマスターはしてるよ。でも、普段の移動は馬車なんだし、あんまりうまくなくてもまあ何とかなる。というかダニエルだけじゃなくて、兄上も乗せてくれるんだよね。……自分でもちゃんと乗りたいけどさ、本当は。

 ……馬車といえばあの事故なんだけど、幸い兄上やゲイルが守ってくれてたせいか大してトラウマにはなってないみたいだ。ここに来るときも馬車で普通にやって来られたし。

 まあそれはともかくとして、後はあれだ、食事の時間。寮なので食堂でとるのが基本で、皆でもぐもぐいただく。いただきます、の挨拶の代わりに軽く神様に祈ってから食べ始めるのがこの国でのマナーだ。


「ん、美味しいですわねアリッサ」

「本当に。このソース、味に深みがあって肉に合いますわ」


 貴族が通う学園の食事だけあって、なかなかレベルは高いと思う。いや、詳しいことはわかんなくてもいいや。美味しいものは美味しい、それでいいじゃねえか。なあ?

 そしたら、空いてた隣にランディアたちが座って、同じように食べ始めて。


「寮の食事ですし…………………………美味しい」

「このクラスの食事を毎日できるのであれば、何の問題もなくないですかランディア様?」

「そうね……」


 ほほう、最初は文句つけるつもりだったな?

 いやほんと、ちゃんと美味しいから何の問題もないぞ。やったね。

 ……ひとまずあれから、兄上やダニエルの襲撃は止まってるし平和だ。ちょっと物足りないけど。いやいやいや。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る