020.あまり色気のない話

 俺ことナルハは、ダニエルの婚約者である。鳴火の意識が出てくる前からそうだし、正直今でもオールオッケーとか思えてしまえるくらいにはダニエルのことを好きである。なお、好きの種類は聞くな。

 ま、そういうわけでほんの少しの間、婚約者どうしの語らいの時間をもたせてもらえることになった。


「では、わたくしは失礼いたします」

「俺も失礼します。ごゆっくり」

「ははは。気遣い、ありがとう」

「ゆっくりいたしますわ」


 笑顔で、アリッサとマルカを部屋から送り出すというか追い出す。どうせお前ら、兄上やゲイルと何か作戦でも練るんだろ。ランディアとか、シャナキュラス周辺を『穏便に』引っ剥がす作戦……ま、俺知らね。


「ダニエル様は侯爵家の嫡男ですし、おモテになるのも分かります」


 それはそれとして、ナルハとしてはダニエルにそういう勢力がへばりつくのは不満である。ので、ちょっと頬を膨らませて文句の一つも言ってみた。ダニエルが、爽やかな笑顔で流してくれると分かってて、だけどな。


「でも俺は、ナルハ一筋だからね」

「それもよく存じております。わたしだって、ダニエル様一筋ですもの」

「ありがとう、ナルハ」


 うんまあ予想通りの答えだったし。なので、わたしも同じ答えを返す。だって、本当のことだものね。


「ランディア嬢が迷惑をかけているみたいだね。済まない」

「いえ。ダニエル様はいつも、はっきりおっしゃってくださってますから」


 ダニエルの手が、さらさらと頭を撫でてくださる。撫でられておとなしくなる猫や犬の気持ち、よく分かるわー。

 まあそれはそれとして、ほんとランディアはしつこいんだよな。毎回、ダニエルがきっぱり断り続けてるってのにさ。


「ランディア様が、聞き入れてくださらないだけですわ」

「そこが最大の迷惑だよね、ほんとに」


 本人の意地か家の意地か、はたまた周囲から煽られているのか。王弟殿下のご子息だっけ、近衛隊にいる王家の人は本気で面白がって見てるんだろうなあ。うんまあ、俺も当事者じゃなきゃ面白いとか考えてるかもな。

 実際、アニメやドラマや小説ならこの先どうなるんだろう、なんて思うんだろうが……いいよな第三者は。くそー。

 ……ああ、巻き添え食って大変なやつ、俺たち以外にもいたな。一応、ダニエルには伝えとくか。


「ただ……ランディア様についておられるポルカ様は、おそらくご理解くださっているのではないかと」

「ポルカ? ああ、フラギア男爵家の」

「はい。ランディア様の首根っこ捕まえて止めてくださったり、折に触れてたしなめてくださってますから」

「シャナキュラスの事業に携わってる関係か……大変だね、彼女も」

「そうですわね……」


 あれ、しれっと首根っことか言っちゃったけど、そこはスルーなのかダニエル・クライズ。いや、ツッコまれても困るからいいけど。

 それと、フラギア家がシャナキュラス家の事業に関わってるってのはダニエルも知ってたか。……知ってて当然の関係、なんだよな。

 俺にアリッサがついてても誰も何も言わないのは、グラントール家とセファイア家が親戚でうちの方が立場が上だ、っていうのを皆知ってるからだ。ランディアとポルカも、同じようなことなんだと思う。

 とはいえナルハは知らなかったから、こういろいろあるんだろう。もしくは父上や兄上あたりは知ってても言わなかったか。あ、何となく後者だな。理由はないけれど、間違いない。


「まあ、君にはアリッサ嬢がついていてくれるから大丈夫、だと思う。他にも、グラントールに近い家の者たちはいるからね」

「そうみたい、ですね。わたしは詳しく知らないのですが」

「……メイコールめ、俺か自分を頼らせたいのかな。ナルハにだって、数多くの友人は必要なのにね」


 あ、シスコン兄、やっぱ病的なとこあったか? グラントール派閥がいるんなら、先に教えておいてくれよなあ。

 だいたいお前、ダニエルもそうだけど、近衛隊なんだからそうそう学園に来られないだろうが。そうでなくても今まで一ヶ月、外出禁止令が出ていたんだろうが。

 どうせ助けに来てくれるんなら、ダニエルの方がいいんだけどな。ナルハとしては。……鳴火としても、鳴霞に助けに来られるとその何だ、もと兄貴としてプライドが……いやもうそんなもんどっか行ったか。


「アリッサに伺いますわ。わたしとしても、味方を増やしておきたいですから」

「そうだね。俺は後で、メイコールを叱っておくから」

「うふふ、よろしくお願いしますね」


 ほんとダニエル、馬鹿兄上をしっかりたっぷり説教しておいてくれよ。俺の無知が原因でダニエルに何かあったら、全責任をメイコールに背負ってもらうからなー!

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