016.恋は体当たり、未遂

 あー。

 ランディアがひと騒ぎ起こしてくれた以外はほぼ平和に、入学式は終了した。さすがのランディアもこれから一緒に学園生活送る仲間の前でこっ恥ずかしいことしたってのは理解できたみたいで、今はおとなしいもんだ。

 一時的なもんだと思うけどな! 頑張れポルカ!

 なんてことを考えたところで。


「……アリッサ」

「はい」


 当然のように横にいてくれてるアリッサに、俺は声をかけた。ランディアにとってのポルカは、俺にとってのアリッサなんだよな。


「あなたがいてくれて、本当に良かったわ。心強くて、助かります」

「!」


 だからお礼を言ったら、すっごく顔を真赤にした。んー、何かクリティカルしたかな? まあ、兄上とダニエルに並ぶくらい俺、というかナルハラブなことは分かってるんだけど。


「これからもよろしくね」

「もちろんです!」


 でもまあ、お世話になってるのは事実だからちゃんとお礼と、こんごともよろしくのご挨拶はして損はなかった。アリッサも、めっちゃやる気出してるし。

 あ、そういえば……ポルカって、別にランディアとこの親戚じゃなかったよな。フラギア男爵家とシャナキュラス伯爵家、もしかしたらどこかでつながってるかもしれないけどいわゆる『親戚』ではなかったはずだ。


「アリッサはわたしと親戚ですけれど、あのポルカ様はどういった関わりでランディア様の側付きになられたのかしら?」

「ああ、お家の事情だったはずですよ。たしか、シャナキュラス家の行っている事業にフラギア家が関わっているという話だったかと」

「なるほど。親御さんのお仕事絡みですのね……」


 ふと口に出した疑問だったけど、アリッサが答えを持っててくれて助かった。要するに、上司の娘を部下の娘が面倒見てるわけか。

 こういう世界だと下っ端は苦労するなあ、もう。

 ……人のことは言えないか。俺は、親戚の娘さんに面倒見てもらってるわけなんだから。兄上の立場だったとしてもゲイルに面倒見られてるから、結局変化はない気がするけど。あ、でも俺は別にシスコンじゃなかったし、現世でもブラコンじゃねえ、はずだ。




『ナルハ、入学おめでとう!』

「わっ!」


 入学式の後、学園内の施設を見て回っているときになぜか、ここにいないはずの方々に出会ってしまった。もちろん兄上とダニエル、おつきのゲイル&マルカ付きだ。


「……お兄様、お疲れさまです」

「ありがとう、アリッサ。お前も入学おめでとう」

「ありがとうございます」


 あ、アリッサがゲイルのこといたわってる。マジか……いやいや、兄妹としては仲がいいみたいだし、何も問題はない。

 問題があるのは、今俺におめでとう言ってくれたこの二人だよ。何やってんだあんたら。


「兄上、ダニエル様! 近衛隊の方はいかがなさったのですか!」

「入隊式はきちんと終えたよ?」

「任務の一つとして、王都の街並みを覚えなくてはいけないんだ。それで」


 満面の笑みを見せてくる兄上とダニエル、顔面偏差値が上限突破してるせいで周囲の、特に女の子の目の色が違う。いやまあ分かるけど……ダニエルには俺がいるし、兄上に近づくためにはあのシスコンを理解しないといけないぞ?

 それはともかく、まあ任務というのは分かる。近衛隊って王家を守る部隊だけど、基本的に王家の人たちは王都にいるんだからそこのマップ覚えないと話にならない、ってことだろ。

 嫌でもお前ら、つまりさ。


「街並みそっちのけで、まっすぐ学園までおいでになりました?」

「何で分かるんだ? なあ、ダニエル!」

「いや分かるだろ」

「行動パターンを知っていれば分かりますよ」

「わからないほうがおかしいです、メイコール様」


 メイコール兄上、本気で分からなかったんですか大丈夫シスコン兄。ダニエルとゲイルとマルカにまとめてツッコまれても、目を丸くしてぽかんとしてるのはおかしいじゃねえか。それからダニエル、お前も同類だ同類。

 ……って、ダニエルがいるとなると。


「ダニエル様あ!」

「はいそこまでですランディア様」


 つかつか早足で突進してきたランディアが、アリッサに腰のところで持ち上げられてひょいと横に避けられた。まるで何か置いてあった荷物避ける、くらいの気軽さで。


「な、何をなさるの!」

「ダニエル様に体当たりされても困りますので」

「あの勢いだと、そー思いますよねえ……」


 ああうん、ランディアとしてはあわよくばダニエルに抱きつこう、とかそういう魂胆だったんだろうけど。何も知らなきゃ、本当に体当たりする勢いで突っ込んできてたからなあ。アリッサの答えはもっともだし、あとを追いかけてきたポルカの感想がきっと皆の感想だ。

 そうして当のダニエル……より先に、兄上がイケメンの笑顔をさっと作ってランディアに問いかけた。


「私の親友に何かご用かな? シャナキュラスのお嬢さん」

「グラントールに用はありませんわ! わ、わたくしはダニエル様にっ」

「ごめん、俺はシャナキュラスに用はないよ。特にランディア嬢、君にはね」


 で、ランディアの答えを遮るようにダニエルがばっさり。うんまあ、凹むよなランディア。

 正直、ざまあみろと思うだけなんだけどね、わたしは。

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