015.入学式の前に

 そりゃあ、ランディアの根性は認めるなんて思っちゃった俺も悪いけどさ。


「負けませんわよ、ナルハ様! わたくしこそがダニエル様にふさわしいのだと、皆に知らしめてご覧に入れますわ!」


 何で入学式前の校門入った直後にそんなこと、言われなければならんのかねえ。兄上やダニエルが近衛隊の入隊式で、ここにいなくてよかったよ。


「……大声を張り上げて、はしたない」

「なんですの!」


 あ、今はしたないって言ったのはわたしの隣りにいるアリッサですからー。でもきっと、周囲であなたを見てる皆様も大体、同じようなこと考えてますからー。あーめんどくさ。

 というか、わたしにアリッサがいるようにランディアにもお付きのお嬢さんがいるじゃないか。彼女に丸投げするぞ、俺は。


「そちらのあなた、ランディア様のお側付きでしょう? きちんと務めは果たしてくださいませ」

「そうですねー」


 うわあ、めっちゃやる気なさげ。でもまあ、俺に頷いてくれた後彼女はひょい、とランディアの首根っこを捕まえた。猫か。


「ランディア様、あちらの方々のおっしゃるとおりみっともないですよ。やめましょう」

「ポルカ! あなたどちらの味方なの!」

「少なくとも、シャナキュラスがうちの本家でなければ、これだけ多くの方々がいらっしゃる前で大声張り上げて婚約者略奪宣言するような方の味方はしたくないですねえ」


 ポルカというのか。その彼女は大げさに肩をすくめてみせた後、自分と自分の主が今どんなふうに見られているかをはっきりとランディアに教えて差し上げた。わあ、親切ー。もちろん棒読み。


「……心中お察ししますわ」

「ありがとうございます」


 さすがにアリッサも、ポルカを気遣うように声をかけた。




 さて、今日は入学式の日である。わたしやアリッサ、ランディアやポルカやその他諸々の貴族子女、齢十五歳の皆が王立学園に入り、三年間様々な教育を受けるその最初の日だ。

 で、王都の別邸を出る直前、わたしとアリッサは父上や母上に、制服姿を見せていた。というか。


「まあ! よくお似合いですわ、ナルハ様!」

「ありがとう。アリッサも、とても似合っているわよ」

「ありがとうございます!」


 自分の部屋で着替えたときにがっつりアリッサに褒められてたからね、ちょっとは自信があるんだ。でもアリッサも、キリッとした眼鏡っ娘だしいわゆる学生の制服ってすごく似合ってるんだよなあ。かっこいい、うん。

 それはともかく、父上も母上も「うむ、よく似合っているよ。さすが我が娘」「アリッサも似合っているわ。ふふふ、セファイア男爵にもお見せしないとね」だとさ。そういやアリッサの両親、地元から出てこないなあ。ゲイルのときもだったけど、何やってんだろ。


「しっかり学んでおいで。週末に外泊するつもりなら、この別邸を使いなさい。アリッサも、遠慮せずに」

「はい。ありがとうございます、父上」

「伯爵様、ありがとうございます! ナルハ様のお供として、使わせていただきます!」

「……まあ、わたしが帰らないといえばアリッサも一緒でしょうから、いいんですが」


 全寮制の学園だけど、週末……前世と一緒で一週間は七日、うち一日が休日と決まってる暦なので何も考えずに週末、と俺たちは呼んでいるんだけど、その日には帰宅を許されている。

 ここ王都に住んでいる貴族もいるし、領地に本家がある貴族でもうちみたいに別邸を持っているのがほとんどだし。

 セファイア男爵家も近くに別邸あるはずだけど、そっちは……ま、いいか。俺が考える話じゃねえ。


「では、父上、母上。行ってまいります」

「行っておいで、ナルハ」

「行ってらっしゃい、ナルハ。アリッサ、ナルハをよろしくね」

「はい、お任せくださいませ!」


 ま、そんな会話を交わして俺たちは登校したわけだ。あ、寮への荷物は使用人たちが運び込み済み。ありがとう使用人の皆、俺たちめっちゃ楽してるよな、これ。




 で、登校してきたらいきなりランディアアタック食らったもので、何かめげた。とはいえアリッサがいてくれてることもあって、まだまだ大丈夫。……いやほんと、兄上とダニエルがいなくてよかったよ。どんな事になってるやら。

 とにかく、まずは入学式を穏便に済ませないといけない。だから。


「ランディア様。それから……そちらは、お名前何でしたかしら」

「ポルカ・フラギアと申します」


 ポルカ、という彼女に名前を聞いてみて分かった。フラギアなら、セファイアと同じ男爵家だ。当主が何やら事業に張り切ってて、そこそこ聞く名前だもの。


「フラギア男爵家の方なのね。ポルカ様も、そろそろ講堂に向かいませんと。入学式ですわよ」

「わ、分かっておりますわよ。ポルカ、行きますわ」

「はい、ランディア様。では、失礼いたします」


 うん、さすがに周囲の視線に気づいたよね。ランディアも何とかきちんと挨拶してくれて、ポルカと一緒にそそくさと去っていった。

 やれやれ、出だしでこれだと先が思いやられるぜ、兄上。

 ……学園の建物の向こうに見える高い建物が、近衛隊の見張り塔なんだよな。もしかして兄上、そこにいたりして……まっさかねー。

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