013.ダンスのBGM
のんびりした楽団の音楽を聞きながら、ダニエルやみんなと軽食をつまむ。いやほんと、さすが王立学園のパーティだわ。めっちゃうまい。
……ナルハだって伯爵家の娘だし、それなりに美味しいご飯は食べてるんだけどさ。材料も調理法も調味料その他もきっと違うんだろうな……兄上やダニエル、こんなのいつも食ってたのかな。学園って全寮制だから、三食しっかりここで出てるわけだもん。
「ナルハ、ダニエル」
そんな事を考えていたら、当の本人の声が聞こえた。ゲイルを伴ってまっすぐやってくる姿は、中身さえ知らなきゃとんでもイケメンである。ブラコン妹が転生してのシスコン兄だけど。
「兄上」
「やあ、メイコール、ゲイル。やっと来たんだ」
「え、何だその言い方」
ダニエルに言われて、兄上がちょっと不思議そうな顔をする。こういう表情って、鳴霞とあんまり変わらないんだよなあ。ま、中身に入ってるしな。
「失礼ながら、メイコール様の場合ナルハ様のお側にピッタリついておられるものかと」
「あ、わたくしもそう思っておりましたわ」
マルカとアリッサが、顔を見合わせてこくこくと頷き合っている。あーうん、俺も最初から最後まで兄上に張り付かれたら困るかなー、とは思ったんだけど。ダニエルと張り付くのはいいんだけど。
でも、それに対する答えは至極常識的なものだった。
「あんまり邪魔するのも悪いかと思ってさ。これでもナルハには、ダニエルと仲良くしてほしいと思ってるからね」
「そうお考えいただけているなら、嬉しいですわ」
「だろ」
そうなんだよな。何だかんだ言いつつ、この兄上は俺とダニエルが仲良くすることを願ってくれている。……少しばかり、中身の鳴火の反応を面白がってそうなところはあるんだけど。
……そのうち、音楽が変わった。あ、これ、ダンスのための曲だ。
気づいたときには、ダニエルが俺の前で腰を折っていた。ああもう、どんな仕草も優雅でかっこいいんだよなこいつは。ちょっとだけ、ランディアが欲しがる気持ちが分かった。やらんけど。
「ナルハ。ぜひ、このダニエルと一曲踊っていただけませんか」
「よろしくお願いいたします、ダニエル様」
そんなわけで、お誘いを即答で受け入れる。一応家でも、ダンスの練習くらいはしたことあるけどさ。……基本しかできないけどまあ、ダニエルが何とかしてくれるだろう。ひどいな丸投げ。
うん、丸投げした甲斐があった。ダニエルがうまくわたしをリードしてくれてるので、基本だけでも何とか踊れてる。
「基礎はできているようだし、後はこちらのリードに任せてくれれば大丈夫だからね」
「はい」
いやもー、足踏まないかとか転ばないかとかそっちのほうが心配なんだけど、案外そういうこともないし。というか、一瞬転びかけたときにダニエルが俺の腰に手を回してひょい、と持ち上げてくれたりさ。くっそ器用だな!
でまあ、こっちはいいんだがある意味問題が二箇所、ここから見える。
その一、兄上その他身内軍団。
「メイコール様、お顔が緩みすぎです」
「いやだってゲイル、私の大切な妹と私の大事な親友が仲良く踊っているんだよ。こんなに嬉しいこと、ないじゃないか」
「そうですわよ、お兄様。わたくし、あんなに素敵なご夫婦を拝見できるなんて思ってもみませんでしたわ」
「……いやいや、まだダニエル様とナルハ様、結婚なさってませんけど……」
何言ってんだお前ら、何か聞こえてるぞ。ゲイルとマルカが何か疲れた顔をしてるのは、他の連中が周囲には目立たないようにはっちゃけてるから、だな?
ダニエルの顔見るとあっちも聞こえてるらしくて、「困りましたね」なんて笑ってる。
いやまあ、可愛い妹はおにーちゃんのだ誰にも渡すかー、よりはよっぽどマシなんだけど!
「あとランディア様、いくらお待ちになってもあなたの順番は来ませんから」
「な、何でよ……」
問題その二、ランディア。どこから湧いてきた、という感じだがアリッサにしっかり腕を掴まれていてこっちに来ることはできない。
だから、何でお前らの声聞こえんの。確かに割と近くにいますけどね、あんたら。
「ダニエル様が、気を持たせたくないのでランディア様とのダンスはお断りしたい、と申しております」
「わ、わたくしのほうがナルハ様よりダニエル様にお似合いなのにい!」
「人が多くいるところで、そのようなはしたない声をおあげになる方がですか?」
うん、今のランディアの声は俺たちだけでなく他の皆にも聞こえたな。俺たち以外に踊ってる人たちが、そっちに視線を投げる。くすくす笑う人もいるな……あー、さすがに恥ずかしくないか、ランディア?
「大丈夫だよ、ナルハ」
「え」
あれ、何かダニエルに気遣われた。俺今、どんな顔してんのかな。
「さすがにまだ子供だし、……恥ずかしい目に合うのは、自業自得だからね」
地味にきついこと言うなあ、ダニエル。
あーもう、この後ランディアがどうなっても知らねえぞ? いや、えらい方向に行って迷惑かかるの多分俺だけど。
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