012.普通にパーティ
「皆様、ご卒業おめでとうございます。学園を代表して、学園長であるわたくしが祝いの言葉を述べさせていただきます」
凛とした声が、会場内に響く。声の主は豪奢な銀髪のウェーブヘアを背になびかせる、長身の女性。艷やかな真紅のドレスが、とても良く似合っていらっしゃる。
敬語使ってるのが不思議なんだよな……だって彼女、この国の王妃殿下だもん。お顔を拝見するのは初めてだけど、学園長を務めておられるというのはみんな知ってることだからな。
「皆様はこれより、我がジキタリシア王国のためにその能力を存分に奮ってくださるものと考えております。そのために、王立学園は設立されたのですからね」
カンペも見ずに、こっち向いて堂々とお言葉を述べられる王妃殿下は近くの国から嫁いできた、って話だった。国王陛下も結構パワフルだって聞いたことあるけど、その奥方だけあって迫力があるなあ。
「ですがまずは、学園より羽ばたく前の僅かな休憩を。祝いの宴を、お楽しみくださいませ」
あ、挨拶短い。そうそう、こういうのって長いと嫌われるんだよあ。良かった、王妃殿下が話短い人で。
そうして、王妃殿下が隣に控えてるメイドさんからグラスを受け取るのを見て、参加者全員が近くのテーブルやメイドさんや側付きからグラスを受け取る。ちなみに俺は、さっとアリッサが差し出してくれたぱっと見カクテルに見えるジュースのグラスである。
「乾杯!」
『乾杯!』
全員がグラスを掲げ、正式にパーティの始まりと相成った。……これ、俺たちが卒業するときもやるんだろうなあ。ダニエルや兄上、絶対参加してるよなあはは。
ダニエルの招待を受けてる俺は、アリッサと一緒にダニエルにくっつく形になっている。ランディアを牽制しないといけないから、という理由はあるんだけど……なんというかある意味、両手に花……花? ま、いいか、そんな気分になっている。
ナルハとしては、婚約者でベタぼれしてるダニエルと一緒にいられるのはうれしいし。
鳴火としては、自分と似てるのはあれだけどアリッサも結構可愛いしな。性格……ま、まあ気にするな、俺。
「ほう、ダニエル殿の婚約者ですか」
「ナルハと申します。どうぞ、お見知りおきを」
とはいえダニエルや兄上の卒業パーティである以上、二人やゲイルの同級生とどうしても顔を合わせることになる。いや、ダニエルの婚約者としてのお披露目みたいなもんだからいいんだけど。
「メイコール殿の妹君、だっけね。こちらこそ、よろしく」
「兄やダニエル様がお世話になりました」
「まさか。お世話されたのは、俺の方だよ」
今会話してる相手は、とある子爵家のご子息だそうだ。戦よりも勉学のほうに強いとのことで、今後はお役所に勤められるとか。そういう人がいるから、国ってちゃんと回るんだよねえ。脳筋方面は兄上とダニエルとゲイルでどうにかなりそうだから、頭脳方面で頑張って欲しいもんだ。
「あまり見るな。ナルハが減る」
「え、減るのかい?」
「減りませんわよ!」
「減りませんがダニエル様やわたくしが不満です」
いやダニエル、いくら俺がお友だちと仲良くしゃべってるからって拗ねるな。というか、その程度でわたしは減らない、安心しろほんとに。それとアリッサ、何便乗してんだお前は。
……マルカがおとなしい、と思ったら眉間を指先で揉んでいた。ごめんな、今後お前の主、こういう発言増えたら俺のせいだわ。
「ああ、先程にぎやかだったお嬢さんだね。君んとこの?」
「主家のお嬢様です。シャナキュラス家のランディア様」
お、少し離れたところにランディア。その隣りにいる、ランディアから険しい表情を抜いて身長をプラスしたほにゃらかな女性がどうやら、ランディアに招待状を無理やり送らされた張本人のようだ。いや、本人は喜んで送ったのかもしれないけど。
思わず俺たちが視線を集中させたところで、面白い会話が聞こえてきた。
「あー、あのど根性令嬢?」
「な、なんですのそれは!」
「いや、よく噂で聞くからさ。婚約者のいるダニエルに言い寄っては袖にされまくってるのに、ずっと懲りないど根性だねえって」
「なんですってえ!」
「ランディア様、落ち着いてください!」
……おい。これから入学する先に、既にランディアの噂広まってんのかよ。三年間の学生生活、どんな顔してやるんだよ彼女。
というか、ど根性令嬢って。前世のニュースで見たことがある、アレはえーと。
「……ランディア様は大根か何かかしら」
「大根は食べられるし、まだましじゃないか?」
「いや、大根に失礼でしょう。ダニエル様」
思わず呟いた言葉にダニエル、そしてアリッサが反応したのはいいんだけど君ら、ランディアってそういう扱いなんかい。
「ダニエル様もアリッサも……もうちょっと言い方があるのでは」
「いやだって、さすがにね。マルカやメイコールにも迷惑かけてるし」
「メイコール様はおそらく、そこら辺飛んでる虫を叩き潰すくらいにしか考えておりませんわ」
「……いやいやいや」
な、俺、素でツッコんでもいいよな? さすがにそれは………………メイコールでも、鳴霞でもあり得るううううう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます