010.味方は強いほうがいい

「それでは、これで失礼いたします」


 その日の夕方、ダニエルは自分の家に帰ることになった。そりゃ、学園の卒業が近いからな。近衛隊はお城の近くで数か月訓練してから部隊に配備される、って兄上が言っていたんだけど、その訓練施設に行く準備とかがあるんだものな。


「済まないな、ダニエル殿。君も、近衛隊着任などで忙しいだろうに」

「準備はほぼできておりますし、ナルハの安心が何よりも大事ですから」


 父上に、さらっとこんなこと言ってのけるんだもんなあ。それを聞いて母上は、とっても嬉しそうに俺を見るんだよね。


「本当に、あなたと婚約してもらえてナルハは幸せものね」

「はい」

「私も、ダニエルと親友で良かったと思いますよ。こいつになら、安心してナルハを任せられますから」


 うん兄上もそうだよね……このシスコンが、何だかんだ言いつつ妹の嫁ぎ先として認めてるのがダニエル、なんだよな。

 いや、何かあったら助けに来るとか言ってるけど……少なくとも、ダニエル自身は大丈夫な気がするけどな。うん。

 あと当然のように兄上の横にいるゲイル、無言で何度も頷くなよなあ。


「では、次は兄上とダニエル様の卒業式ですわね」

「式の後のお披露目会だね。楽しみにしているよ、ナルハ」

「ダニエル様にふさわしい姿で参ります」


 そうそう。学園の卒業式と、式の後に行われる卒業パーティ。

 式には身内の者が、パーティには例えば婚約者とかそういった存在が、招待を受けることができるんだよね。

 今回は兄上が卒業することとダニエルとの婚約を皆に知らしめるってこともあって、両親が卒業式に、俺は卒業パーティに招かれてる。えへへ、楽しみ……主に美味そうな飯が。いや、ダニエルと会えるのも楽しみだけどさ。




 そうしてダニエルを見送って屋敷の中に戻りながら、父上が「ナルハ」とわたしのことを呼んだ。


「当日はわしらも行くが、アリッサ嬢も同行する手はずになっている」

「え? あ、はい」


 アリッサ……は、まあゲイルも一緒に卒業だから招かれてもおかしくないよな。でも、同行ってこっちに言ってきたってことは俺にくっついてくるってことか。なんでだ?


「シャナキュラスがほぼ確実に顔を見せそうだからね」

「たいへんお上品な方でしょうから、お相手するのに側付きがいないと笑われますものね」

「あー」


 答えはあっさりと、兄上と母上が出してくれた。シャナキュラスって、ランディアとパーティ会場で顔を合わせる可能性があるってことかよ。

 ……何とかして、どこかの家からの招待取り付けたんだろうなあ。うちとセファイアみたいに、シャナキュラスにも親戚とか分家とかはあるはずだもの。


「でも、セファイア家にご面倒をおかけするわけには……」

「ご心配には及びません。妹はナルハ様をお守りする任務に張り切っております」

「少なくとも、ナルハよりアリッサの方が何枚も上手よ。心配しなくていいと思うわ」


 ただ、セファイア家はうちの分家だけどちゃんとした貴族の家系だし。だから一応気にしてみたんだけど、兄貴であるゲイルがしれっと抜かした上に、母上はほほほと高笑いして答えてくれる。うん、たしかにアリッサの方が人のあしらい方とか腕力とか強いけどさ。


「ダニエルが嫌がっても、力での排除はできないと高をくくってくるだろうからね。その点アリッサ嬢なら、うまくあしらってくれるはずだ」

「なるほど」


 兄上の言葉に、すっごく納得した。ダニエルのとこのマルカが引っ剥がしたら暴力ですわー、とか叫ぶお上品なお嬢様ですものなあ、あの女。その点、同じ女であるアリッサにべり、ぽいっと放り出されたら……ああ、どんな顔するんだろうな。


「でも、うっかりお怪我をさせてしまってはあちらに優位になりますわ。アリッサにはその点、しっかり言っておかないと」

「跡が残らなければよろしいのですね、とか言うのではないかな? セファイアの一族は、基本的にそういう者たちだ」


 父上、マジですか。だからグラントール家って、セファイア家から側付き呼んでくるんですかもしかして。

 ゲイルもアリッサも、たしかに何か言いそうだしそういうセリフ……と思って兄上の方見たら、とっても朗らかな笑顔になっていた。そういうところ、鳴霞と変わってねーぞお前。後ゲイル、兄上と同じ顔はやめろ。


「証拠さえ残さなければいいんだよ。ナルハに対する不利益は即ち、我々グラントールに対する不利益と言っても過言ではないからな。さくっと排除すべきだ」

「さすがはメイコール、その通りだ」

「大真面目に、証拠さえ残らぬようにいたしますのでご安心を」

「ゲイル、さすがね。アリッサにも期待が持てるわ」


 いやいやいやいやあんたらしれっと何言ってるんだほんとにー!

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