009.味方は多いほうがいい
「……あ」
学園、でふと思い出した。アリッサはいいんだけど、他にめんどくさい相手がいるわ……うわあ。
「どうしたの? ナルハ」
「……そういえばシャナキュラスのご令嬢も、わたしと一緒に学ぶことになりますわね」
「ランディア嬢か……」
わたしは直接名前を呼ばなかったんだけど、ダニエルがその名を口にしてしまった。と同時に、端正な顔がゆがむ。
おのれランディア・シャナキュラス、イケメンのイケメンフェイスをこんなに……あーいや、苦々しげな表情というやつでもイケメンはイケメンだ。そのうちイケメンがゲシュタルト崩壊するな、うん。
「数度しか会ってないけど、失礼ながらどうも苦手なんだよな。彼女」
「苦手なのですか?」
「うん、苦手。本人の前ではちょっと言いにくいけどね」
苦笑する顔もやっぱりイケメンなダニエル、そういうことは本人の前でズバリと言ったほうがいいと思うぞ。あっちの方が家の格は低いんだし、なんとかなるって。
そうしないのがダニエルなんだけど、ほんとはっきり言ったほうがいいのにな。
「周囲の空気を読まずに押せ押せだからね……マルカが引き剥がすと、途端に暴力ですわーとか叫ぶし」
「……品がないです」
「だろ」
う、うぜえ。マジめんどくさい……そりゃダニエルも苦手になるよなあ。誰が俺より品があるんだ、どこ見て言ってるんだろうなあいつ。胸のサイズで品とか言ってるんじゃないだろうな、けっ。
そういえばマルカって……ああ、ダニエルの小姓というか側付きの一人だっけ。赤毛で小柄だけど細マッチョ、男爵家の……何番目だっけかの息子さん。ぱっと見気づかれないけど、パワー系なんだよな。
あの人、俺というかナルハと同じくらいの身長だから、なめてかかられるんだよな。ま、見事に返り討ち食らうのが関の山だけどさ。
でも、そんな小さな男性に引っ剥がされて暴力ですわーてランディア、俺という婚約者のいるダニエルにへばりついてたから、邪魔だっつーて引っ剥がされたんだろ? マジで下品だよなあ……俺のダニエルには似合わないっつうの。
……俺の、って何か変だよな。どちらかといえば『わたしのダニエル』だろうに。なあ、ナルハ・グラントール。
「入学したら、ナルハに迷惑をかけるかもしれないね。卒業前に教師の方々には念を押しておくけれど、気をつけてほしい」
「ええ、ありがとうございます」
うう、涙が出てきそう。いや出ないけど。
自分が迷惑被ってるのに、こうやって俺のことを心配してくれるんだよなあ、ダニエルは。ああもう、だからモテるんだけどな! ランディアもだが他の女も寄るな邪魔だ。
鳴火の記憶が出てくる前から、こういうときだけは兄上の腕力や体力ほしいなって思ってたんだよなあ。今でも思う、そのパワーくれ兄上。いくら本人がやる気だからって、アリッサにばっか迷惑かけてるわけにゃいかねえだろ。
「学園ではおそらく、アリッサがどうにかしてくださると思うのですが。でも、あちらにも側付きの方はいらっしゃいますわよね……」
「そういえば、あんまりやる気のなさそうな子がいたなあ」
「やる気のない側付き……ですか」
……面倒事に巻き込まれたくないタイプ、かな。ま、その子の判断は賢明だと思うぞ。あとでアレをなだめる手間がありそうだけどさ。
あー、入学したら何とかして味方増やさないとなあ。わたしはあんまり知り合いいないから、友達増やして味方になってもらわないと。公爵家とか、ダニエルの家と同じ侯爵家とか。
「一応、姉の嫁ぎ先の公爵家に君と同じくらいの息女がおられたよ。姉上経由で一応、お話をしてもらってるはずだけど」
「お姉様の嫁ぎ先といいますと、確かロザリッタ公爵家でしたわね」
「うん。姉の夫は第二子なんだけど、第四子が君と同い年のはずだ。味方になってもらえれば、力強いだろうね」
「そうですわね」
おおっと。ダニエル経由でなんとかなるかもしれない。……えーと、義理のお姉さんになる人の旦那さんの妹ってことか。
ロザリッタ公爵家なら、公爵家でも力のある家のひとつだ。味方になってくれたら、すっごく心強いなあ。
「……ご迷惑をおかけするかもしれないのですが、大丈夫でしょうか?」
「うん、彼女なら大丈夫だよ。そこは安心してくれていい」
にこにこ笑ってくれてるダニエルなんだけど、今の言葉の意味はなんとなーく、なんとなく分かった。
多分、『ランディアより強いから大丈夫』だと思う。どこが強いんだろ……もしかして、口か。アリッサは力で勝てるけど、言葉じゃ無理だから………………って。
「公爵家のご令嬢ですわよね?」
「ロザリッタ家は、ご当主自らおっしゃってるけど『口で家を保たせてきた』家系だそうだから」
「うわあ」
いや、公爵家なら王家との血の繋がりとかそこら辺で家保たせてるんじゃねえのか。口か。うまいこと言うのか毒舌か。めっちゃ怖いぞ、それ。
でも、味方になってくれたらとてつもなく強い、気がする。
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