006.過保護ーずもういっちょ
結局、ドタバタした上に変な記憶が入ってきたせいもあってわたしはどっと疲れたらしく、朝まで爆睡してしまった。兄上とダニエルはそれぞれ一刻ずつ仮眠を取ったらしい。ちゃんと寝ろよお前ら。
そうして朝、朝食を頂いていたところに。
「お迎えの先触れに上がりました。メイコール様、ナルハ様」
「ナルハ様! ああ、わたくしがお供していればこのようなことにはならなかったものを!」
「アリッサ!?」
ゲイルとアリッサが到着した。馬車は来ていない、らしい。
……昨夜とさほど変わらない黒メインのスーツなゲイルはともかく、濃い青のドレスの足元にごっついブーツ履いてるアリッサ、もしかして走ってきたか?
「えっと、来てくださったんですか?」
「もちろんです!」
がしっと手を握りしめられた。ああうん、心配してきてくれたんだよね、アリッサ。その証拠に、掛けてる黒細フレームの眼鏡がちょっとずれてる。
真剣な表情してるとかっこいいんだけどなあ……何というか、今にして思うと兄上の前世がそっちに移ってんじゃないかと思う。
「学園への入学準備などの関係で、グラントールのご本家にお邪魔させて頂いてたんですが、お帰りが遅いとご両親がたと共に案じておりましたところ、兄が戻ってこられて」
「……何刻頃着いたんだ? ゲイル」
「全速力で最短距離を走りましたので、
兄上の問いに、しれっと答えるゲイル。それ、多分馬より早い。
馬車が崖から落ちて兄上とゲイルが周囲警戒、のうちに俺が意識戻って馬車から出て、みんなで村長の屋敷まで来てすぐにゲイルが本家向けてレッツゴーだけどさ、ここから本家まで最短距離って多分、山とか森とか谷とかあるはずで。
アリッサが家に来てくれた用件である学園の入学準備やら何やらがあったから、俺は昨日のうちに帰宅することになってたんだけどね。アリッサもゲイルも、今後の進路とかでセファイア本家に用事があるわけで……書類とか荷物とか、いろいろ。
「兄からお話を伺いまして、いても立ってもいられなかったのですが馬車の準備と速度が遅くて。ひとまず先触れとして、兄とわたくしで参りました」
うん、普通はそれ、家の執事とかがやるお仕事だからね。ゲイルが兄上付きだからいいのかな?
先触れ。要は、どこそこから誰それさんが来ますよー、とお知らせする人なり手紙なりのことだ。昨夜の俺たちは状況のせいでそういうのがなかったから、村長一家にはすごく迷惑をかけたと思う。あとで正式にお詫び、入れないとな。
「馬車も昼前には到着すると思われますので、ご安心ください」
「昼前なら早いほうだ、アリッサ。一度遭難している以上、安全第一で動くのは致し方ないことだぞ」
「そうですけれども!」
ゲイルの言葉に、アリッサはふんと鼻息荒く答える。あのー、そろそろ手を放してくれないかなあ? 兄上とダニエルの視線がなんか痛いんですけど。ゲイルもため息ついてないで何か言えー。
「ナルハ、よい友人を持ったね。もういいかな? アリッサ嬢」
「は、はい」
ダニエル、言葉は柔らかいけど微妙に棘があるよう。さすがにアリッサも気がついたのか、するりと手を放してくれた。あーほっとした。兄上、あからさまに視線を緩めるんじゃねえこの元ブラコン今シスコンが。
「わたくしは、ナルハ様の護衛ですわ。友人などと、おこがましい」
「え。わたしは友人のつもりなのだけど」
「へっ」
でも、その直後にアリッサが口にした言葉に思わず、俺は異論を唱えてしまった。ナルハとしてはそうなんだよな、あんまり他の子供たちと遊ぶ機会なんてない自分にとってアリッサは身近な存在で、友達でしかないと思うんだ。
なのでそう言ったんだけどアリッサ、お前さんあくまでも俺の護衛なの? それだと寂しいぞ、なあ兄上。
「私としても、アリッサ嬢は可愛いナルハのお友だちだと思っているよ。ゲイルは私のお付きで、友人だしね」
「ありがたいお言葉」
「あ、ありがとうございます!」
兄上の言葉にアリッサばかりかゲイルまでもがかしこまる。……それはそれとして今、『お友だち』の単語に力を込めて言っただろ。元兄貴のそばにくっつく女の子に脅し掛けてどうすんだ、元ブラコン妹。
「婚約者に良い友人がいるのは、俺としても嬉しいことだしね。学園では、ナルハのことを頼むよ?」
「メイコール様、ダニエル様。お任せくださいませ」
あー、ダニエルのセリフが落ち着いて聞こえるのが不思議だわー。彼の手、がっつり俺の肩に乗ってますけどね。
だからダニエルも、アリッサに嫉妬するんじゃねえの。もしかしたら、クライズの家にまで俺付きとして着いてくるかもしれないんだぞ?
……そういや全寮制なんだよなあ、学園。兄上やダニエルはもうすぐ卒業で、既に必要な単位は取り終わってるからうちに帰ってきてるわけで。
「メイコール様、ダニエル様。ナルハ様が、お二方の愛に押しつぶされかけておりますので少し自重なさってください」
「ああ、それは大変だ。ごめんね? 可愛いナルハ」
「済まない、ナルハ。早く俺のところに来てくれる日が待ち遠しくて」
「は、はい……」
ゲイル……一応ツッコんでくれたことにだけは礼を言う。あと兄上、中身に変化があろうが行動に変化ないのはどうかと思うぞ、元おにーちゃんは!
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