005.過保護ーず
と、気がついた。
そうか。もうすぐわたし、学園に行くんだなあ。学生生活は前世ぶりだけど、この世界の学校ってやっぱり違うんだろうな。前世で言うところの義務教育は、家庭教師で済ませてるし。
「近衛隊の宿舎は学園と近いから、時々会いに行くよ」
兄上と別々に生活……できるかな、と思ってたらそう言われた。あーこりゃ無理だ、鳴霞なら柵越えて忍び込んできそうだけどさすがにメイコール兄上はやらんだろ。しかし。
「時々というのは、毎日と考えてもいいのかしら」
「あ、メイコールならあり得るな。もしくは、自分と交代でゲイルをよこすか」
「悪いか」
ダニエルの指摘を否定しないのか、元ブラコン妹め。まあ、ゲイルなら何とか話通じそうだしなあ。ごめんな、兄上のおつきになっちゃったのが悪いんだ。
「可愛いナルハにだなあ、余計な虫を近づけてなるもんか。あとシャナキュラスを始めとする、ダニエル狙いの馬鹿娘共も」
「俺は虫か」
「私は虫を義弟にする気はないぞ?」
「当たり前だ。大事なナルハのために、虫など全て蹴散らしてみせるさ」
「それでこそダニエル、私の親友だ」
「もちろんだとも、メイコール」
あ、やべ。なんか二人して意気投合しやがった。ダニエルが肩を抱いてくれてるのは婚約者だから良いとして、メイコールが俺の手を握りしめてるのはどうかと思うんだ、このどシスコンが。
「兄上、ダニエル様」
しょうがない、いい加減にやめさせよう。挟まれてる俺の身にもなれ、お前ら。
「いい加減になさいませ、わたしと一緒にアリッサも入学することになっておりますのよ」
「……ああ、それなら大丈夫、かな」
あ、さすがにアリッサの名前を出したら兄上が引いた。ダニエルがくすくす笑ってるのが分かる。そうだよなあ、うん。
アリッサ・セファイア。ゲイルの妹で、わたしと同い年。本家ではメイド見習いというか使用人として働いてくれてるんだけど、学園入学を期にわたしのお付きというかそういうことになる、らしい。
ゲイルとアリッサの実家であるセファイア男爵家は、グラントールの分家筋。本家のうちと違って、子沢山なのよね。既に後継者はいるから、他の子供たちはあちこちの貴族のところで執事やメイドをやっていたり、軍に入っている者もいたりする。王宮務めの方もおられたかしらね、確か。
アリッサとは何度かご一緒したことがあるけれど、ゲイルの女性版というかね……もしかしたら彼女も、馬と同じ速度で走れるのかもしれない。というか走れそうだな、うん。
ちなみに、アリッサに兄上との縁談はどうかとちらっと伺ったことはあるんだけど、きっぱり断られたわね。曰く。
『無茶おっしゃらないでください、ナルハ様。メイコール様のお隣で、四六時中ナルハ様の自慢話聞いていられる余裕はないです!』
……やりそうだなシスコン兄上。そりゃ無理だ、と納得したもんである。
そこを乗り越えられる根性のあるご令嬢、どこかにいないもんか。もしくは兄上のシスコンが治るか……後者は絶対無理だ、断言できる。
「そうだね。なら、学園内ではアリッサ嬢にお任せすることにしようよ、メイコール」
「それでも、たまに会いに行くくらいならいいだろう?」
「近衛隊に入られるのですから、任務を全うなさってからにしてください」
よしよし、ふたりとも納得してくれたようだ。勘弁してくれよ兄上、元からシスコンなのは分かってたけどさ。
今日はなんか、余計な記憶まで思い出しちまったし、なんというか、つかれたあ。
「ふああ……」
「おっと」
「おや」
思わずあくびが出ちゃったところで、兄上もダニエルもピタリと動きが停止した。そそくさとベッドから降りて、ダニエルがわたしの靴をさらっと脱がせる。おのれ器用なやつめ。
「ナルハはもう寝なさい。私とダニエルで番をしているから」
「決定か。いや、当然する気だけどね」
ベッドを離れた二人は、俺に一人で休むよう言ってきた。いや、いいのかよ……と思ったけど、なんだか俺が寝ないとこの二人、仮眠すらも取らなさそうだしなあ。
しょうがない、二人のためにも寝るか。まさか、シスコン馬鹿兄貴やダニエルがここで手を出してくるとはとても思えないし、な。
「すみません。では、お先に休ませていただきますね」
「ああ。おやすみ、ナルハ」
「おやすみ、可愛いナルハ」
あ、ダニエルめ、兄上の前で俺の手をきゅっと握ってきたよ。うんまあ、ナルハとしてはとっても嬉しいんだよ、鳴火としても分かるんだよ。この温かい手がさ、俺、わたしを守ってくれるんだあって。
ただし、後ろから見る目が少し怖いけどな! やめろっつーてんだろ馬鹿兄貴元妹!
「兄の前でいちゃつくなよ」
「婚約者なんだから、何の問題もないじゃないか」
拗ねてる兄上に対し、ダニエルはさらっと笑って返すと俺に上掛けを掛けてくれた。ええい、ほんとに寝るぞ俺は。
寝具の中に潜り込んで目を閉じたら、あっという間に意識が落ちた。……そりゃ、ひどく疲れた、もんなあ……。
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