004.シスコン対婚約者

 侯爵家の跡継ぎを立ち話させておくのも何だったので、お部屋に入ってもらうことにする。兄上もそうだけどダニエルも俺……わたしより頭ひとつ半は背が高いから、部屋が狭く見える。

 前世と逆……じゃないんだよな、身長に関しては。鳴火はそんなに背が高くなくて、鳴霞はそれなりに高くて。結果、身長ほとんど変わらずというなんか泣きたくなる状態だった。なんで鳴霞が、こんな前世の兄に対してブラコンだったのかそこが疑問だ。


「そうか。御者と馬が」

「私がナルハを連れて帰っても良かったんだが、さすがにな」

「伯爵家の跡取りが、妹を横抱きにして街中突っ走るなんて光景はちょっとな……」


 そんなことを考えているわたしをよそに、兄上とダニエルは一応真剣な顔で話をしている。うんまあ、こちらに被害が出ちゃった話はともかくその後があまり真剣じゃないというか。

 単純に妹が実兄に姫抱っこされて街道から本家のある街まで突っ走られるってのを考えるだけでも恥ずかしいのに、中身に前世の実兄が入ってしまったわけであるからして。そこら辺、メイコールも少しは恥ずかしいらしいな。あーよかった、まだ常識的で。


「ともかく、ナルハが無事で良かった」

「あ、はい」

「私はいいのか?」

「馬車が崖から落ちたくらいで、お前やゲイルがどうにかなるわけないだろう?」

「ま、それはそうだ」


 で、わりとどうでもいいんだがお前ら。

 なんで俺を挟んでベッドに座る事態になっているんだ。兄と妹と妹の婚約者だぞ、外から見たら。

 まあ、兄上はブラコン前世が出てくる前からシスコンだったし、ダニエルはダニエルで俺に惚れてくれてるし……あー、顔が赤い。ナルハとしても、ダニエルにはベタぼれなんだよなあ。鳴火の男としての意識が入ってしまったせいで、俺だけ困ったことになってるけど。


「夜が明ければ本家から迎えが来るだろうから、私たちはそれで帰るつもりだ。少し遠回りになるが、帰れなくはないからな」

「少しか?」

「一刻は長くなりますわね」


 うん、さすがに一晩泊めてもらうだけだよね、村長さんち。知らせを受けてダニエルが来てくれたくらいの時間があるんだから、とうにゲイルは本家についてるだろうし。明日の朝には本家から、迎えの馬車が……来てくれるといいなあ。兄上がいるんだし、来てくれるよなあ。


「私はナルハと一緒だから、何の問題もないけれどね」

「親友の前で、その親友の婚約者との間柄をのろけるなよ」

「お前の婚約者以前に、私の妹だからね。ナルハは」


 とか考えているうちに何言い合いしてんだ、こいつら。……俺が一応ツッコんだほうがいいよな? うん。


「兄上はそれだから、未だに婚約者がお決まりでないのですよ」

「俺に相手のいない姉妹がいればよかったんだけどなあ、あいにく先約済みだ」

「ナルハが落ち着いたら、私も考えるよ」

「そうかな?」


 俺が落ち着いたらって、もう落ち着きかけてるんですけど! 学園三年通って、その後にダニエルと結婚式あげる予定なんですけど!


「次は跡取りができたら、とかその跡取りが成長したら、とかずっと続く気がする」

「わたしもそう思いますわ」


 さすがはダニエル、兄上のことをしっかり理解していてくれた。だてに十何年のお付き合いがあるわけじゃないよな、と思う。

 思わず顔をひきつらせた兄上に、念のためもうひと押し入れておこう。主に自分、というかナルハのために。


「ですので兄上、わたしの義姉となる方をお早めに見つけていただけるとありがたいのですが」

「む……」


 ダニエルがいるんでちゃんと妹ムーヴしたわけだけど、これが二人きりなら俺はしつこくされるのはいやなんだと全力でツッコんでるところだったぞ。

 あー、あとでゲイルとかにも言っておこう。シスコン兄貴の暴走を止められるのはスペック上、ダニエルかゲイルくらいのもんだ。特にゲイルは兄上付きのはずだし、卒業後も兄上にくっついていくだろうからな。


「ナルハがそういうなら……いくつか、話は来ているしな」

「そりゃそうだろう。俺たちはもうすぐ学園卒業だし、メイコールはグラントールの跡取りなんだから」


 うん、兄上に対して婚約申し込みが多数来ているのは知ってる。ゲイルはおろか、父上や母上もはよ決めろといった顔をよくしておられたし。まあ、原因は兄上のシスコンなわけだが……前世と違ってそこそこ常識もってくれてよかったよ、と思う。

 ダニエルもクライズの跡取りなんだけど、彼にはわたしがいるからね。……うん、いるんだよなあ。それでも、グラントールよりうちのほうがいいぞ、なんてお抜かしあそばされる家がいくつかあるらしいけどさ。


「入れ替わりに、わたしが入学することになりますね」

「あ、シャナキュラスの娘が一緒に入学するらしいから気をつけてくれよ。ダニエル狙ってる家の一つだ」

「……あそこは親の押しが強いんだよな……何度も断ってるのに」

「兄上がいつもおっしゃってますけどダニエル様、素敵な方ですから」

「はは。ありがとう、ナルハ」


 なんか、ダニエルを褒める言葉はしれっと口から出てくるな、俺。本当にいい男だからなんだけど……つか、シャナキュラス伯爵家かあ。

 うちと同じ伯爵家で、どっちかっつーと武功一辺倒な家。ダニエルの能力がほしいんじゃないかな、と思う。けど、それなら兄上を狙ってもいいよなあ? なんで俺がいるダニエル狙うのさ……いや、理由は知ってるけど。


「シャナキュラスは、先々代がグラントールに意中の相手取られてるからなあ。……色恋沙汰で反目されても、ご当主は困っておられるんじゃないのかい?」

「だからって、ダニエル様を奪おうとなさるのは品がありませんわ」

「そんな理由で、私の親友を盗ろうとされても困るよね」


 いやほんと、大人げないというか何というか。

 ちなみに、直接ダニエルにアタックしてきたことのあるシャナキュラス家の娘ランディアが「グラントールよりもわたくしのほうが品がありますし胸もありますしあなたにはぴったりですわ」とか何とか抜かして、ダニエルの怒りを買ったらしい。

 その話聞いて当然というか、わたしより兄上のほうがめっちゃお怒りになったけどさ。グラントールとクライズ連名で抗議文送ったぞははは、とか言われたときにはやっぱり頭抱えたけど。

 でもあいつ、まだ諦めてないんだなあ。鳴火の意識としても、あのお上品な言葉でゲスなことしか言わない女にはダニエルは渡さん。

 ……胸はわたしだってあるぞ。あいつがでかいだけだ、あとコルセット。

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