遺跡の最奥にたどり着いたが、真実はいつでも残酷らしい。――11

「アジ・ダハーカ……あなたは、命を捨ててまで……」


 自分を助けるためにアジ・ダハーカが犠牲になったことで、ショックを受けたのだろう。セラフィさんは、両手で口を覆いながら呆然としていた。


 俺もまた、放心状態におちいっている。


 モンスターが自らを犠牲にして仲間を助けた。その事実に驚愕しているんだ。


 こんなことを感じるのはいけないことだと思う。それでも俺は、アジ・ダハーカに対する『敬意』を覚えていた。


 誰もが言葉を失うなか、動いた者がいた。


 タイタンだ。


 タイタンが、その巨体をセラフィさんとサシャのあいだに割り込ませる。


「く……っ!?」


 巨体に視界をさえぎられ、サシャが息をのんだ。


「――逃ゲロ、巫女ヨ」

「で、ですが……っ」

「アナタガ捕ラエラレレバ、アジ・ダハーカノ犠牲ガ無駄ニナル」

「――――っ」


 セラフィさんがハッとして、唇を引き結ぶ。


「必ずあとを追ってください!」

「――善処ぜんしょスル」


 セラフィさんが、広場の入り口へ向かう。


 セラフィさんが逃げ出して、俺はようやく我を取り戻した。


「ミア! セラフィさんを捕まえて!」

「はい!」


 ミアが『武具創造』スキルで分銅ふんどう付きの鎖を生み出し、セラフィさんに放つ。


 鎖がセラフィさんを捕らえる――直前。


「――『武装解除』」


 タイタンの『武装解除』スキルが鎖を砕いた。


 セラフィさんが大部屋の外へと消えていく。


「くそっ!」


 毒づいてセラフィさんを追いかけようとする俺の前に、タイタンが立ちはだかった。


「ココハ行カセン」

「それなら、無理矢理通らせてもらうよ!」


 タイタンの側面からサシャが仕掛けた。


『超越』スキルのタイムリミットはまだ二〇秒残っている。サシャは、能力三倍の恩恵を受けているあいだに攻めきるつもりだ。


「――サセヌ」


 サシャの進路を『反射』スキルの盾が遮る。


 だが、サシャは止まらなかった。


 全力疾走から急減速。次の瞬間には再びトップスピードに乗り、一枚目の盾を抜く。


 続いて立ちはだかった二枚目と三枚目を、小刻みなサイドステップで攪乱かくらん


 四枚目の盾は回転しながら避け、五枚目と六枚目を大ジャンプで置き去りにする。


 着地したサシャの前に、遮るものはなにもない。


 一直線にタイタンに突撃し、サシャが拳を振るった。


「はあぁあああああああっ!!」


 サシャの拳がタイタンの腹に叩き込まれる。アジ・ダハーカを一撃で屠ったサシャの全力。


 大砲が炸裂したかのような轟音が響く。


「――ソノ程度カ?」

「えっ?」


 だが、タイタンは平然としていた。


 無傷。それどころか、一ミリもその場を動いていない。

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