遺跡の最奥にたどり着いたが、真実はいつでも残酷らしい。――12

 俺は開いた口が塞がらなかった。


「サシャの一撃を受けて一切のダメージを受けてない!? そんな馬鹿な!!」

「――――っ!! それなら、ダメージが入るまで打ち続けるまで!!」


 サシャが狼狽うろたえたのはまばたきより短い時間だった。


 気を取り直し、目にもとまらぬ速さで拳を放つ。


 横殴りの雨の如きラッシュ。


 それでもタイタンは微動だにしない。


「――無駄ダ」

「く……っ!!」


 負けじとサシャは拳を乱射し――真紅のオーラが消滅した。


『超越』スキルのタイムリミット!


「――残念ダッタナ」


 タイタンが巨大な手のひらで張り手を見舞う。まるで壁が迫るような光景だった。


 慌てて両腕でガードするサシャだったが、力任せな張り手によって吹き飛ばされて

しまう。


「ああぁああああああっ!!」

「サシャ!!」


 俺は急いで横に跳び、飛ばされたサシャを受け止めた。


「大丈夫、サシャ!?」

「う、うん。ビックリしたけどケガはしてない。まだまだ戦えるよ」


 サシャの顔からは確かな覇気はきが見てとれるし、傷ついている様子もない。強がりじゃなく、本当にダメージはないようだ。


 ホッと胸を撫で下ろしながらも、俺の内心ないしんは穏やかじゃなかった。


『超越』スキル+『経験値配分』のコンボで、わずかなダメージも与えられないなんて……タイタンはどれだけタフなんだ!


 焦燥しょうそうに見舞われる俺に、タイタンがゆっくりと接近してきた。


「――オマエタチノ攻撃ハ我ニハ通ジン。諦メルコトダナ」


 迫ってくる巨体に気圧され、俺は一歩後退あとずさる。


 タイタンの威圧感にのまれそうになり――俺は、ふー、と長く息を吐いた。


 落ち着け。心を乱せば勝利は遠のく。冷静に考えろ。


 頭を冷やし、俺は振り返る。


 サシャが突進したとき、タイタンは『反射』スキルの盾で妨害した。ダメージが入らないなら、妨害する必要なんてないはずだ。


 つまり、タイタンは無敵じゃない。あの異常な防御力にはタネがある。


 可能性があるとしたら、やはりスキル。仮に『絶対防御ぜったいぼうぎょ』とでも呼ぼう。


 そして、『絶対防御』スキルにはなにかしらの制限がある。その制限を見破れば、攻略に繋がるはずだ。


『絶対防御』スキルの制限を看破するためにも、攻撃の手は緩めない!


「クゥ! ピピ! シュシュ! サシャ! ララ! 遠距離から魔法攻撃! ミアと俺はサポートに専念! 攻めて攻めて攻めまくろう!」

「「「「「「了解!」」」」」」


 クゥ、ピピ、シュシュ、サシャ、ララが一斉いっせいに魔法を放った。


 氷槍ひょうそうと風刃と水弾と炎砲えんほうと雷撃がタイタンを襲う。


「――キカヌ」


 タイタンが『反射』スキルの盾を操り、五人の魔法に対処した。


 やっぱり、タイタンの防御力にはタネがあるんだ。


 反射された魔法が俺たちを襲う。


『鈍重化』スキルで重くなった体で、俺たちは精一杯せいいっぱい回避する。


「あ……っ!!」


 だが、ほかの五人ほど身体能力が高くないララには困難だった。


 なんとか避けようと走るララに、反射された雷撃が襲いかかる。


「させるかあぁああああああああっ!!」


 俺は全速力で駆け、雷撃が命中する寸前、ララを抱きしめて横っ飛びした。


 雷撃がかすめ、俺のシャツを焦がす。それでも、俺にもララにも傷はない。紙一重かみひとえで回避できた。


「す、すみません、旦那さま~!」

「構わない! ララが危なくなっても必ず守る! だからガンガン攻めるんだ!」

「はい~!」


 勇気づけられたララが、再び魔法を放つ。


 幾多いくたもの魔法がタイタンを集中放火する。


「――ヤハリ、オマエガ神獣タチノ支エノヨウダナ」


 タイタンの単眼が俺を捕らえ、『反射』スキルの盾が角度を変えた。


 反射される方向が変わり、五人の魔法が俺に向けられる。


「旦那さま!!」

「く……っ!!」


 膨大な数の魔法が迫るなか、俺はララを抱きしめてかばった。


 俺がどうなっても、ララだけは守る!

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