みんなの想いを知ったが、応えていいのかわからない。――3

 俺たちが向かったのは、大通りにある女性服の専門店だった。


 なんでも、ハーギスではかなりの人気店らしい。


 実際、たくさんの女性客で店内は賑々にぎにぎしい。男が俺だけで、居心地が悪いくらいだ。


「さあ、みんな。好きな服を探しておいで」


 俺がうながすと、シュシュがシャツの袖をクイクイと引いた。


「あ、あの……主さまに、選んでほしい、です」

「へ? 俺に?」


 目を丸くする俺に、シュシュがコクコクと何度も頷く。


「だけど、俺、ファッションにうといし……みんなが着たい服にすればいいんだよ?」

「ファッションに疎くてもオレたちは気にしないし、着たい服にしたいから、師匠に頼んでいるんだよ」

「どういう意味?」


 サシャの真意がつかめず、俺は首をかしげる。


 サシャの代わりに、クゥがニパッと笑って答えた。


「ボクたちが着たい服は、ご主人さまが選んでくれた服ってことだよ!」

「はぇ?」


 一瞬、クゥの言ったことがわからず、俺は頓狂とんきょうな声を上げる。


 数秒後、その意味に気づき、俺の顔が火照りだした。


 な、なんていじらしいことを言ってくれるんだ!


 五人の好意が純粋すぎて、愛おしさがますます高まる。五人が可愛くて仕方がない。


「パパ、選んで?」

「お願いいたします」


 ピピが上目遣いで、ミアがお辞儀じぎして頼んでくる。


 俺はオシャレに詳しくないし、五人をコーディネートする自信はない。


 それでも、俺の好みの服を着た五人の姿を想像すると、ワクワクとドキドキが止まらなかった。


「じゃ、じゃあ、僭越せんえつながら選ばせていただきます」


 期待にあらがえず、俺はコクリと頷いた。





 三〇分後、五人が試着室から出てきた。


「どう? ご主人さま!」

「に、似合い、ますか?」


 クゥとシュシュの質問に答えられず、ただ俺はポカンと口を開けていた。


 着替えた五人に見とれていたからだ。


 クゥに着てもらったのは、白いブラウスと黒いハイウエストスカート。ぞくに言う『童貞を殺す服』だ。


 ブラウスを押し上げる胸と、キュッとくびれた腰がたまらない。


 ミアに着てもらったのは、白いシャツ、グレーのテーラードジャケット、グレーのショートパンツ。


 いつも和服っぽい服装だからあえての選択だけれど、スレンダーで大人っぽいミアにぴったりだ。


 ピピに着てもらったのは、水色のフリル付きワンピース。


 愛らしいピピの魅力が、甘めのファッションで引き出されている。


 シュシュに着てもらったのは、クリーム色のロリータワンピース。


 遠慮えんりょがちなシュシュには派手めの選択だったけど、可愛らしさ倍増だ。


 サシャに着てもらったのは、白いワイシャツと、チェックがらのプリーツスカート。


 制服に似たコーディネートだが、これはブロッセン王国の調査の際、『先輩と後輩』を演じた影響だ。こんな後輩がいれば、それ以外の女の子に見向きもしないだろう。


「師匠?」

「似合わないでしょうか?」


 いつまでも黙ったままの俺を、サシャとミアが不安げな目で見つめてきた。


 ハッとした俺は、ブンブンと勢いよく首を振る。


「そんなことない! みんなスゴく似合ってるよ!」

「「「「「えへへへへ……!」」」」」


 俺に褒められて、五人がふにゃんと頬を緩めた。


 可愛いし、健気けなげだし、こんな五人にしたわれているなんて、俺は本当に幸せ者だ。


 けれど、やっぱりどうしても思ってしまう。


 俺、こんなに尽くしてもらっていいのかな? みんながステキすぎて、正直釣り合わないと思うんだよね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る