みんなの想いを知ったが、応えていいのかわからない。――2

 朝食後、俺たちはハーギスの街に繰り出し、大通りをぶらぶら歩いていた。


「みんなはどこか行きたいとこ、ある?」

「パパが、喜ぶとこ」


 ピピの答えに、「俺が喜ぶとこ?」とオウム返しする。


「俺が決めていいの?」

「シルバさまがいてくださったら、わたしたちはどこに行っても楽しいです」

「それに、オレたちはいつも師匠にお世話になっているしね!」

「お世話になっているのは、俺のほうだと思うけど……」


 俺が苦笑しながら頬をくと、シュシュがプルプルと首を横に振った。


「そ、そんなこと、ありません! 主さまが、助けてくださらなかったら、あたしは、デュラハンに捕らわれた、ままでした!」

「ダキニに騙されたとき、師匠が励ましてくれなかったら、オレは立ち直れなかったよ」

「いつも美味しいご飯作ってくれるし!」

「フリードさんやハウトの村人に貶されたとき、わたしたちのために怒ってくださったじゃありませんか」

「なにより、いっつも、甘えさせてくれる」


 五人がそれぞれ主張して、それぞれの意見に頷く。


 言われてみれば、俺、結構みんなの役に立っているのかもなあ……まあ、シュシュやサシャのことは放っておけるはずがなかったし、ご飯を作ったりするのも、いつも力を貸してくれるみんなへの、せめてものお返しなんだけど。


「というわけで、ご主人さまはどこがいい?」

「行きたいとこかあ……パッとは思い浮かばないなあ」


 俺が「うーん」と腕組みしていると、ミアが尋ねてきた。


「シルバさま? 殿方とのがたは魅力的な女性といると喜ぶとうかがっていますが、シルバさまもそうなのでしょうか?」

「へ?」


 突拍子とっぴょうしもない質問に、俺はきょを突かれる。


 俺も男なのだから、魅力的な女性がそばにいてくれたら当然嬉しい。


 というか、みんながいてくれてすでに幸せすぎるんだよね……もちろん、そんなこと恥ずかしすぎて言えないけど。


「ま、まあ、ミアの言う通りかな?」


 視線を泳がせつつ答えると、ミアが続けた。


「でしたら、洋服店などいかがでしょうか?」

「あ、あたしたちが、オシャレになれば、主さまが、喜ぶという、ことですか?」

「はい!」


 要約したシュシュに、ミアがコクリと頷く。


「けど、服の代金は師匠に払ってもらうんだよ?」

「パパに、申し訳、ない」


 サシャとピピがそう反論すると、「た、たしかにそうですね……」とミアがシュンと耳を伏せさせた。


 落ち込むミアを見て、俺は慌ててフォローする。


「いや、代金なんて気にしなくていいよ! 俺のお金はみんなのお金だ。みんなが幸せになるために使おう?」

「よろしいのでしょうか?」

「もちろんだよ! みんなで一緒に稼いだお金なんだからね」


 俺が笑顔を向けると、ミアがパアッと顔を輝かせ、抱きついてきた。


「ありがとうございます、シルバさま!」

「へぁっ!?」


 唐突とうとつにミアに抱きつかれて、心臓が跳ね上がる。


 ミアが俺の胸元にスリスリと頬ずりしながら、「ふにゅぅ」と幸せそうに鳴く。ミアの尻尾は、ご機嫌そうにフリフリと揺れていた。


 柔らかなミアの感触、温かいミアの体温、桜みたいなミアの匂い、愛くるしいミアの仕草に、俺の思考はフリーズする。


「ミア、ずるい」

「ボクたちも混ぜて!」


 そんなミアに触発されたように、残りの四人も抱きついてきた。


 前から後ろから右から左から、五人の体が押し当てられる。


 ムニムニでぎゅうぎゅう。まるで押しくらまんじゅうだ。


 俺はバグったように「あわわわわわわわわ……!!」と「わ」を連呼する。


 好きな女の子たちにもみくちゃにされているんだから、仕方ない。


「あらあら、微笑ましいわねえ」

「リア充爆発しろ!」


 そんな俺たちを眺め、近くの出店の女性店員がクスクスと笑みを漏らし、冒険者とおぼしき男が、舌打ちとともに吐き捨てた。

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