ずっと踊らされていたが、俺に屈するつもりはない。――13

 すぐさま指示を出す。


「クゥ! 操られているひとたちに『魔法無効』スキルを使ってくれ!」

「わかった!」


 クゥが頷き、右手を高々と挙げる。


 ダキニが血相を変えた。


「させぬえ! 『アイスブロック』!」


 俺たちの頭上に、氷塊ひょうかいが生まれる。クゥのアイスブロックすら凌駕りょうがする、尋常じゃない大きさだ。


 氷塊が落ちてくる。このままでは、俺たちだけでなく、操られたひとたちも、まとめて押しつぶされてしまう。


「ピピ! サシャ! 合体魔法!」

「ん!」

「了解!」


 対抗し、ふたりが魔法を放った。


「『タイフーン』!」

「『インフェルノ』!」


 ビョウビョウと風が吹きすさび、竜巻を発生させる。


 あかが宙を覆い尽くし、灼炎しゃくえんがあふれ出す。


 竜巻が灼炎を取り込み、紅い嵐となった。


 さながら紅蓮の狂飆ファイアストーム。膨大な熱圧が龍のあぎととなり、氷塊と衝突する。


 紅と白のせめぎ合い。


 灼炎が氷塊をおかし、氷塊が灼炎をあっする。


 荒れ狂うエネルギーが大気を震撼しんかんさせ、蒸気がモウモウと立ちこめ――ふたつの魔法が相打ちした。


 よし! ダキニの魔法を防いだ!


「『魔法無効』!」


 クゥが揺らぎを放った。


 揺らぎが波紋のように広がり、操られた人々を撫でていく。


 同時、彼らは糸が切れた人形のようにその場に倒れた。


「「「「「えっ!?」」」」」


 次々と倒れていく人々に、五人が目を丸くする。


 ダキニが、ギリッ、と歯を軋らせた。


「お前は本当に狡猾な魔公だ、ダキニ」


 俺は静かに口を開く。


「思えば妙な話だ。『対象人物の意識・肉体を無条件に支配し、自身の修得している魔法を与えるスキル』――そんなものがあれば、妖精のアイテムも、抗争や戦争で『負のオーラ』を集めることも、『魔公誕生の儀式』で新しい魔公を生むことも、必要ない。人々を『支配』し尽くせば済む話だ」


 そうしないということは、『支配』スキルの説明には、『嘘』が含まれているということだ。


「さっき、操られた住民が『魔法無効』スキルの揺らぎを回避した。けれど、避ける必要なんてない。『魔法無効』スキルには、ダメージを与える効果なんてないんだから」


 住民たちには、揺らぎを避けなければいけない理由があった。


 なぜか?


 住民たちに、魔法がかけられていたからだ。


「お前は、ブロセルクの住民に精神操作系の魔法をかけたんだ。彼らが魔法を扱えたのは、『支配』スキルの影響じゃない。おそらく、別のスキルの効果だろう」


 つまり、


「『支配』スキルなんて存在しない。戦闘を優位に運ぶため、お前は俺たちを騙していたんだ」


 住民たちが動き回っていたのは、『魔法無効』の揺らぎを回避するため。


 衛兵に囲まれた俺に、住民が魔法を撃たなかったのは、クゥが『魔法無効』スキルを行使した場合、衛兵たちが巻き込まれ、精神操作魔法が解けてしまうからだ。


 相手が一定の実力に達したら、精神操作魔法は通じなくなる。ブロセルクの住民が全員操られているのも嘘だろう。


 俺たちは絶望的な状況におちいったんじゃない。


 絶望的な状況だと思い込まされていたんだ。


「憎たらしいほどさかしい小僧よのう!」


 憎々にくにくしげにダキニが唇を歪ませる。


 推測が的を射ていた証拠だ。


「シュシュ! 『ブルースフィア』で、倒れているひとたちを安全なところへ!」

「は、はい!」


 シュシュが無数の水球を生み、人々を包んで謁見の間の外へと運んでいく。


 謁見の間に残ったのは、俺たちとダキニのみ。


 俺はミスリルソードを構えた。


「終わりにしよう、ダキニ」

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