ずっと踊らされていたが、俺に屈するつもりはない。――3

 城内を走り抜けた俺たちは、城門へ続く桟橋さんばしを駆けていた。


「これからどうしよう、師匠?」

「王さまたち、敵になっちゃった」


 頭を回し、サシャとピピに答える。


「ブルート王国に戻って、ブロッセン王の企みを伝えよう」

「そ、それでは、戦争に、なってしまいません、か?」


 心配そうに訊いてきたシュシュに、首を横に振る。


「ブロッセン王と大臣の話し合いによれば、充分な軍需品ぐんじゅひんが集まるまで、あと一月ひとつきかかるらしい。それまでに、ブロッセン王の企みを各国にしらせれば、戦争を止めようと動いてくれるはずだ」


 ブロッセン王国が戦争の準備をしていると聞いて、見過ごす国はまずいない。


 複数の国で圧力をかければ、ブロッセン王も戦争を諦めるだろう。敗北が決定している状況で、戦争を起こすことはないはずだ。


 リラの期待に応えられなくて、申し訳ないけれど……。


 俺は歯噛みして、それでも気持ちを切り替えた。


 後悔しても仕方がない! いまできる最善を尽くそう!


 桟橋を渡り終え、城門を抜ける。


 直後、短刀を手にした三人の男が、襲いかかってきた。


 唐突に現れた襲撃者に瞠目どうもくし、叫ぶ。


「回避!!」


 俺の警告を聞いた五人が散開する。


 俺も三人の男の頭上を飛び越え、短刀を回避した。


 しかし、襲撃者は男たちだけではなかった。


 城門の前に並んだ、ひと、ひと、ひと。


 ある者は包丁を、ある者は棍棒を手に、立ちはだかっている。


 食堂の制服、ピエロの衣装、紳士服――集まった人々が身につけているのは、明らかに戦士の衣装ではない。


 俺は我が目を疑った。


 俺の戸惑いを代弁するように、ミアが声を上げる。


「どうして、ブロセルクの方々が……!?」


 そう。俺たちを襲おうとしているのは、ブロセルクの住民だったんだ。


 混乱しながらも、俺は気づいた。


 住民たちの目は、焦点が定まっていない。顔にも表情らしい表情が浮かんでおらず、まるで人形のようだ。


 まさか……操られているのか!?


「ご主人さま、囲まれちゃったよ!!」


 クゥの声にハッとする。


 住民たちはいつの間にか背後にも回り、俺たちを取り囲んでいた。


 しまった! 動揺しているあいだに回り込まれてしまった!


 罪のない住民たちを傷つけるわけにはいかないから、俺たちが本気で抵抗することはできない。


 しかし、力押しでもしなければ、数の暴力でやられてしまう。


 住民たちに取り囲まれた現状は、最悪と言えた。


 俺は歯をきしらせる。


「この状況は、マズい!」


 後悔しても遅かった。


 住民たちが、それぞれの武器を振りかざし、一斉いっせいに飛びかかってくる。


「『ウォーターウェーブ』!」


 俺たちの周りに、水の壁が出現したのはそのときだ。


 水の壁は波頭はとうとなり、住民たちを押し返す。


 シュシュの水魔法だ。


 炎・氷・雷魔法は、どれだけ加減しても相手を傷つけてしまう。


 だが、水・風魔法は別だ。


 実際、シュシュのウォーターウェーブは加減されていたようで、住民たちに目立った怪我はなく、せいぜい打撲やり傷程度だった。


 住民たちの包囲に、綻びが生じる。


 数秒間の好機。


 突破するなら、いましかない!

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