ずっと踊らされていたが、俺に屈するつもりはない。――1

 二日後。


 俺たち六人は、ブロセルク城の謁見えっけんの間で、ブロッセン王と対面していた。


「名を申せ」


 謁見の間の奥、豪奢ごうしゃな椅子に腰掛ける、壮年そうねんの男性が口を開く。


 180はある長身に、がっしりした体格。


 ツーブロックの髪は金色。両の目は緑色。


 顔つきはいかめしく、白を基調とし、金でアクセントを加えた、きらびやかな衣装をまとっている。


 彼こそが、ブロッセン王国の国王、ライオット・ディル・ブロッセンだ。


 ブロッセン王にひざまずいている俺は、答える。


「シルバと申します。こちらの五人は、クゥ、ミア、ピピ、シュシュ、サシャです」

「シルバ、我に何用だ?」


 俺は切り出した。


「戦争を取りやめてください」


 謁見の間の壁際に並んだ衛兵たちが、ざわめく。


 ブロッセン王が目を細めた。


「なんのことだ?」


 しらを切るか。定石じょうせきだな。


 たとえ目論見もくろみを悟られていても、知らぬぞんぜぬをつらぬけば、ブロッセン王はやり過ごせる。名誉を害したとして、俺たちを不敬罪ふけいざいに処すことも可能だろう。


 だが、対策はある。


 俺は『見聞きする水晶玉』を取り出し、ブロッセン王と大臣たちの、戦争に関する話し合いを再生した。


 謁見の間が静まりかえる。


「妖精のアイテム『見聞きする水晶玉』。映像・画像・音声を記録するアイテムです」


 俺は立ち上がり、ホール伯が財務大臣にあてた明細書を、画像としてちゅうに映し出す。


「証拠は揃っています。御身おんみが戦争の準備をされていることは明白です」


 俺が証拠を集めていたのは、ブロッセン王に言い逃れさせないためなんだ。


 ブロッセン王が嘆息たんそくする。


「リラに頼まれて謁見の場を設けたが……きみたちは、あのお転婆てんばに依頼されたのだな?」

「王女殿下は、王族として相応ふさわしいおこないをされました。私は大事おおごとにしたくありません。どうか賢明なご判断をお願いいたします」


 ブロッセン王が、試すような目で俺を睨む。


「ここできみたちを捕らえる手もあるが?」

「私たちが戻らなければ、御身のたくらみは明かされる手筈てはずになっております。あやまちはおかされないよう」


 この謁見の前に、俺はメアリさんに手紙を出しておいた。


 手紙には、商工ギルドとホール伯がつながっていることを記し、明細書の画像と、戦争に関する話し合いをコピーした、もうひとつの『水晶玉』を添付てんぷしている。


 ブロッセン王国の調査をサシャから依頼された際、メアリさんも同じ場にいた。


 手紙と『水晶玉』があれば、ブロッセン王国が戦争をくわだてていると、メアリさんは諸国にしらせることができる。


 メアリさんへの手紙は、万が一の場合の保険であり、ブロッセン王を説得する材料のひとつでもある。


 現状、ブロッセン王にとれる選択肢はふたつだ。


 俺たちの進言しんげんを拒んで企みを暴かれるか、戦争を取りやめて尊厳そんげんを保つか。


 この二択なら、ブロッセン王は『戦争を取りやめる』ほうをとるだろう。


 ――そう思っていた。


 ブロッセン王が、ニヤリ、と笑う。


「保険とは、きみが送った手紙のことかね?」

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