再会した妖精女王の前だが、みんなのスキンシップが相変わらず激しい。――7

「なっ!?」


 慌てても後の祭り。俺は仰向あおむけに花畑に倒れる。


 すかさずサシャが勝負を決めにきた。


 俺の右腕を胸に抱きしめるように固め、両脚を首に回して締め付ける。柔道の三角絞めに近い寝技だ。


「ぬぅ……っ」

「これで動けないでしょ、師匠!」


 たしかに動けない。


 右腕はとられているし、左腕の可動域も制限されている。両脚は動くけど、この状況から逃れるには不十分だ。


 もはや敗北は必至。


「ぬぐぐぐ……っ!」


 それでも簡単には諦めてやらない。


 最後の最後まで抵抗する俺を、サシャは望んでいるだろうから。


 ジタバタと拘束を振り切るべく暴れ回っていると、ズリッとなにかを引きずる感触が右腕から届いた。


 次いで、フヨン、と柔らかい物体が手のひらに触れる。


 反射的にその物体をつかんだ瞬間、


「ひぅっ!?」


 ギュリィ……!!


 サシャの体がビクッと跳ね、俺の首を絞めている両脚に力が込められる。


「ぐぇ……っ!?」


 潰されたカエルのようなうめき声が、俺の喉から漏れた。


 い、いきなりどうしたんだ、サシャは!? これ、マジで殺すやつじゃない!?


 命の危機を感じつつ、なにが起きたのかを知るため、俺は右腕に視線をやる。


 俺はギョッとした。


 サシャのチューブトップが引きずり下ろされ、ミルクプリンみたいな胸の膨らみが、あらわになっていた。先端のサクランボも丸見えだ。


 しかも、その片方――サシャの右胸を、俺の右手がわしづかみにしている。


 俺は内心で絶叫した。


 毎回毎回なんでこうなるんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?


「お、おっぱい、熱いよぉ……❤」


 サシャの顔が桃色に染まり、声が甘ったるいものになる。


 ギリ……ギリ……!


 強まる両脚の圧力。ますます締め上げられる俺の首。


 け、頸動脈けいどうみゃくが絞められる……! 落ちる! 本当に死んでしまう!!


 視界が暗転していくなか、俺は必死で抵抗した。


 頭をぶんぶんと振り、右腕をがむしゃらに暴れさせる。


「そ、そこグリグリするのスゴいぃ❤ おっぱいムニムニされたら頭真っ白になるぅ❤」


 サシャがなまめかしい声でなにかを訴えているが、俺に気にする余裕はない。なおも首を絞められ、いまにも意識が飛びそうなのだから。


 こ、こんなことで……死んで……堪るか……!!


 死のふちに立たされた俺は、わけもわからず、右手に触れたなにかを思いっきり握りしめた。


 グニュゥ!


「つ、強すぎっ! ……ひあぁああああああああああああああああああああっ❤❤!!」


 サシャの叫び声が遠くで聞こえた気がして――不意に、拘束が緩んだ。


「――――っはぁっ!!」


 ガバッと起き上がり、むさぼるように酸素を吸う。


 ほ、本当に死ぬかと思った! ディアーネさんの姿が一瞬見えた!


 乱れた呼吸を整えつつ、ふと視線を斜め下にやると、


「も、もう無理ぃ……戦えないよぉ❤」


 とろけ顔のサシャがいた。


 サシャの体はビクビクと痙攣けいれんしており、白い肌がくまなく上気している。


 露わになった胸の膨らみが、荒い呼吸に合わせてプヨンプヨンと揺れていた。


 慌てて顔を背ける。


 熱くなった頬が引きつった。


 あ、あれ? 俺、またやっちゃいました?


「サシャさん、ギブアップですか?」

「うん……師匠には勝てなかったよ……❤」


 ミアに尋ねられ、サシャが負けを認めた。


「ご主人さまの勝ちだねっ♪」

「サシャも、ナイスファイト」

「す、素晴らしい、戦い、でした!」


 クゥが万歳ばんざいし、ピピがサムズアップするように小翼羽しょうよくう(人間の、親指の先にあたる部分)を立て、シュシュがパチパチと手を叩く。


 俺は頭を抱え、深く深く溜息をついた。


「……いろいろとゴメン、サシャ」

「いいよぉ? スッゴく気持ちよかったから❤」

「それがよくないんだよ……」

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