最強の冒険者に会ったが、俺は彼女の師匠らしい。――4

「なっ!?」


 予想だにしないサシャの行動に、俺は目をく。


 戸惑う俺の眼前に、サシャの拳が迫る。


 咄嗟とっさに、俺は頭を横にスライドさせて回避した。


 サシャの一撃による拳圧けんあつで、背後のテーブルや椅子が吹き飛ぶ音がする。


 飛んできたテーブルや椅子に襲われたのか、冒険者たちが悲鳴を上げた。


「なにしてるの、サシャ!?」

「シルバさまに手をあげるなんて……!」

「いくら、サシャでも、許せない」

「ど、どういう、つもり、ですか!?」


 四人がサシャをとがめる。


 そんななか、


「な、なにが起きたんだ?」

「わ、わかりません……気付いたら、テーブルと椅子が吹き飛んで……」

「もしかして、サシャがシルバを殴ろうとしたんじゃないか?」


『ナインヘッド』のメンバーたちは、ただ呆然としていた。


 どうやら彼らには、サシャや俺の動きが見えなかったらしい。


 ラフェロさんまでも、ポカンと口を開けている。


「さて、次はあんたたちの番だよ」


 サシャが振り返り、『ナインヘッド』の面々めんめんに告げた。


 ラフェロさんが口端くちはしをひくつかせる。


「な、なにをするつもりだい?」

「あんたたちの実力を確認するんだよ。あんたたちのほうが、師匠より強いんでしょ?」


 だったらさ?


けられるよね? オレの拳」


 幽鬼ゆうきのように、ラフェロさんにユラリと歩みより、サシャが拳を引き絞る。


「ひ、ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 ラフェロさんが悲鳴を上げ、尻餅をついた。


 慌てて俺は、サシャを羽交はがめにする。


「おおお落ち着いて、サシャ!」

「放して、師匠! こいつらに身のほどわきまえさせるから!」

「わきまえさせなくていいよ!? ラフェロさんたち完全にギブアップしてるから! サシャが怒る必要ないからぁああああああああああ!!」


 ジタバタ暴れるサシャを、俺は必死でおさえる。


「あ、あのサシャさんを、抑えている!?」


 ラフェロさんが息をのむ。ほかのメンバーも絶句していた。


 一様いちよう唖然あぜんとしている『ナインヘッド』のメンバーを、クゥ、ミア、ピピ、シュシュが取り囲む。


「言い残すことはない?」

「「「「「「謝罪の機会も与えず!?」」」」」」

「当たり前じゃないですか。むしろ、どうして許されると思ったのですか?」

「どどどどうかご容赦を!」

寛大かんだいなお心で!!」

「シュシュ、判決」

「じょ、情状酌量じょうじょうしゃくりょうの、余地は、ありません。よ、よって――」

「「「「死刑」」」」

「「「「「「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」」」」」」

「みんな、落ち着いてくれぇええええええええええええええええ!!」


 いまにも『ナインヘッド』の面々を手にかけそうな四人を、俺はサシャを抑えながら必死に説得する。


 大混乱におちいる冒険者ギルド。


 壁際で震えている冒険者のひとりが、おののきながら呟いた。


「あ、あんなバケモノたちを束ねるなんて……シルバあいつ、マジで何者だ?」

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