最強の冒険者に会ったが、俺は彼女の師匠らしい。――1

「それで、サシャって、どんなひとなの? パパ」


 装備を整え、四人とハーギスの街を歩いていると、ピピが小首をかしげながらいてきた。


竜人族りゅうじんぞくのSランク冒険者。当代――いや、史上最強と称される冒険者だよ」


 俺は四人に説明する。


「冒険者登録後、二日目でEランク、五日目でDランクに昇格した傑物けつぶつ。俺が現れるまでは、これが最短記録だったらしい。それからも、数々の難関クエストを達成していき、わずか四ヶ月でSランクに到達。まぎれもない天才だ」

「スゴいひとなんだね!」

「けどね、クゥ? サシャが本当にスゴいところは別にあるんだよ」


 感心するクゥに、俺は語る。


「サシャは一四歳なんだ」

「あ、あたしたちと、同い年、ですか!?」

「お若いですね! その年齢でSランクとは、たしかに驚きです!」

「若いだけじゃないよ」


 俺は人差し指を立て、目を丸くする四人に尋ねた。


「みんな、スキルが何歳で発現するか覚えてる?」

「一五歳、だよね?」

「あれ? でも、サシャって一四歳じゃない?」


 答えたピピと、指摘したクゥが、顔を見合わせる。


「シルバさま、もしかして――」


 サシャの規格外きかくがいさに気付いたのか、ミアが息をのんだ。


 俺はコクリとうなずく。


「そうなんだ。サシャは、まだスキルを保有していない。にもかかわらず、Sランクまで上り詰めたんだ」


 四人が言葉を失った。


 サシャについてはじめて知ったとき、俺も四人のように絶句したものだ。


 スキルは、ミズガルドのひとびとの人生を左右するほど重要な、代物しろものだ。戦闘に恩恵をもたらすものも多い。


 そのスキルを持たず、危険がともなう冒険者業をこなすなんて、無謀を通り越して狂気きょうき沙汰さただ。


 しかしサシャは、成果をあげてあげてあげまくり、なおあげ続けている。


「仮に、『SSランク冒険者』ってくくりがあったら、真っ先にサシャが認定されるだろう。サシャは『最強の冒険者』であり、神童しんどうでもあるんだ」


 四人が感嘆かんたんの息をついた。


 そう。サシャは、英雄と呼んでも差し支えない逸材いつざい。ありきたりな表現だが、雲の上の存在だ。


 だからこそ、わからない。


「そんなサシャが、どうして俺なんかに相談しようと思ったんだろう?」


 手紙を読んだときからずっと疑問だった。


 サシャ以上の冒険者はいない。もちろん、俺よりも、ひとつもふたつも格上だ。


 冒険者の頂点に立つサシャが、俺なんかに頼る理由が、サッパリわからない。


「そんなの決まってるよ!」


 腕組みをして「うーん……」とうなっていると、クゥが元気いっぱいに手をげた。


 純度一〇〇パーセントの笑顔で、クゥが答える。


「ご主人さまが大人物だいじんぶつだからだよ!」


「はぇ?」と、俺は頓狂とんきょうな声を上げた。


「いや、俺は大人物なんかじゃないでしょ」

「なにをおっしゃっているのですか? シルバさまは、サシャさんが打ち立てた記録を次々と破っているではありませんか」

「冒険者登録当日に、Eランク。翌日に、Dランクに、昇格」

「え、Sランクに、認定されるまでに、さ、三ヶ月も、かかっていませんし、ね!」

「たしかにそうだけど……」

「それに、魔公を三体も倒しているんだよ? サシャもスゴいと思うけど、ご主人さまはもっともっとスゴいよ!」


 断言したクゥに、「「「うんうん」」」と三人が賛同する。


 う、うーん……言われてみれば、そうかもしれない。意外に、俺って活躍していたのか?


 けど、俺の功績は全部、みんながいてくれたおかげだし……いまいち実感がかないなあ。


「ご主人さまを頼るなんて、サシャは見る目があるね!」

「ええ。それに、手紙の文面も丁寧ていねいでした」

「わきまえてる」

「あ、主さまこそが、一番ですし、ね!」


 俺が頭をひねっているかたわらで、四人はきゃいきゃいとはしゃいでいた。


 相変わらず、みんなの俺に対する評価って高いよね。俺がサシャよりも上だなんて、とてもじゃないけど思えないし、おこがましいくらいだけど。


 俺は頬をきつつ苦笑した。


 まあ、それはそれとして、サシャに会えるのは嬉しい。俺も冒険者のひとり。サシャは憧れの存在なのだから。


 それにしても――


「前々から気になっていたんだけど、『サシャ』って、もしかして……」


 ひとりごちて、「いや、まさかね」と、俺は首を横に振った。

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