最強の冒険者に会ったが、俺は彼女の師匠らしい。――2
冒険者ギルドの扉を開けると、そこにはざわめきが広がっていた。
ロビーには多くの冒険者が集まっており、しかし、ひとり残らず中央を避け、壁際に寄っている。
誰も近づこうとしないロビーの中央――丸テーブルに、ひとりの少女がいた。
前世でいう中学二年生ほどの見た目。クゥと同じくらいの背丈。
燃えるような赤髪はサイドテールにされており、
その頭には二本の角。ショートパンツの腰回りからは、
両手には指ぬきグローブ。
顔立ちはやや中性的で、髪型を変えれば、少年と勘違いしてしまいそうだ。
彼女の姿を目にして、俺は思わず「おお!」と声を上げる。
うわぁ、サシャだ! 『最強の冒険者』サシャが、本当にいた!
冒険者たちがざわめく気持ちが、俺にはよくわかる。
なにしろサシャは、すべての冒険者にとって
感動のあまり立ち尽くしていると、俺の存在に気付いたのか、サシャがこちらを向いた。
俺とサシャの視線が交わる。
サシャの
ガタッ!
サシャが勢いよく立ち上がり、椅子が倒れて音を鳴らし、周りの冒険者たちの肩が跳ねる。
次の瞬間、サシャは軽やかな動作で
「は?」
丸テーブルを飛び越えたサシャが、俺に近づいてくる。
呆然と見上げる俺の前で、サシャは両腕を広げ、輝くような笑顔を咲かせながら、
「会いたかったよ、師匠――――っ!!」
「覚えのある展開!!」
勢いそのまま、俺に抱きついてきた。
俺は慌ててサシャを抱きとめ、倒されないように踏ん張る。
「「「「「「「「なぁっ!?」」」」」」」」
思いも寄らないサシャの行動に、冒険者たちがどよめく。
ギルド内が更に騒がしくなるなか、サシャは気にするふうもなく、俺の胸に頬をすり寄せてきた。
「ああ……師匠だぁ……師匠の匂いだぁ……!」
「へっ? あの、えっ!?」
どどどどうしてサシャが俺に抱きついてきたんだ!? どうしてこんなに嬉しそうに頬ずりして、匂いを嗅いでいるんだ!?
っていうか、そもそも『師匠』ってなに!? 俺、サシャを弟子にとった覚えなんて――いや、誰の師匠にもなったことないんだけど!?
「ねえ、なに勝手にご主人さまに抱きついてるの?」
クゥほどではないが、ミア、ピピ、シュシュも、サシャにジトッとした目を向けている。
ま、またしてもトラブルの予感! まるで、ミア・ピピと再会したときみたいに……
そこまで考えて、俺はひとつの可能性に思い至った。
もしかして、サシャは――
「ヤモリのサシャ?」
尋ねると、サシャは俺を見上げ、金色の瞳をキラキラさせた。
「そうだよ、師匠! オレ、師匠に恩返しにきたんだ!」
やっぱり! 以前から引っかかっていたんだ! 『最強の冒険者』の名前が、前世で助けたヤモリと同じことに!
サシャを助けたのは、俺がひとり暮らしをはじめた日のことだ。
その日から、そのヤモリはたびたび俺の前に現れるようになり、ちっとも逃げようとしないから、サシャと名付けたんだ。
「け、けど、どうして冒険者になったんだ?」
「師匠の役に立つためだよ! オレ、ずっと師匠の強さに憧れていたんだ! あの頃のオレは、ネズミから逃げ回ることしかできなかったからさ! 師匠に恥じない実力を身につけるため、冒険者になって鍛えようって思ったんだ!」
「本当は、すぐにでも会いにいきたかったんだけどね」と、サシャがはにかむ。
なるほど。サシャが、前世でよく姿を見せたのは、俺に憧れていたからなのか……ネズミを追い払ったくらいじゃ、『強い』だなんて誇れないけど。
まあ、サシャにとっては生死にかかわる一大事だったんだし、俺のイメージが美化されてもおかしくないかもなあ。
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