意地の悪い輩だらけだが、勇者は結構いいひとらしい。――4

「勝利」


 俺の膝に座るピピが、薄い胸を「むっふー!」と張った。


 ジャンケンに敗れた三人が、「「「ぐぬぬぬ……」」」と、資料をめくるピピに羨ましげな視線を向ける。


「じゃあ、ボクはご主人さまの隣で読む!」


 悔しそうに顔をしかめていたクゥが、俺の左隣に椅子を持ってきた。


 クゥが椅子に座り、俺と腕を絡める。


 むにゅり、とクゥの胸が左腕に押しつけられ、俺の口から「ふぁっ!?」と上擦うわずった声が漏れた。


「こうすれば、ボクもご主人さまと触れ合えるもんね!」

「あ、あたしも、真似、します!」


 クゥのアイディアに乗っかり、シュシュが俺の右腕に抱きつく。


 シュシュのサラサラな髪が、俺の首元をくすぐった。


 俺は固まるほかにない。


「でしたら、わたしはこうです!」


 俺を抱きしめるように、背中側から胸元へ、ミアが両腕を回す。


 俺の頬とミアの頬がくっつき、心臓が、ドキーン! と跳ね上がった。


 ホットミルクのようなクゥの匂いと、桜のようなミアの匂いと、砂糖菓子のようなピピの匂いと、フローラル系のシュシュの匂いが混ざり合う。


 柔らかくてあったかくていい匂いで可愛すぎるぅうううううううううううううううううっ!!


 俺の頭は沸騰ふっとう寸前だ。


「っ! と、とんでもないことに気が付きましたよ、みなさん!」


 四人のスキンシップにクラクラしていると、ミアがハッと息をのんだ。


「なにに気付いたの、ミア?」

「膝の上、右腕、左腕、背中――このフォーメーションでローテーションしたら、シルバさまと四通りの触れ合いが楽しめます!」

「た、たしかに、その通り、です!」

「ミア、天才?」


 クゥ、ピピ、シュシュが、「「「おおっ!」」」と歓声を上げる。


「わたしたちは一時的に争いました。ですが、争いの先には、より素晴らしい未来が待っていたのです」

「ボクたちの争いには意味があったんだね!」

「雨降って、地固まる」

「や、優しい、世界、です!」


 四人が感動するなか、俺はいろいろと諦めた。


「もう、好きにして……」





 パラ、と、資料を捲る音がする。


 静けさに包まれるなか、ピピが俺の胸に背中を預け、グリグリと頭を擦りつけてきた。


「ほふぅ」


 満足げな吐息が聞こえる。




 パラ、と、資料を捲る音がする。


 静けさに包まれるなか、クゥが左腕に、シュシュが右腕に、スリスリと頬ずりしてきた。


「「えへへへへ」」


 嬉しそうな笑みが聞こえる。




 パラ、と、資料を捲る音がする。


 静けさに包まれるなか、ミアが俺の襟足えりあしに鼻を近づけ、クンカクンカと匂いを嗅いできた。


「ふみゅぅ」


 幸せそうな鳴き声が聞こえる。




 パラ、と、資料を捲る音がする。


 静けさに包まれるなか、俺は理性をたもつために、全神経を資料に集中させていた。




 そんな、真面目なんだかうわついているんだかわからない時間は、日が暮れるまで続いた。

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