四体目の神獣と再会したが、彼女には事情があるらしい。――6

 それから、さらに二〇分やり取りをして、俺がタメ口、ラウルさん……ではなく、ラウルが敬語で接するという関係に落ち着いた。


 年上からうやまわれる時点で、すでに違和感があるが、舎弟と言い張られるよりはマシだ。


「先ほどは、ホント、失礼しました! シルバさんたちなら、『刺客の捕縛』クエストなんて楽勝っすよ!」


 親指を立てながら太鼓判たいこばんを押すラウルに、俺は尋ねる。


「ラウル、『刺客』ってのはなんのことか、わかる?」

「ワンからやって来る、フィナルを荒らすやからのことっす!」


 ラウルが背筋をビシッと伸ばしながら答えた。


「シルバさんは、フィナルとワンが抗争していることをご存じっすか?」

「うん、一応」


 まさに、それをしずめるために来たからね。


「実は、はじめはそれぞれの村人のケンカで、抗争って呼べるほど大それたものじゃなかったらしいんすよ」

「へえ。それじゃあ、なんで抗争に発展したんだろう?」

「『刺客』が現れたからっす」


 俺が疑問すると、ラウルが神妙しんみょう面持おももちで人差し指を立てる。


「フィナルから来た『刺客』が、ワンのひとたちを襲ったんす。それから、報復のようにワンからフィナルに『刺客』がやって来て、そこからは泥沼っすわ」


 なるほど。ただの小競こぜいで済むはずだったけど、それぞれの村から訪れた『刺客』が村人を襲ったから、抗争に発展したのか。


 たしかに、仲間が襲われて黙っていられるはずがない。やったり、やり返したりしているうちに、争いの規模がどんどん大きくなっていったんだろう。


「『刺客』に苦しめられた、それぞれの村は、冒険者ギルドの力を頼りはじめたんす。フィナルはポッサへ、ワンは、ブルート王国の冒険者ギルドへ『刺客の捕縛』を依頼したんすよ」


 ラウルの説明を聞き終えた俺は、顎に指を当てて思案した。


 どこか作為的さくいてきなものを感じる。


 ワンの村人とケンカをしたフィナルの村人が、憎しみのあまり『刺客』を差し向けた。一応、流れとしてはあり得るだろう。


 しかし、シェイラさんの話では、この抗争の裏には魔王軍が暗躍あんやくしている可能性があるらしい。


 決め付けるのは早計そうけいだが、魔王軍が、抗争を起こすために『刺客』を用意したとは考えられないだろうか?


 これは、詳しく調べてみる必要があるな。


 俺は「教えてくれてありがとう」とラウルに礼を言って、三人に尋ねる。


「みんな、『刺客の捕縛』クエストを受けようと思うんだけど、いいかな?」

「賛成だよ!」

「ええ。これは受けるべきクエストです」

「ん。解決の、手がかりになる、かも」


 賛同してくれた三人にうなずきを返し、俺は受付カウンターへ向かった。

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