俺は王国騎士になれなかったが、協力要請がきたらしい。――7
訓練場のタイルを踏みしめ、俺はフリードと
「逃げなかったことだけは褒めてやろう」
「勇気と無謀を履き違えた愚か者にしては上出来だ」
俺は木剣を構えながらフリードを
意識して気を引き締めないと、
向かい合っているだけで汗が頬を伝う。
心臓が頭のなかで鳴っているようにうるさい。
早くも呼吸が乱れている。
途方もない緊張と恐怖が、俺に襲いかかっていた。
「さて、さっさと終わらせるか。覚悟はいいな?」
「もちろんだ、いつはじめても構わない」
気を抜くと震えてしまいそうな声で、俺はなんとか答える。
「いいだろう。そこで見守っているお仲間に、
訓練場の端で祈るように手を合わせている三人を見やり、ニタリ、とフリードが
フリードが半身になり、木剣を下段に構える。
フリードの構えに、俺は目を見開いた。
あれは『ゲイルリープ』の構え! 一撃で終わらせるつもりか!
『魔剣技』とは、魔法と『闘技』を融合させた技だ。
『闘技』スキルの上位版である『魔剣技』は、あらゆる点で『闘技』より優れている。
いまフリードが用いようとしているゲイルリープは、言うなれば、攻撃判定のついた『
発動すれば、回避することはまず不可能。文字通り、俺は一撃必殺されるだろう。
ただで倒れてやるものか!
「食らえ、最底辺!」
フリードがゲイルリープを発動させる。
もはや俺の目で、フリードの姿を捉えることはできない――はずだった。
俺は自分の目に映る光景に眉をひそめる。
あれがゲイルリープ? たしかに速いけど、せいぜい全力疾走しているようにしか見えないぞ?
そうか、フリードは手を抜いているんだ。あれだけ俺をバカにしていたフリードのことだ、本気を出すまでもないっていう意思表示なんだろう。
自分の推測に納得し、俺は右に跳んでゲイルリープを回避した。
俺の脇をフリードが駆け抜けていく。
振りかえると、ゲイルリープを終えたフリードが、残心の姿勢をとっていた。
俺は油断なく木剣を構える。
フリードはゆっくりとこちらを見やりながら、「ふん」と鼻で笑った。
「たまたま踏んだサイドステップで回避できたか! どうやら運だけはいいようだ。臆病が幸いしたなあ、最底辺!」
フリードが俺を
しかし、蔑まれた俺が感じたのは、怒りではなく不可解だった。
なにを言ってるんだ? 俺がサイドステップを踏んだのは偶然なんかじゃない。そんなこと、手加減したフリードもわかっているはずだろう?
「だが、まぐれは二度も続かんぞ!」
疑問を覚える俺の前で、フリードが中段に木剣を構える。
瞬間、フリードの姿が無数にブレた。
ブレはフリードの分身となり、俺目がけて
魔剣技『ミラージュストリーム』。一時的に生み出した分身とともに、連続攻撃を仕掛ける大技だ。
「ご主人さま!」
「シルバさま!」
「パパ!」
戦いを見守る三人が悲鳴を上げる。
そんななか、やはり俺は戸惑っていた。
みんな、どうしてそんなに慌てているんだ? こんな遅い攻撃、いくら数が増えても怖くないじゃないか。
四方八方から迫るフリードの木剣を、俺は見切り、
いつになったらフリードは本気になるんだ? この程度の攻めでは俺に勝てないことくらい、とっくにわかっているはずなんだけど……
三体同時に放たれた斬り下ろしをまとめて防ぐと、真ん中のフリードを残して分身が消えた。どうやらミラージュストリームを
とは言っても、気を抜くのは論外だ。ここまでは、あくまで小手調べってとこだろう。ここからが本番だ。
気を引き締め直す俺の眼前で、フリードが奥歯を
「貴様、なにをした……?」
「は?」
「どんな細工をしたのかと
フリードは、怒りと焦りに染まった
目を血走らせ、汗まみれになりながら、フリードが木剣を振り回す。
「なぜ、俺のミラージュストリームが凌がれた!? 貴様のような最底辺に捌ききれるはずがないだろうがぁああああああああああああっ!!」
フリードの児戯じみた乱撃を、体さばきのみでやり過ごしつつ、俺は思う。
もしかして、フリードは最初から本気だったのか? ゲイルリープもミラージュストリームも、小手調べなんかじゃなくて全力で放っていたのか?
だったら、どうして俺は凌ぎきれたんだ? どうして、王国騎士団の隊長の振るう剣が、チャンバラごっこみたいにお粗末なものに映るんだ?
そこで俺は、はたと気付いた。
俺が強くなったから? ドッペルゲンガーとの戦いを経て、成長したから?
ドッペルゲンガーは魔公。Sランクのモンスターである魔人すら
当然ながら、倒した際に得られる経験値は
つまり――
俺の実力は、すでにSランク冒険者を超えているんじゃないか? だから、フリードの本気を手抜きだと勘違いしたんじゃないか?
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