俺は王国騎士になれなかったが、協力要請がきたらしい。――4

 パタン、とドアが閉まり、シェイラさんが深く溜め息をつく。


「すまない、シルバくん。私の部下がとんだ狼藉ろうぜきを働いてしまった。申し開きもない」

「いえ、気にしないでください」

「そういうわけにはいかないよ!」

「ええ。決して許すことはできません」

「フルボッコ」

「みんな、広い心を持とうね! 神獣形態になろうとするのはやめようね!」


 いまにも暴れ出しそうな三人を、俺は必死で制止した。


「それにしても、フリードさんは、なぜ俺を目のかたきにするんでしょう? それから、『尻拭い』とはなんのことですか?」


 なんとか三人を落ち着かせた俺は、シェイラさんに尋ねる。


 シェイラさんは、もう一度溜め息をついてから、事情を語りはじめた。


「実はね、シルバくん――」


 シェイラさん曰く、『尻拭い』とは、先日の魔公討伐に関することらしい。


 魔公ドッペルゲンガーの討伐に向かったのは、フリードさんが隊長を務める二番隊だった。


 しかし、フリードさんはその日、貴族のパーティーに招かれていたらしく、指揮権を副隊長に預け、魔公討伐ではなくパーティーに参加したそうだ。


 結果、二番隊は壊滅状態におちいった。


 フリードさんは、一連の責任から隊長の任をかれ、現在、シェイラさんの側付きになっているらしい。


「フリードくんがシルバくんを敵視しているのは、おそらく単なる八つ当たりだろう」

「なにそれ!? 全部、フリードが悪いんじゃない!」

傍迷惑はためいわくとはこのことですね」

「目が覚めるような、クズ」

「まったくもってその通りだ。擁護することもできないよ」


 三人の辛辣しんらつな物言いに、シェイラさんは疲れたように目を覆う。


 先ほどフリードさんが見せた、嫉妬混じりの表情の理由を、俺はなんとなく悟った。


 フリードさんは、自分の失態を埋め合わせた俺に、劣等感を抱いているんだろう。


 しかも、俺は平民でFランクスキル保有者。一方フリードさんは、貴族であり王国騎士団の(元)隊長だ。


 立場が上の自分が叱責され、自分より下に見ている俺が賛辞されれば、ねたましく思うのも当然だろう。


「それにしても、どうしてフリードさんは、魔公討伐よりもパーティーを優先したんでしょうか?」


 王国騎士団は、ブルート王国と国民を守る存在だ。それなのに、フリードさんは使命を果たさずにパーティーを選んだ。


 どうしてそんなにも無責任な選択をとれるのか、俺には理解できない。


「フリードくんは貴族なのだが、最下位の男爵だんしゃくなんだ。どうやらフリードくんは、自分の地位にコンプレックスがあるらしくてね? ほかの貴族に贔屓ひいきされたがるがあるんだよ」


 つまり、フリードさんは自分のコンプレックスを解消するために、任務を放棄してパーティーに参加したということだろう。


 そんな不道徳なひとが王国騎士団にいたことに、自分の憧れていた騎士の性根しょうねが腐っていたことに、俺は少なからぬショックを受けた。


「それでもフリードくんの実力は折り紙付き。王国騎士団に欠かすことのできない主戦力だ。そのため、側付きにして私が直々に教育しているのだが……結果として、きみたちに不快な思いをさせてしまった」


「本当に申し訳ない」と、シェイラさんが深々と頭を下げた。


「つまり、あのフリードってひとは、助けてもらった分際で、ご主人さまに悪口を言ったってことだね?」

「重罪ですね。万死ばんしあたいします」

「クゥ、ミア。王都の近くに、池があった」

「なるほど、沈めればバレないね」

「決行するなら、ひとの少ない夜中を選ぶべきではないでしょうか?」

さらうときは、ピピに任せて」

「殺害計画をくわだてている!?」

「ま、待ってくれ! あんな男でも王国騎士団には必要なんだ! 罰はこちらで与えておくから、どうかひらにご容赦ようしゃ願えないだろうか!?」


 物騒な話し合いをする三人を、俺とシェイラさんが慌てて説得する。


 ただ、俺もフリードさんには怒りを覚えていた。


 俺がバカにされたことはどうでもいい。


 けれど、魔公討伐よりもパーティーを選んだことが、部下の命よりも、自分の立場を優先したことが、どうしても許せなかった。

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