第99話 サラ工房 その2

「それで、2人はやってくれるのかい?」


「やろう」 「やります」


 グレイとリズが同時にいう。


 工房を出ると路地の中を歩きながら


「いろんな職人さんがいるね」


「それにしても職人のスキルアップもあるんだな」「ね」


 ギルドに戻った2人は受付にクエスト依頼表を出して


「これを受ける」


「本当ですか?よろしくお願いします」


 その声を聞いてギルドを出て城門から外に出ると、


「さてと、どのあたりに行こうか」


「人がめったに行かない沼となるとやっぱり西の森の奥かな?」


「あるいは北に行くか」


「北はもう雪が積もってるかもだよ?」


「沼は大丈夫だろう。リズを抱えて飛んでいけば移動も楽だしさ」


「じゃあ北にしよ」


 リズはグレイに抱えられて飛ぶのが好きなので北に行くことにした。最北の村まで移動魔法で飛ぶとそこは一面雪化粧だった。


「もう積もってるね」


「まだ歩けない程は積もってはないけどな」


 そうしてその場でリズをお姫様だっこすると浮遊魔法で浮き上がるグレイ。


「俺も探すけどリズも頼むぜ」


「もちろん」


 浮遊したグレイとリズは北の村からさらに北の方角にゆっくりと飛んでいく。眼下には真っ白に雪化粧した草原が続いていて、川はあるが沼はまだ見えない。大陸を東西に走っている大きな山脈の姿が目の前に近づいてくる。しばらくお姫様抱っこをしながら飛んでいると、


「前に森があるわ」


 顔をあげるとリズが指差している方に雪をかぶっている森が見えた。グレイはその方向に飛んでいき森の上に着くと速度を落として地上を見る。


「魔獣もいるわね」


「当然だな。ランクAクラスだ」


 空を飛んでいるので魔獣も気づかず、その上を飛び越えると更に森の奥に向かっていくグレイとリズ。


「見て、右手の前方に沼よ」


 リズが言う方向を見ると確かに森の中に大きな沼が見えた。周囲は雪が積もっているが沼の水面が綺麗に見えている。


「大きな沼だな。降りよう」


 沼の淵におりるとすぐにリズが範囲化した強化魔法をかける。グレイはリズの肩を軽く叩いてお礼を言うと2人並んでゆっくりと沼の周囲を歩き始めた。


 2人が歩いた後には雪の上に足跡ができていく。シーンとした静かな森の中をサクサクという雪を踏む音だけが響いて、


「静かね それにすごく綺麗な沼」


「ここにはまず人が来ないんだろう」


 沼の淵を半分程歩いたところで沼の中から生えている木を見つけ、近づくとその木の周りに沼の水の中に埋まっている木が見えた。


「埋れ木だ」


「本当だ」


 グレイはその場で浮遊すると沼の水面に降りていき、水面すれすれで止まると手を伸ばして水の中から埋れ木を取る。2メートル程の大きな埋れ木だ。


「やったね、グレイ」


 沼の淵、リズのそばに着地するとその木を見せてリズも埋れ木だと確認してからアイテムボックスに収納する。


「サラの為にもうちょっと集めよう」


 その後同じ様に沼の中から2本の埋れ木を取り出したグレイ。2本目は1本目ほど大きくないが、それでも1.5メートル程あり、3本目はなんと3メートル近くある埋れ木の大木だった。


「これくらいでいいか」


「そうね。全部取ると困る人も出ちゃいそうだしね」


 そうして3本をアイテムボックスに入れたグレイとリズは帰りは移動魔法で一瞬でエイラートの街に戻ってくる。そうしてそのままサラの工房に出向いて、


「埋れ木、持ってきたよ」


「もうかい?早いね。そうかグレイの移動魔法ならすぐか。じゃあ早速だけど店の裏持ってきてくれないか?工房で出してくれるかい?」


 サラに続いて店の奥にいくと、そこは想像以上に大きな工房だった。様々な木が壁に並べられていて、見たこともない様な木を切る機械、そしていろんな形をしているノミが整然と並んでいる。


 サラは大きな作業台を指差して、


「ここに出してくれるかい?」


 言われるままにアイテムボックスから3本の埋れ木を並べるグレイ。


「3本も取ってきてくれたのか。それに大きな埋れ木だね。これほど大きなのを見るのは久しぶりだよ。どこで取ってきたんだい?」


「最北の村の更に北にある森の中にある沼からです」


 リズが作業台に置かれた埋れ木を見ながら言う。


「それにしても移動魔法は便利だね。そんな遠い場所まであっという間に行けちゃうなんてね」


 そう言ってから2人の顔を見るサラ。


「クエストはこれで終了だよ。この用紙を持ってけばギルドから報酬が出るだろう。もっともあんた達にとったら端金かもしれないがね。それよりも」


 サラは続ける。


「この埋れ木を使って私にあんた達の新しい杖を作らせてもらえないか?もちろんお代は要らないよ」


「作ってくれるというのであれば是非お願いしたい。ただし金は払うよ」

 

 グレイがキッパリと言う。


「リズもそうかい?」


「もちろんです。新しい技術を使って作っていただけるのならちゃんと仕事の報酬を支払うのは当然ですよ」


 2人の話を聞いたサラ。


「エイラートじゃグレイとリズとケリーは強いだけじゃない、人としても一流だって皆言ってるけど本当だね」


 感心しているサラに、


「サラ、この埋れ木から杖を作る時に精霊士のケリーの杖もお願いしたい」


「そうね。私たちの分2本ともう1本お願いします。材料は足りますか?足らないのならまた探してくるけど」


「わかった。3本作るよ。材料はこれだけありゃ十分さ。3本作ってもまだかなり余る。店の在庫においておくよ」


 その言葉を聞いてホッとする2人。その後グレイとリズの杖をサラに見せる。ケリーの杖はリズのと同じ長さだと言うと、その寸法を測定して形状をスケッチする、最後に3人の身長を聞いて控えてから作業台に置いていた2本の杖を2人に戻して、


「形は少し変わるかもしれないよ。もちろん持ちやすく、握りやすい様に加工する。それでいいかい?」


「構わない。プロに任せるよ」


「お願いします」


「2週間ほど時間をおくれ、2週間経ったらこの工房に取りにきてくれりゃあいい。代金はその時で結構だよ」


 サラの工房を出た2人はギルドに寄ってクエスト終了書を渡して報酬の金貨3枚を受け取った。そしてその足でケリーの自宅に顔を出す。

 

 自宅にいたケリーにサラ工房のクエストの話をすると、


「申し訳ないわね。何もせずに杖だけ頼んじゃって」


「クエストを選んだのは俺とリズだから気にしなくてもいいさ」


「でも職人のスキルアップか。発表したらその工房は大人気になるんだろうけどね。当人が言いたがらないならどうしようもないけど」


 ケリーの言葉にグレイは、


「杖を引き取りに行くときに会えばケリーもわかるけどさ、職人気質の女性だったよ。世間の評判よりも自分の腕を磨くことに生きがいを感じてる様な」


「それってまんまグレイじゃない」


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