第96話 グレイの魔力量 その1

「久しぶりだね」


「エニスもマリアも元気そうね」


「おかげさまでね」


 グレイのBARは貸し切りだ。昼間にエニスから連絡があり久しぶりにBARに顔を出すというので早々にCLOSEDの札を吊るしたグレイとリズ。


 例によってカウンターにはエニス夫妻とケリーが座っている。


「そういえばさ」


 ケリーがそう言ってこの前のダンジョンでの不思議な魔獣を討伐したことをエニスに報告する。黙って話を聞いていたエニスはケリーの話しが終わると、


「そんなのは俺も知らないな。見たことがないよ」


「エニスも知らないか。一体なんだったんだろうね」


カウンターの中からリズが言う。


「ダンジョンの核の一部が何かの事情でフロアの中に出てきたという説明が今のところ一番納得しそうだけどね。でも本当のことはわからないよな」


「それしか説明がつかないだろう? 核本体なら絶対にあんな弱さじゃないだろうし」


「グレイの言う通りだね。でも本当にダンジョンってどうなってるんだろうかね」


 グレイとエニスのやりとりを周囲は聞いているが正解がわからないので話しも中途半端で終わる。


「グレイとリズ、ケリーはもう冬籠りの準備は終わったの?」


 マリアが話題を変えて聞いてくると、ケリーがまずマリアに顔を向けて、


「1人暮らしだからね。量も多くないし、普段からいろいろ備蓄してるの。去年を経験してるし今年はもう準備完了よ。リズのところはどうなの?」


「うちもほとんど終わってる。それに万が一何か急に入用になってもグレイの移動魔法で王都やティベリアに飛んだらすぐに手に入るし」


「それがあるか。じゃあ私も何かあった時はグレイに頼もうかな」


「私も」


 リズの言葉にケリーとマリアが笑いながらグレイの顔を見て続けると、


「ケリーやマリアの頼みなら断らないからさ。何かの時は遠慮なく言ってくれよ」


 グレイも快諾する。移動魔法で事が済むのならお安い御用だ。


「このBARはどうするの?」


「去年は雪が多い日は閉店してた。結局お客さんが来ないんだよ。だから今年もそうするつもり。大雪の日は店を開けない予定だ」


 マリアに答えるグレイ。


「ただ、ここにいるメンバーは別だよ。事前に連絡くれたら大雪だろうが何だろうが店は開けるから」


「それを聞いて安心したよ」


 本当に安心した表情をするエニス。


「多忙な領主様の息抜きの場だろ?協力させてもらうよ。領主相手だと飲み代の取りっぱぐれもないしな」


「グレイ相手に飲み代を踏み倒す客なんていないだろう?」


「まぁな。うちはいつもニコニコ現金払いだ」


 グレイとエニスが冗談を言い合っているのを他の3人の女性陣も微笑みながら聞いている。


「領主ってのは冬の間でも忙しいんだろう?」


 グレイが酒のおかわりをエニスの前に置いて言うが、


「それがさ、去年はほら王都にいただろう?だからよくわからないんだよ」


 それを聞いたグレイは笑いながら


「エニスらしいな。でもまぁ普通に考えたら忙しいんだろうけど、去年エニスがいなくても何とかなったから今年もいけるんじゃね?」


「グレイは相変わらず自分に関係のないところだと無責任ね」


 ケリーがグレイとエニスの話を聞きながら呆れていうが、


「でもさ、ケリー。領主なんていかに有能な側近を揃えるかだろう?全部自分でやってたら身体がもたないぜ?」


「まぁね。そう言う点ではエニスって恵まれてるよね」


「その通り。俺は恵まれてる」


「あっさり認めるのがエニスのすごいところね」


 その後5人でワイワイ言いながらリズの作った料理を食べ、酒を飲む。グラスの中の酒を飲んだエニスがリズからおかわりを貰うと、


「また皆でダンジョンに行きたいな」


 そう言うとマリアも、


「ダンジョンの中ってさ、雪とか関係ないからエイラートの雪に関係なく行けるよね?」


「もちろん。グレイが飛ばしてくれるからどこでもOKよ」


「ケリー、お前がそれを言うのかよ」


 そう言いながらグレイはふと思いついて、それを口にする。


「ダンジョンといえばさ。あの例のモンスターハウス」


 皆はグレイが何を言い出すのかと黙って聞いていると、


「俺のグラビティの魔法、あのモンスターハウスにいた60体ほどのランクAの魔獣に通用するかどうか確かめたいと思ってるんだ」


 そう言うとすぐにケリーが、


「ランクA60体全部に同時にグラビティを掛ける気なの?」


 呆れた顔で聞いてくるが、グレイは至極真面目な顔で、


「そうだ。必中の魔法のグラビティ。俺の魔力量でどこまで通じるのかやってみたいと思ってね」


「魔力欠乏症になったらどうするの?」


 隣からリズが心配して声をかけてくる。


「そんときは頼むわ。魔力欠乏症で倒れたときは残りのメンバーで討伐よろしく」


「全くグレイは凄いこと考えてるんだな」


 エニスも感心というか呆れて聞くがグレイは真面目な顔でエニスを見て、


「自分が魔力量が多いってことはわかってるが、どこが限界かまではわかってないんだよ。そこまで使い切ったことがないからさ。魔王討伐の時だって魔力がもうないって思ったことはなかったし。そう言う点ではランクAがあれだけ固まっているモンスターハウスは自分の魔力量を測るには丁度いいかなと思ってさ」


「本当に検証するのが好きね」


 マリアまで呆れていう。グレイ以外、いやリズは心配しているが、他の3人は呆れ返っていたが、しばらくしてエニスが、


「グレイが検証したいって言うのなら協力するよ。万が一の時は残りの4人でなんとかなるだろう。リズの強化魔法があればそうそうダメージも喰らわないしな」


「ということはやるの?」


 マリアがエニスと見て言うと、


「俺はグレイに協力したい。というか本音はグレイの魔力量の限界ってのを見てみたい。でも意外と60体のランクAにグラビティを撃ってもケロっとしてるかも知れないけどね」

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