第94話 ダンジョンの謎 その2
冒険者達がもう一度礼を言って10層の入り口に戻っていく後ろ姿を見てからグレイはケリーとリズに顔を向けて、
「11層に降りる階段の近くに原因がありそうだな」
「その様ね。一体何がいるのかしら。それにしてもさ、グレイのグラビティってこう言う場面だと本当に重宝する魔法ね。反則級よ」
「確かに。集団戦に向いてるよな」
ケリーの言葉に頷くグレイ。50体をまともに相手することを考えればグラビティで遅延させてから討伐する方がずっと安全だ。
3人は魔獣がいなくなった森を11層に降りる階段を目指して進んでいく。ダンジョンでは魔獣が倒しても数分から十数分でリポップするので魔獣がいない時間もそう長くはないが、仮にリポップしてもランクSの彼らの前では障害になるはずもなかった。
「グレイ」
リズが歩きながら声をかける。その直前にグレイも魔獣の気配を感知していた。そのまま目標に歩いていくと、
「これが原因ね」
とケリー。
「というか。何なんだ?これ?」
3人の目の前には黒くてモヤモヤした塊が地上1メートル辺りにふわふわと浮いている。
「初めてみた。これって魔獣なの?」
遠目に見ながらケリーが言うが、
「俺の気配感知では魔獣になってる」
「私も」
グレイの言葉に続けてリズが言う。
「いや、私も魔獣になってるけどさ。でも初めてだよ、こんなの」
黒いモヤモヤしたものは攻撃を仕掛ける訳でもなくその場で浮いている。どうしたものかと3人が見ていると、その前でモヤモヤが激しく動くとその中から突然魔獣が現れた。
「魔獣を産んでる?」
「ランクBの魔獣だ。これがダンジョンの魔獣の元なのか?」
生まれた(?)魔獣はしばらくすると動き出し、目の前にいる3人を見つけると叫び声を上げて突っ込んでくるが、ケリーが精霊魔法でさっくり倒す。
「ダンジョンの魔獣の元なら倒しちゃまずいってこと?」
精霊魔法で倒した魔獣が光の粒になって消えていくのを見ながらリズが疑問を口にするが、その質問には誰も答えられない。しばらくしてからケリーが、
「でもさ、今まで長い間ダンジョンにいろんな冒険者が挑戦してきているけど、魔獣を発生させる魔獣の報告なんて聞いたことがないわよ?」
その言葉にグレイも頷き、
「ケリーの言う通りだ。突然変異か何かだろう。このまま残しておくとまた魔獣が集団で冒険者に襲いかかってくるかもしれない。倒しちまおう」
そう言うとケリーが精霊をモヤモヤに撃ち込んだ。
精霊魔法が直撃すると一瞬モヤモヤが拡散したが、すぐにまた集まってくる。
今度は弱体から精霊のコンボで精霊魔法をぶつけるが同じく効果がない。
「弱体魔法も効いてないみたいね」
ケリーががっかりした表情で言うのを聞きながら、グレイは、
「リズ、神聖魔法を頼む」
「うん」
リズが神聖魔法のホーリーをモヤモヤにぶつけると、それまでとは違ってモヤモヤが激しく収縮し始めた。
グレイがもう一回という声を出した時には既にリズの2回目の神聖魔法がモヤモヤに命中し、そのまま急に収縮すると黒く小さな塊となって地面に落ちた。
3人は近づくと地面に落ちた黒い塊を見る。
「魔石?」
「かな? いずれにしてもギルドに持って帰って分析してもらおう」
グレイが慎重に黒い塊を拾うとアイテムボックスに収納した。
「他には何も感じないよな」
「ないわね」
念のためと3人は11層へ降りてそうして11層の気配を探ってみると、そこはいつも通りのダンジョンで、魔獣の気配が点在していた。
そのまま地上に戻った3人。 ダンジョンから出ると集まっていた冒険者達に囲まれるが、グレイはまず詰所から来ていた衛兵に、
「とりあえずギルドから次の指示が出るまで、このダンジョンは立ち入り禁止にしてくれるか?」
「わかった」
ランクSの3人から言われると無条件に承諾する衛兵。
「俺達は今からエイラートに戻ってギルマスと話をしてくる」
そう言って移動しようとすると、背後から複数の声で
「「ありがとうございました」
振り返ると10層の岩場の上にいたランクBのパーティメンバー達で、その元気になった姿を見て軽くてをあげると移動魔法でその場からエイラートに戻っていった。
ギルドに入ると冒険者達の視線が一斉にグレイらに注がれてくるが今はそれを無視してカウンターに向かうと、グレイが話す前に受付嬢が立ち上がって3人を奥に案内する。
ギルマスの執務室でことの次第を順序立てて説明するグレイ。グレイの説明の間一言も発せずに黙って効いていたギルマスはグレイの話が終わると、
「まずは冒険者全員の安全が確認できた。助かった」
そこで一旦言葉を切って、
「それでその原因であろうと思われる黒い塊ってのを見せてくれるか?」
ギルマスに言わるままにテーブルの上に黒い塊を置く。それを食い入る様に見るギルマス。
「魔石じゃないみたいだな」
「そうなの。私も魔石かなと思ったんだけど、外見から見ても少し違っている」
ケリーが視線を固まりに注ぎながら言う。しばらくそれを見ていたギルマスは顔を上げて、
「とりあえずこれはうちで分析してみる。練金ギルドと鍛冶ギルドの連中にも協力を仰いでな。それでだ、その黒い塊は一体何だったんだという話だ」
「私の精霊魔法はほとんどダメージが与えられなかった。リズの神聖魔法2発で倒したから普通に考えたらアンデッドの一種ってことになるんだろうけど。私もあちこちでいろんな魔獣と戦ったけどこんなの初めてだわ」
ケリーの言葉にリズが続けて、
「私も初めて。ケリーの精霊魔法は無効化されていたみたい。恐らくだけど物理攻撃も効かないんじゃないかしら」
2人の説明を聞いていたギルマス。何も言わずにグレイに顔を向ける。
「このもやもやから魔獣が生まれた。そう言う点から言うとダンジョンの核の一部が何かの拍子に10層に現れたとしか言いようがない」
ダンジョンの核とは誰も見たことがないが、倒した魔獣がリポップするのはダンジョンのどこかにダンジョン核があり、それが魔獣を定期的に生み出しているのだと言うのがこの時代の通説になっている。
「今のところグレイの説明が最も説得力がありそうだ。わかった。とにかくこいつを分析してみる」
「このダンジョン、とりあえず立ち入り禁止にしているんだが、そこはどうする?」
グレイの言葉にギルマスは、
「明日ランクAの冒険者をもぐらせる。それで問題がなければ立ち入り禁止は解除することにする」
そうしてギルマスとの話が終わって受付のところに戻ると、そこにいた冒険者から質問攻めにあう3人。
ある程度の事情は話ししたが、原因は俺達にもわからないとダンジョンの核のことは言わずにギルドを後にした。
「ダンジョンってまだまだ不思議なことが多いわよね」
「本当ね。これだけダンジョン攻略しててもまだ新しい事実がどんどん出てくるもの」
リズとケリーのやりとりを聞きながら本当にその通りだ、まだまだ知らないことが沢山あるとグレイも思っていた。
「とりあえず俺達の仕事は冒険者の救出とその原因を探るってことだったから。その点に関して言えばギルドにはしっかり報告できたってことだよ」
グレイがそう言うとリズとケリーも納得したのか
「そうね。わからないことをグダグダ言っても仕方ないか」
その後ギルドから聞いた話しだと、エイラートでは分析しきれない事がわかり、あの塊は王都に送り、王都にて本格的に分析をすることになったらしい。
「王都でもわかるかどうかは知らないけどな。まぁ俺たちの手を離れたってことだ」
ギルマスはそう言ってから、
「今回の様なケースは王国、いや大陸でも初めてだろうってことだ。そしてその黒い塊はグレイらがとりあえず討伐してくれた。なのであのダンジョンは既に以前の様に一般の冒険者に開放している」
「まぁ、いつまでも立ち入り禁止ってわけにはいかないだろうしな」
「そういうことだ」
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