第93話 ダンジョンの謎 その1

 毎日どんよりと曇る日が多くなり、いつ初雪が降ってもおかしくない気候になった晩秋のエイラート。


 ギルド所属の冒険者達は最後のクエストをこなすべく、護衛やダンジョン、そして森に出るなど日々忙しく過ごしている。


 グレイとリズの2人は相変わらずの日々で、たまにケリーを入れて3人で西の森でランクAを相手にスキルあげをし、夜は酒場を開いていた。


 この日朝の鍛錬を終えていつものスキル上げに向かおうかと準備をしているとギルドの職員が息を切らせてやってきた。


「すみません。至急ギルドまでお願いします」


 その様子でただ事ではないと2人はすぐに家を出て職員と一緒にギルドに向かう。ギルドの中に入ると受付付近は騒然としていて多数の冒険者達が声を出している中、カウンターの奥のギルマスの執務室に入っていった2人。


「悪いな、急用だ。ここのダンジョンで魔獣が暴走しているという情報を冒険者経由で聞いた。暴れているのはランクBらしいが詳しいことは分からない。まだダンジョンの中で暴れているだけだが、万が一外に出てきたら厄介だからな。お前さん達に処理してもらおうと思ってな」


 ギルマスが指差した地図にあるダンジョンはグレイが過去に行ったダンジョンだ。


「わかった。ケリーにも声をかけて行けるなら3人で。無理ならリズと2人で行くよ」


「頼む」


 執務室を出ると受付前にいた冒険者達から


「グレイとリズが行ってくれるのか?」


「ああ。ところでダンジョンの中に残ってる冒険者はいるのか?」


「それが分からないんだよ。情報が錯綜しててな」


「そうだろうな。とにかく行ってくる」


 短いやりとりをするとケリーの家に飛んだグレイとリズ。在宅していたケリーに事情を話しすると。


「午後に授業があるんだけど、そう言う事情ならそっち優先ね」


 そう言うと精霊士のローブを来て杖を持つケリー。3人でケリーの自宅から移動魔法でダンジョン前に飛ぶと、ダンジョンの入り口には冒険者達が入り口を囲む様にして立っていた。 誰かが、


「グレイとリズとケリーだ!」

 

 そう言うと皆一斉に3人を見る。ダンジョンの入り口に近くと、


「中には誰か残ってるのか?」


「今確認中なんだが、2、3組のパーティとは連絡がついていない」


「暴走ってどんな感じなの?」


 ケリーが聞く。1人の冒険者が


「俺達は中から逃げ出してきたんだけど、10層のランクBの魔獣が急に集まり出して集団でフロアを走り回りだしたんだ」


「このダンジョンの10層って…」

 

 リズがそこまで言うと、ランクAの冒険者がその言葉を引き継いで、


「このダンジョン、10層から15層までは森のフロアなんだ。だだっ広いフロアで普段はバラバラにいる魔獣が何故か急に固まって俺達に襲いかかってきやがったんだよ」


「わかった。今から俺達3人が入るから、皆は入らない様にしてくれ」


 そう言うと入り口から中に入っていった3人。


「ランクSの3人なら原因を突き止めてくれるだろう」


「どっちにしても俺達はグレイらが戻ってくるまで入り口を固めておこう」


 ダンジョンの中に入った3人。


「一気に10層に飛ばず、1層から順に見ていこう」


「それがいいわね」


 ケリーとリズも賛成し、3人で1層からフロアをチェックしていく。

低層は全く問題なく、3人は各フロアを隅々まで探索し、出会う魔獣を倒しながら進んでいった。


 7層を調査して8層に降りた3人。


「今のところ問題ないわね」


「そうね、変な気配も感じない」


「2人の言う通りだな。となるとやっぱり10層に何か原因があるのか」


 8層も隅々までチェックするも問題なく、そのまま9層に降りた3人。1層から9層までは洞窟の造りだが低層ということもあり通路は複雑ではなく3人は気配感知を使いながら出会う魔獣は精霊で倒してフロアを進んでいく。


 そうして10層に降りると、目の前には森が広がっていた。光が降り注いでいる森林のフロア。降り立った3人は同時に。


「これは確かにおかしい」


 と口を揃える。


 全く魔獣の気配が無いのだ。3人はスキルアップしたからは狩人並みの気配感知力を持っているが、そのサーチに全く魔獣がヒットしない。


「人の気配もしないわ」


 リズが顔を左右に動かしながら言う。


「とりあえず進もう」


 その言葉で3人に強化魔法を掛け直すリズ。魔法をもらうと3人が固まって10層の森に進み出した。


 周囲を警戒してゆっくりと進んでいく3人。森の中にある道を進みながら左右に注意を払って進んでいってしばらくすると3人の気配感知に反応が。


「こっちだ!」


 道から外れて森の中に入っていく3人。気配のする方向に進んでいくと


「50体はいるわよ」


 3人の視界の先に魔獣が固まっているのが見えてきた。どうやら何かと戦闘をしている様だ。


「連絡がつかない冒険者達かも」


「そうだろう。急ごう」



 さらに近くと状況が見えてきた。10名強の冒険者達が森の中にある大きな岩の上に陣取っているがその周囲をぐるりと魔獣が取り囲んでいる。魔獣は岩の下から攻撃したり、岩を登ってこようとしているが冒険者達が何とかそれを食い止めている様だ。


 長くはもたないと見たグレイ、


「俺は飛んでいく。ケリーは戦闘の準備を、リズは俺と一緒に岩場に行くぞ」


「「わかった」」


 リズを抱えるとその場で浮遊したグレイ、岩に向かって飛んでいくとそれを見つけた岩の上にいた冒険者達から歓声があがる。


「助けに来たぞ!もう少しだから頑張れ」


 岩の上の冒険者の中には魔力を使い果たしたのかぐったりしている精霊士や僧侶の姿も見えて、岩場にリズを下ろすとリズは早速彼らの治療を始めた。一旦岩場から離れたグレイは岩を取り囲んでいる魔獣の背後に着地すると合流したケリーに目配せする、


 グレイが魔獣に向かってグラビティを発動。魔法を受けた魔獣が一斉に背後を向いたがその動きは緩慢で、そこに範囲化したケリーの精霊魔法が襲いかかると一発の魔法でランクBの魔獣が7,8体倒れ込んだ。


 ケリーが連続して範囲化の精霊魔法を打つ間に岩の向こう側から襲いかかってくる魔獣に再びグラビティを打つグレイ。再び魔獣の動きが一斉に緩慢になる。今後はグレイも精霊魔法を個別に魔獣に撃って倒していく。


 岩場に降りたリズは早速治癒魔法や回復魔法で負傷した冒険者の治療を開始。


 グレイはそのまま空から魔獣を個別に撃破、ケリーは有り余る魔力で範囲化した精霊魔法を撃ち、岩の周囲にいた50体ほどのランクBの魔獣を全て討伐した。


「どんな感じだ?」


 グレイがリズに声をかけると、


「重傷はいないわ。魔力欠乏と軽い打撲程度みたい」


「よかった」


「ありがとうございました。助かりました」


 しばらくしてから岩場から降りてきた冒険者達、グレイとリズとケリーの3人に礼を言う。


「どうしてこうなったか誰か説明できるかい?」


 グレイの質問に、1人の冒険者が、


「俺達3パーティなんですが、それぞれ別々にこのフロアを攻略してたんです。そうしたら魔獣達が一斉に俺たちの前から森の奥の方に向きを変えたんで、どうしたのかと後を付けて行ったら森の奥、ちょうど11層に降りる階段の前あたりに固まってて、その時には他の2つのパーティの連中も同じ様に急に魔獣が向きを変えてたから追いかけてきたと集まってたんですけど。そうしてどうなってるんだ?って見てたら急に一斉にこっちに向かって襲いかかってきたんで。慌ててさっきの岩場の上に逃げたんです」


「わかった。とりあえず皆は地上に戻ってくれ。俺達でもう少しこのフロアを見てみる。9層から降りてきた階段はわかるよな?」


 頷く冒険者達。


「ならOKだ。今は魔獣はいないとは思うが気をつけてな。あまり時間かけるとリポップするからな。地上に戻ったら俺達はもう少し調査するからダンジョンに入らないでくれと言っておいてくれるか」

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