第91話 元勇者達、試験官をする その2

 2日後の朝6時半頃グレイとリズが城門に着くとすぐにケリーもやってきた。


「受験生はまだなの?」


 学院の教師のケリーにかかると昇格試験を受けるランクBの冒険者も受験生という呼び方になってしまう。


「もう少し時間があるからな」


 グレイ達は普段から早め早めの行動をする癖がついているので集合時間の前に待ち合わせの場所に着くことが多い。ちなみに元勇者パーティでいつも最後にきていたのは勇者のエニスだった。とは言ってもそのエニスですら集合時間の10分前にはきていたが…


 グレイら3人は城門で立ち話をしながら時間を潰していると7時に5分ほど前になってバモスのパーティ5人がやってきた。そしてそれを見ていた様にギルドからギルマスが出てきて、バモスのパーティメンバーに、


「今回のお前らの試験官はこの3人だ」


「「ええっ!」」


 驚く5人。


「試験官が違うだけでお前達のやることは変わらない。昨日説明した様に1泊2日でランクAを2体以上討伐してくるのが最低条件だ。あとはグレイらの評点を合わせて最終決定する。がんばれよ」


 それだけ言うとギルマスはギルドに戻っていった。その後ろ姿を見てからバモスはチラッとグレイらを見るがグレイらが何も言わないのを見るとメンバーに、


「じゃあ行こうか。いつも通りだ。試験官はいないと思ってやろうぜ」


 そう言って5人揃って城門から外に出ていく。グレイ、リズ、ケリーの3人も彼らの後をついて城門を出ていった。


 エイラートの城門を出たバモスらは南に向かわずに西に進んでいく。魔族領に向かった方がランクAがいるからだ。そのあたりの基本情報はランクBの冒険者なら有して当然だとグレイが思っていると、西に進んで森に入っていったところですぐにランクCの魔獣と遭遇、それを軽く倒すとさらに奥に進んだところでランクBの魔獣と遭遇した。


 一斉に散開するバモスのパーティ。ランクBの魔獣をナイトが受けてあとは力技で武器、魔法で倒した。


 グレイ、リズ、ケリーは少し離れた場所から戦闘を見ていた。ランクBのパーティの連中には聞こえない小声で戦闘を見ながら話をしている。


「ランクB相手だからかも知れないけど、なかなかの戦闘力ね」


 とケリー。


「強化魔法をかけるのが遅くない?」


「リズの言う通りだ。散開前にかけないと僧侶の負担が大きい。ただケリーも言う通り戦闘力は高そうだ。ランクAの試験を受けるだけある」


 そうして森を奥に進んでいく一行。その後もランクB単体と遭遇しては倒していく。狩人のサーチスキルをフル稼働させているのだろう、複数体と遭遇せずに奥に進んでいくパーティを後ろから歩きながら、


「狩人のサーチスキルはかなり体力を消耗するんだがな」


 グレイが呟くと、隣からリズも、


「休憩しないのね」


「試験だからいいとこ見せようとしてるんじゃないの?」


 ケリーの言葉におそらくそうだろうと頷くグレイ。


 そうしてしばらく歩いていると、狩人から休憩させてくれという声が聞こえてきた。バモスらランクBパーティは大きな木の陰に腰かけてそこで皆水分補給を始める。


「木の上を調べずに座り込んだか」


「あの木の上に魔獣がいたら全滅ね」


 グレイら3人は彼らが見える場所で同じ様に大きな木の下に腰掛けるが、もちろん彼らは事前に周囲の気配を調べてから腰を落としている。


「こういうのって実際に襲われないと覚えないとも言えるけどね」


「まぁな。ただ減点法だけで評価すると流石にかわいそうだろう」


「グレイ、難しい言葉知ってるじゃないの。教師向きよ」


「よしてくれよ」


 ケリーとグレイのやりとりを聞きながらリズはランクBパーティの方を見ていた。


「狩人さんの疲労度が高そう。スキル使用での疲労だから回復魔法じゃだめなのよね」


 その言葉にケリーも彼らを見て、


「休憩時間をどれだけ取るかがポイントね」


 正直グレイらは彼らがすぐに立ち上がって奥に進むと思っていたが、実際はかなりの休憩を取った。おかげで狩人もすっかり元気になった様だ。大丈夫か?とリーダーが聞き、狩人が返事している声が聞こえてくる。


そうして立ち上がって奥に進み出した彼らに続きながら、


「チームのコミュニケーションは良さそうだ。それにリーダーがメンバーの疲労度をきちんと理解している」


「そうね。リーダーが高圧的じゃないのもポイントアップよ」


 しばらく奥に進むとグレイら3人がランクAの魔獣を感知した。


「さて、これからが試験の本番ね」


 ケリーが言うと、前を歩くパーティもランクAを見つけたのかすぐに僧侶がナイトに強化魔法をかけ、続けて戦士にかける。


「今度はいいタイミング」


 リズが呟く。


 戦闘は魔獣に挑発スキルを発動したナイトでリーダーのバモスが盾で攻撃を受け止めると戦士と狩人が物理攻撃を加え、背後から精霊士が魔法を撃つというオーソドックスな戦法だ。


「基本のスタイルはできてるな。位置取りも悪くない」


「ランクAの試験を受けるだけはあるわ。精霊魔法もいい威力してる」


 時間は掛かったが無事ランクAを討伐したメンバー。魔獣を討伐するとリーダーのバモスがグレイの方を向くと、グレイは頷いて、


「ランクA1体目、討伐成功だな」


 その声にガッツポーズするメンバー達。彼らが魔獣から魔石を取り出して収納するのを見ていたリズ。


「そろそろ夕刻。どこにキャンプするのかしら?」


「キャンプの場所も大事よね」


 リズとケリーのやりとりを聞いていたグレイもその通りだと心の中で頷いていた。


 彼らは魔石を収納するとグレイらの傍を通り、森の奥ではなく入り口側に向かって歩き出した。その後ろを続く3人。

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