第89話 オズボーンのパーティ

 エイラートに秋がやってきた。


 グレイとリズは毎年の秋と同じ様にマーケットで寒い冬の間の食料や衣服を購入していく。そうして買い物を終えてギルドに顔を出す。これもいつものルーティーンだ。


 ギルドに顔を出すと王都所属のランクAの冒険者のオズボーンのパーティが酒場でこの街のランクAのパーティの連中と座っているのが見えた。


「修行は順調かい?」


 彼らが座っているテーブルに近づくと声をかけるグレイとリズ。2人を見るとテーブルに座っていた冒険者が皆立ち上がって挨拶をする。


「エイラートのランクAの4人組みの彼らとずっと一緒に行動してましたよ。ダンジョンにも潜りましたし」


 なるほどと頷くグレイにオズボーンが続けて、


「やっぱりエイラートはレベルが高い。いい鍛錬になってます」


 オズボーンの言葉に彼らのパーティの3人も頷いていて、


「来週までいて雪が降る前に一度王都に戻る予定です」


「一度戻るって、またここに来るってこと?」


 リズがオズボーンに聞くと大きく頷いて


「王都じゃここまで中身の濃い鍛錬は出来ない。春になったらまたエイラートに修行にくるつもりです」


 そう言うとエイラートのランクAの冒険者が、


「いっそのこと所属をこっちに移したらって言ったんだけどさ、王都のギルマスがOKしないだろうから無理だって」


「フレッドは修行はいいけど所属変更は嫌な顔するだろうな。まぁ冬の間は王都で体を動かして、春になったらまた来たらいい。エイラートの連中もあんた達なら歓迎だろう」


 グレイがそう言うとありがとうございますと丁寧な礼をするオズボーンと仲間達。

頑張れよと声をかけてグレイとリズはギルドから外に出ていった。


 2人が外に出て入り口の扉が閉まるとエイラートのランクAの冒険者が閉まった扉を見てから顔をテーブルに戻すと、


「グレイ達は最近も未クリアだった20層のダンジョンを2日でクリアしたらしい。ここのギルマスがあいつら本当の化け物連中だって言ってたぜ」


「エイラートの街中で会ってる分には本当に普通の冒険者なんだけどな」


「元勇者パーティに領主の奥さんだっけ。彼女も普通にランクA以上の実力はあるらしいからな」


「ランクアップしてまた遠くに行っちまったな」


 皆思い思いに話し、そんな話でギルドの酒場のなかは盛り上がっていた。



 数日後の夜、BARにそのオズボーンのパーティ4人組がやってきた。明日エイラートを出て王都に戻るのでその前に挨拶に来たと言う。店にはケリーも来ていたので4人はケリー、リズ、そしてグレイにそれぞれ礼を言う。


「律儀ね。ギルマスのフレッドの教えがいいからかしら」


 例によって果実汁を飲んでいるケリーが言うと、


「王都でランクSの皆様に会わなかったら俺達はあれ以上は伸びなかった。ギルドの鍛錬場で3人の実力を見て目が覚めたんでね。礼を言うのは当然ですよ」


 ナイトのネルソンがグレイから貰った酒の入っているグラスに口をつけてそのグラスをカウンターに置いてから言う。一緒に来ている女性2人は薄めの果実酒をオーダーして、リズがカウンターの上に置く。


「それでこっちでは4人で活動してたのかい?」


「森でランクAをやる時は基本4人で。ダンジョンに潜る時は4人の時もあったし、こっちで知り合った同じランクAのパーティと合同で潜ってることもありました」


 パーティの僧侶をしているエリーが答える。


「なるほど。ダンジョンも下層になるとランクSが出てくるからな。事故を未然に防ぎながら鍛錬するなら合同のやりかたも悪くないな」


 グレイの言葉に頷くランクAの冒険者達。


 リズがジュースのおかわりをケリーの前に置いて、


「この人たちは冬の間だけ王都に戻って、また春にはエイラートに来るそうよ」


「そうなんだ。まぁ鍛錬するならアル・アインの中じゃエイラートが一番いい都市よね」


「そうね。高ランクの魔獣も多いし。街を出て遠くないところにダンジョンもいくつもあるし。鍛錬するならエイラートよね」


 ケリーとリズが言うと、その通りなんですと皆頷いて答えている。


「同格や格上の魔獣を討伐していくと、自分たちが強くなっていくのが実感できるのでこのエイラートに来てよかったと皆で話してたんです」


 オズボーンのパーティの精霊士をしているリーファがケリーとリズを交互に見て答えると、それが大事なのよとケリー。


「最初は討伐に時間がかかった格上も、何度か戦闘を繰り返すと討伐時間が短くなっていったでしょ? それはつまり慣れて上手くなっていってる証拠なのよ。それがスキル上げよ。そうしてだんだんと討伐時間が短くなっていくと、今度は1体じゃなくて2体という風に自分たちの目標を上げていくの」


 ケリーの言葉を4人は真剣に聞いている。その姿を見ながらグレイは


(上手くなる奴、上に登っていく奴は皆人の忠告を真剣に聞いて自分のモノにしていく。そういう点でこいつらは大丈夫だろう。まだまだ伸びしろがある)


 口には出さなかったがグレイは目の前のカウンターに座っている4人の冒険者達に暖かい視線を送っていた。


 その後は勇者パーティの時の話を聞きたがったオズボーンらに3人は自分たちの経験を話していった。それがひと段落するとケリーが、


「ところで貴方達のパーティって戦闘の作戦の立案とかってどうしてるの?」


 と逆に冒険者達に聞いてきた。


「作戦ですか…」


 改めて聞かれて戸惑いの表情を見せる4人。その表情を見てケリーが


「聞き方が悪かったかな? じゃあね。戦闘中誰か指示を出したりしてる?」


 そう聞かれると4人はお互いに顔を見合わせて、


「特に誰とは決まってないですね。その都度誰かが言ってる感じ」


 1人が答えると納得した表情になるケリー、先生が生徒に質問をしてその回答が正解じゃない時の表情になる。つまり間違った回答が出るだろうと予想していた通りの回答だったので喜んでいるというわけだ。


「強くなるにはね」


 そう言ってケリーが話しだした。真剣に聞いてる4人。グレイとリズもこうなると教師のケリーが適任なので彼女に任せて自分たちも黙っている。


「一人一人のスキルを上げる事。これはもちろん大事。でもそれだけじゃあランクはなかなか上がらないのよ」


 一旦言葉を切ってジュースを飲むと再び話を続ける。


「ランクを上げるには強い敵と数多く戦闘するのが近道だっていうのはわかるよね? じゃあ数多く敵を倒すには効率的に倒していくのがいいの。これもわかるでしょ?」


 ケリーの言葉に頷く4人。


「効率的に倒すには今誰がタゲを取っていて、そしてこの場面ではどの攻撃が最も効果的な攻撃になるのかを瞬時に判断して指示を出す参謀役を作ることが必要なの」


 なるほどと頷く4人。真剣な目で4人はケリーを見ていて、


「参謀役の人は大変よ。自分も戦闘をしながら他のメンバーの状態をしっかりとチェックし、そして瞬時に一番適切な指示を出す必要があるから。そして他のメンバーはその参謀の言葉を100%信用して動くの」


「ケリーさんの勇者パーティにそう言う参謀役の人っていたんですか?」


 1人が質問すると、ケリーとリズが顔をグレイに向けて、


「グレイよ」


 その言葉にびっくりする4人。オズボーンがグレイを見て


「そうなんですか?グレイさんが参謀役を?」


「ああ。俺が元勇者パーティの参謀役だ。戦闘前には全員の状態を確認。大まかな戦闘の進め方を説明して、戦闘が始まると毎回ケリーやリズ、そして勇者のエニスやナイトのクレインに指示を出していた」


「もちろんグレイさんも戦闘に参加してたんでしょ?」


「当然。まぁ言葉で言うと大変そうに聞こえるけどさ、これは慣れの部分も多いからな。慣れると自然に口に出せる様になるよ」


「いや慣れるとか簡単に言うけど…」


ナイトのネルソンが呟くとケリーが


「参謀役は誰かがやらないとダメ。参謀がいるかいないかで戦闘の中身が根本的に変わってくるから。個人の技量頼りの攻撃ばかりしてたらなかなかランクアップ、上達はできないわよ」


 ケリーの言葉にしばらく沈黙するメンバー。そして、

 

「どうやって参謀役を決めればいいんだろう?」


 オズボーンが声を出すとグレイが、


「最初は全員で声を出しながらやるんだ。自分の状態を言ったり、誰かの攻撃や魔法や位置どりが悪いと思ったらそれを言ったり。良いことも悪いことも口に出しながら戦闘をしてみる。何度かやっていると誰の指示が一番適切かが見えてくる。その適切な指示を出した人が参謀役をやればいい」


 今まで黙っていたリズがカウンターの4人を見てグレイの言葉に続けて、


「グレイはね。私やケリーの魔力量まで見極めてたの。これ以上魔法を使うと魔力欠乏症になるとか、これ以上精霊魔法を撃つとナイトからタゲが移っちゃうとか。でも彼も最初からそこまでできたんじゃないの。何度も何度も戦闘を繰り返している間にメンバー達の能力を見極めることができる様になったの。だから一気に最初から難しいことをしようとせず、少しづつ慣れていくといいと思う」


 リズの言葉は説得力があるなぁとグレイは黙って聞いてる。


 しばらく沈黙の時間があってから、おもむろにリーダーのオズボーンが


「この話しを聞けただけでエイラートに修行に来た甲斐がありました。俺達は王都に戻ったらランクAを相手にまずは声を出してやってみます。そうして参謀役を決めてそれで王都でしっかり鍛錬してからまた春にエイラートに戻ってきます」


 オズボーンの言葉に頷くグレイ、リズ、そしてケリー。パーティの3人も口々に元勇者パーティの3人に礼を言う。


「来春にまた会えるのを楽しみにしてるぜ」


 その後しばらくして4人はもう一度礼を言ってグレイのBARを出ていった。店の中に3人になるとケリーが、


「あのパーティは伸びるわね」


「そうね。4人だけどひょっとしたら来春くる時は人が増えてるかも?」


 とリズ。


「その可能性はあるな。いずれにしても皆素直だから伸びしろは多い。

ランクAで素直に人の忠告に耳を傾けられるのはある意味武器になるからな」


「本当ね。将来が楽しみだわ」


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