第87話 スキルチェック その2

 翌日は18層に飛んだ6人、17層と同じ荒野のフロアだがランクSが増えている。


「推測だけどこのダンジョンは最下層が20層だろう」


「そうなんだ」


「ダンジョンは何故か5の倍数のフロア構成になっているんだ。17層でランクSが出てきて、18層でランクSが主体になっている。となると19層はランクSのみで。そして20層にボスがいる」


 マリアに丁寧に説明するグレイ。その間に他のメンバーは装備の確認や水分補給をして準備をしていた。


 グレイはメンバーを見ると、


「行こうか」


 その声でリズが全員に強化魔法をかけるとクレインを先頭に荒野に進み出した。ランクAが一行を見つけてこちらに向かってきたがクレインが盾で止めたかと思うとエニスとケリーの魔法であっという間に倒し、そのまま何もなかったかの様に進軍する。


 18層の奥になるとランクAは消え、ランクSが単体で一行に襲ってくる。


「クレイン、ソロでやってみるか?」

 

 グレイのその言葉に頷くと向かってきたランクSをクレインが盾でがっちりと受け止めるとそのままソロで戦闘を開始した。


 他のメンバーが見守る中、盾で攻撃を防ぎながら片手剣を突き出すクレイン。


「すごいな、ランクS相手にびくともしない」


 エニスが感心して言う言葉に戦闘を見ながら頷く他のメンバー。

そうして攻撃をしているとクレインの盾がグイッと前に突き出されて魔獣に当たるや否や魔獣の動きが一時的にストップした。


「シールドバッシュ」


 マリアの呟きに、


「効果時間が以前より長いわ」


 ケリーが動きが止まっている魔獣を見ながら言う。以前のクレインのシールドバッシュは約2秒、それが今は5秒程止まっている。その間に片手剣で斬りつけるクレイン。


 麻痺が解けた時にはランクSは既に瀕死状態で、クレインが片手剣を横に払うと魔獣の首が胴体から離れて飛んでいった。


「新しいシールドバッシュ、想像以上だ」


 魔獣を倒したクレインがメンバーを振り返って言うと、グレイがクレインを見て、


「効果時間は以前の2倍強くらいかな?」


「そんな感じだ」


「これはまた大きな武器になるな。後は成功する確率だな」


 そうしてその後もクレインのスキルチェックを中心に遭遇するランクSの魔獣を討伐しながら進んでいった。

 

 検証の結果以前のシールドバッシュは成功確率が3回に1回の30%強だったのが、スキルアップにより4回に3回と75%程に上昇していることがわかった。


「だいたい75%の発動であってるだろう。それにしても凄いな」


 検証を終えたグレイが言うと、クレインも


「ここまで成功確率がアップするとはな」


 18層をクリアして、19層に降りる階段で休憩をとりながら意見を交換するメンバー。


「グレイのグラビティとクレインのシールドバッシュで敵を無力化できるね」


 エニスがいい、ケリーも


「今なら魔王は多分雑魚よ」


 その言葉に頷くメンバー。魔王討伐をしていないマリアは黙っていたが元勇者パーティの連中がそういう風に言うのを聞いていて彼らは本当に凄いスキルアップを成し遂げたんだと感心していた。


「さて、さくっと19層をクリアしてボス戦やろうぜ」


 19層はグレイの予想通り現れる魔獣は全てランクSで、しかも常に複数固まって襲ってくる。基本はクレインが複数に対して挑発スキルを発動してタゲを取るとエニス、マリアそしてケリー、グレイの精霊魔法で倒す。


 そのままフロアを進んでいると、リンクした4体が襲ってきた。メンバーが皆グレイを見る中グレイのグラビティが発動。するとこちらに向かってきていた4体の動きが急に遅く、緩慢になる。


「すげぇ」


 初めて目の当たりにしたグレビティの効果に驚いているクレイン。一方魔獣が緩慢になったタイミングを逃さずにエニスとマリアは魔獣に駆け出して剣を振るう。すぐに追いついたクレインも盾で残り2体のタゲを取って魔獣をキープ。ケリーの精霊が爆発すると魔獣4体が全て倒された。


「今のがグラビティか? 俺の想像以上だ」


「50%ダウンって本当に半端ないわよね」


 クレインの言葉にケリーがフォローすると、エニスも


「みんな凄いよ。クレインもケリーもリズもグレイも。俺とマリアも好きに攻撃できるしさ、このメンバー最高だよ」


「確かに。ちょっとぶっ飛びすぎているが負ける気はしないな」


「うん」


 グレイの言葉にリズも頷き、


「貴方達といたらこれが普通だと思っちゃうけど、違うのよね」


 マリアが言うとエニスが


「彼らは特別中の特別だね。元々高かった戦闘能力がさらにアップしている」


「いやエニスもそうだぜ。新しいスキルはないかもしれないが戦闘能力が以前よりアップしているよ」


「本当かい?」


「ああ。間違いない」


 グレイはずっとエニスの戦闘を見てきていた。他のメンバーの様に派手なスキルアップはしていないが、少しずつ能力が上がってるのは感じ取っていたので思っていたことを口にする。


「少しずつ上がっていってたから気づかないだけで、魔王討伐の頃よりも剣の腕は間違いなく上がってる。それが勇者の特性なんだろう。エニスも以前よりずっと強いよ」


 グレイの言葉を聞いたエニスはその場で飛び上がって悦んでいる。それを見ながら


「グレイがそう言うのなら間違いないわね。というか私もエニス強いなぁって思っていたもの。能力が上がってたのか」


 ケリーが納得する様に言うと隣でリズも私もそう思っていたと言う。


 その後も特にトラブルもなくランクSの魔獣を蹂躙する様に倒してフロアを攻略していくと20層に降りる階段が一行の目の前に見えてきた。


「19層なのにこんなにあっさり攻略できるなんて」


 階段を降りながらマリア。


「低層と変わらない感じだったね」


 ケリーもマリアに同意する。


 階段を降りるとそこはグレイの予想通り大きな門があった。

その門の前で休憩を取るメンバー。グレイは彼らに


「入ったらクレインがまずボスのタゲを取ってくれ。それから俺のグラビティ、後はいつも通りだ」


 ボス戦というのに作戦会議はそれだけ。各自が皆能力のアップを自覚していることと、他のメンバーとの信頼関係もできているからこんな簡単な指示で皆が納得する。


 エニスはマリアに、


「俺達もいつも通り、クレインがタゲを取ったらモンスを剣で攻撃するだけさ」


 マリアが頷いているのを見たグレイ。


「じゃあ行こう」


 立ち上がったメンバー。クレインが門の前に立ってメンバーを見て、彼らが頷くと目の前の大きな門を開けて順に中に入っていく。


「ミノタウロスだ」


「ボスだけあって大きいわね」


 牛の頭に人の身体をしたミノタウロス。4メートルはあろうかという巨体で頭には2本の角が生えていて、右手に大きな斧を持って広場の中央に立っている。


「怪力で素早い。クレインとグレイの力の見せ所だ」


 エニスの言葉に頷くグレイとクレイン。


「行くぞ!」

 

 クレインが先に広場に出るとリズの強化魔法をもらってから挑発スキルをミノタウロスに発動。身体をクレインに向けて斧を振り上げるそのタイミングでグレイのグラビティが発動してミノタウロスに命中するとその動きが急に緩慢になった。


 そのタイミングでエニスとマリアが広場にでて左右からミノタウロスを挟む位置に立つと片手剣で太ももを切り裂いていく。


 敵対心が大幅に向上したクレインの挑発、エニスとマリアが剣を振ってもタゲがふらつかずにミノタウロスはクレインに体を向けたままだ。


 斧が振り下ろされるが50%ダウンした緩慢な動きではパラディンのクレインに全くダメージを与えらない。緩い動きで斧が盾にぶつかるが、


「全然効いてないぞ!」


 クレインは攻撃を受け止めるとミノタウロスに叫ぶ。


「グレイ、行くよ」


 精霊魔法を打ち込んでいたケリーの声。その直後弱体魔法がミノタウロスに着弾するとすぐに同じタイミングでケリーとグレイの精霊魔法が着弾した。


 大きな叫び声を上げて仰反るミノタウロス、そこに2回目の弱体から精霊のコンボが着弾するとそれまでの太腿への剣で傷ついていた両足が支えきれなくなったのかミノタウロスが膝をついた。


 そのタイミングでクレインのシールドバッシュが発動。動きを止めたミノタウロスにエニスの剣が首を一閃、胴体から離れた首がゴロンと床に落ちた。

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