第86話 スキルチェック その1

 その後のパーティの進軍はさらに加速された様で、ランクAの魔獣を全く寄せ付けずにクレインが挑発した敵にケリーの精霊魔法や剣が襲いかかり瞬殺に近い状態で敵を倒して進んでいった。


 15、16層と砂漠が続くが全く問題なく討伐して進んでいき、16層の途中でオアシスを見つけると休憩する一行。


 オアシスは池の周りに椰子も生えていて日陰になっており、周囲に敵がいないのを確認するとその日陰に腰を下ろす。


「本当にダンジョンって何でもありなのね」


 水分を補給しているマリアが言うと、


「理屈はわからないけどね。暑かったり寒かったり本当に大陸上のいろんなエリアの状態が詰まってるわ」


 同じ様に水を飲んでいるケリーが答える。


「砂漠は隠れるところがないから難易度は高いんだよ。しかもこの暑さだ。夜は逆にすごく冷える。魔獣と同時にこの自然とも対峙しないといけない。まぁこのメンバーだと関係の無い話しになるけど、普通の冒険者にとったら砂漠のフロアは鬼門になるね」


 エニスがマリアに説明すると、分かるわと頷くマリア。グレイはクレインの方を向き、


「まだ本気出してないんだろうけど、ちょっと見ただけでも今までとは安定感が全然違うってのがわかるよ」


「そうかい?まぁランクAの攻撃を受けても感覚的にはランクBクラスの攻撃を受けてる感じで自分自身に負荷はかかってない気がする」


「そりゃすごいな」

 

 クレインの言葉に感心するグレイ。


 しばらく休んでから再び砂漠を進み出した6人。出会うランクAをさっくりと倒して16層をクリア。17層に降りたところでグレイが


「ランクSがいる」


 砂漠のフロアは16層で終わり、17層は今度は荒野のフロアになっている。草木は1本も生えておらず、荒涼とした大地に岩が転がっている。しばらくその風景を見ていたグレイ。


「このフロアを攻略して一旦地上に戻ろう」


 その言葉に頷く他のメンバー。誰もその理由を聞かない。グレイの判断に間違いがないことをメンバー全員が知っているからだ。


「じゃあさっくりと攻略しますか」


 クレインのその言葉で荒野を進み始めた一行。ランクAとランクSが半分ずつ混在するフロアだか、基本は1体の敵を相手にするので今までと同じ様に瞬殺モードで進んでいく。


「正面からランクS」


 グレイが背後から言うと向かってくるランクSに挑発スキルを発動するクレイン。ガッチリとタゲを取ったと思うやすぐに背後からケリーの精霊魔法が着弾し、エニスの剣で魔獣が倒れた。


 その後もランクA,Sと相対するがさっくりと倒して17層をクリアしたところで全員が地上に戻り、そのままエイラートのグレイの自宅に移動した。



 例によって貸し切りのグレイのBARで食事をするメンバー。


「それでクレイン。スキルアップしたってことはさ、ルサイルでも休みの日にスキル上げをしてたってことだろう?」


 エニスが顔をクレインに向けて聞くと、


「ああ。2日連続の休みはなかなか取れないけど、1日の休みは普通にあるからな。その時にルサイルの王都ギルドにクエストとして依頼書を出してたんだよ。『森のランクAの魔獣を相手に俺のスキル上げに付き合ってくれ』ってな」


「そう言うことか」


 エニスがなるほどと納得した表情をするとケリーが、


「クレインの依頼なら申込者が殺到してたんじゃないの?」


「いや全くその通りでな。ギルドは最初ランクAのパーティが募集対象だから申し込みはそんなに多くは来ないですよ、なんて言ってたのがさ、いざ蓋を開けてみたらランクAの奴等が俺のクエストの取り合いになったってギルド職員から聞いたよ」


 グレイはクレインとケリーのやりとりを聞きながらそうなるだろうなと思っていた。ランクSの勇者パーティのメンバーと一緒に活動ができるというのはランクAにとっては夢の様なクエストで、身近でランクSの戦闘を長時間見られるという滅多にないチャンスだ。申し込みが殺到して当然だろうと。


「それでどうしたの?」


 とケリー。


「ああ。結局ランクAのパーティに交代で付き合ってもらったんだ。1つのパーティに固定すると他の奴らがかわいそうだしな。それに俺自身いろんな戦闘スタイルでスキル上げをしたかったし」


「クレインらしいわね」


 とリズが答える。


「それでランクAのパーティと一緒に森の奥でランクAの魔獣を複数体倒した直後に脳内アナウンスが来たってわけだ。もうその場で飛び上がって喜んだよ」


「しっかり鍛錬し続けてきたからだよ。おめでとう」


 エニスが言うとグレイも同じ様におめでとうと言い、全員で再び乾杯した。クレインはグラスの酒をグイッと飲み干すと、


「正直焦ってたのは事実だ。アル・アイン組はガンガンスキルアップしていく。一方で俺は本来の騎士の仕事があるから休日しか動けない。でもグレイが以前に言ってたよな、少しでもやれば少しでも前進するって。その言葉を思い出しながら諦めずにやってきてよかったよ」


 クレインの言葉を聞いて隣に座っていたエニスが本当によくやり切ったよと声をかけてクレインの肩を叩く。


「パラディンって呼ばれているんですって? 格好いい呼び方ね」


 空になったグラスに新しいお酒を注いだリズが言う。


「ケツがこそばゆいよ。一応ギルドにも所属してるけど本職は騎士だしな」


「ルサイルの国王も喜んでくれただろう?」


 グレイの言葉に大きく頷くクレイン。


「ギルドの発表の後、国王陛下に呼ばれてな。その呼ばれた席で陛下にスキルが上がった時に何故最初に自分の所に報告にこなかったんだって言われたけど、その後すぐに騎士をしながらスキルアップの修行を続けていたことを褒められてな。嬉しかったよ」


 勇者パーティのメンバーは3国のトップとは皆顔なじみの関係だ。各自が

ルサイル国王の顔を思い浮かべながら頷いている。


「それで実際新しいスキルはどんな感じだい?まぁ明日はお披露目してもらえるんだろうけどさ」


「挑発スキルの時の敵対心アップ、防御力アップとダメージ20%変換は実感できていて、特にダメージの20%の還元で本当に体にかかる負荷が軽くなってる。ただシールドバッシュについてはランクSとの戦闘をほとんどしてないからまだ分からないってのが本当のところさ」


「じゃあそれは明日たっぷりと見せてもらおうか」


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