第85話 パラディン誕生
エイラートの晩夏、日中はまだ暑いが朝夕は少しずつ気温が下がり過ごしやすくなって来た頃、ルサイル王国のギルドから発表があった。
曰く、
ナイトのスキルアップが確認された。新しいスキルは、
・盾で受けたダメージの20%を自分の体力に還元する。
これは物理、魔法の両方のダメージに適用される。
・対物理、対魔法攻撃に対する防御力がアップ
・挑発スキルを使用した際の敵対心の大幅アップ、及び持続時間の延長。
・シールドバッシュが成功する確率が大幅アップ。
このニュースを聞いたグレイ、リズ、ケリーはエニスとマリアにも声をかけて
借り切りにしたBARに集まった。
「クレインがとうとうやったな」
BARの扉を開け入ってきたエニスが開口一番に言うと、既に来ていてカウンターに座っていたケリーも
「そろそろだろうとは思ってたけど。ちゃんとルサイルでスキル上げしてたのね」
カウンターの中央ににいつもの様にドア側からケリー、エニス、マリアと座りグレイとリズの5人で祝杯をあげる。
「それにしてもダメージ20%を体力に還元ってすごいよな」
「同時に防御力もアップでしょ? 盾としたらこれ以上ない位のスキルじゃない」
グレイとリズがカウンターに座っている3人に話かけると、早速グラスを空にしてグレイからお代わりのお酒を注いでもらったエニスが、
「ほぼ永久機関並みに魔獣の相手ができそうだよな」
極端な言い方だが実際それくらいのスキルになるだろうと皆思っている。勇者パーティの時から殆どの戦闘の際にがっちりとタゲをキープしてきたクレイン。その彼がさらにスキルアップしたとなると本当に鉄壁の盾ジョブになっただろうと簡単に推測できる。
「なんでも、ルサイルではクレインのことをパラディンって呼び始めたらしいわよ」
情報通のケリーの言葉に、
「パラディンか。クレインにぴったりじゃないの」
「ほんとね。どこかの超精霊士よりずっと格好いい呼び方よね」
グレイの感想にケリーが自嘲気味に突っ込むがリズとマリアから
「超精霊士も素敵だと思うけどな」
「そうよね。ケリーにぴったり」
そう言われてすぐに機嫌を治すケリー。目の前にある果実汁を口に運ぶ。
「鳥便でクレインにお祝いの手紙を送っておいた。そのうちに奴からこっちに来る連絡があるだろう」
グレイの言葉に頷くメンバー、
「俺も送ろうかと思ってたんだ。さすがにグレイだな。仕事が早い」
エニスが感心して言う。
マリアがジュースを飲み干してリズに薄めのお酒を頼むと、
「騎士の仕事って見た目以上にきつくて、大抵の騎士は休日は家で休んでいる人が多い中でその休日を使ってスキル上げするなんて、クレインは凄いわ」
「俺達3人がスキルアップしたのが相当プレッシャーになってたんじゃないかな。思ったことをすぐに口にするタイプじゃないけど内心は俺もと思ってたんだろう」
グレイの言葉に頷く元勇者パーティのメンバー達。
「それで、クレインが来たらもちろんダンジョンに行くんだろう?」
エニスの言葉にグレイは頷き、既に次に行くダンジョンは決めてあると言うと皆が、グレイの新しい魔法とクレインのスキルアップ。ダンジョン攻略が楽しみだと言う。
「問題はだな、エニスとマリアがちゃんと週末に時間が取れるかって事なんだよ」
「タイミングが合わないなら、私たちだけで行っちゃうから。クレインとグレイがいれば大抵のダンジョンなら攻略できるだろうしね」
ケリーの言葉にエニスは慌てて、
「ちょっと待ってよ、ケリー。クレインが来る日はしっかり空けておくからさ。俺とマリアを忘れないでくれよな」
そうして5人で祝杯をあげた数日後にクレインから鳥便の返信が来て、グレイの手紙に対する謝意と、来週末に2日間の休みが取れたのでエイラートに行けるという。すぐにオーブでエニスに連絡を取って彼らの了解も取り付けたグレイとリズ。
「パラディンのお出ましだ」
グレイの移動魔法でルサイルの王都から飛んできたナイト姿のクレインを見てエニスが声をかける。
エイラートのグレイの実家に集合したメンバー。
「クレインの話しは夜にゆっくり聞くとして、取り合えずダンジョンに行こうか」
グレイの言葉にメンバーが頷くと移動魔法であっという間にエイラート郊外のダンジョンに飛んだ6人。
「ここはまた新しいダンジョンかい?」
準備運動で身体を動かしながらクレインが聞く。
「ああ。未クリアのダンジョンだ」
「楽しみだな」
グレイとクレインのやりとりを聞いていたケリー、
「グレイの新しい魔法を見たらクレインもびっくりするわよ。もうグレイ1人でダンジョンクリアできちゃう感じだから」
「グラビティってそれほどすごい魔法なのか?」
ケリーの話を聞いてびっくりするクレインにケリーは、
「この前のケルベロスが雑魚ボスだったわよ」
「本当かよ?」
そうして6人で新しいダンジョンに潜っていく。
「この前は洞窟型だったが、今回はまた全然違うな」
1層こそ洞窟の様な造りだったが通路は1本道で、そこで出会うランクCの魔獣を一掃して2層に降りたメンバー。彼らの前には草原が広がっていた。
草原の中にある畦道の様な土の道を進みながらまるで魔獣などいないかの如く進んでいく一行。2層から5層までは草原の造りで、中にいる魔獣が少しだけ強くなり、魔獣の数が増えていくだけだった。
6層から10層は草原と森の造りになっているが、ランクBの魔獣は6人にとっては進軍の何の障害にもならない。スピード重視でダンジョンを進んでいく。
11層からは森ゾーンとなった。ようやくランクBに混じってランクAがちらほらと登場してくる。
10層まで特に作戦もなく目の前の敵を殲滅して進んできた一行。
「そろそろパラディンの実力を見せてもらおうか」
「おう、任せとけ」
エニスの言葉に力強く頷くクレイン。
リズの強化魔法を受けてフロアの攻略を開始した一行。ランクBは問題なく討伐して森の中を進んでいると、背後からグレイの声。
「前方にランクAがいる」
クレインが先頭でその後ろにエニスとマリアが並んで歩く。その後ろにリズとケリー、グレイは定位置の最後尾だ。
前方にランクAの魔獣が1体見えてきて、こちらを見つけると叫びながら突っ込んでくる。
クレインの挑発が発動。魔獣のタゲをガッチリ掴むと左右からエニスとマリアが片手剣で攻撃する。数度剣を振るとランクAの魔獣が倒れてしまって、
「ランクAでも相手にならないね。こりゃランクSまでお預けかな?」
エニスが消えていくランクAの魔獣を見ながら言う。
「そうね。殲滅速度が早すぎて何もわからなかったわ」
後ろからケリーが言うとリズも
「始まったら終わってた。ランクAもランクBやCと同じ感じだった」
各自が感想を述べて、そうならどんどん攻略しちゃおうという話しになりさらに攻略のスピードが上がっていく。
15層をクリアして下に降りると、そこは森ではなく砂漠だった。
「見るからに暑そう」
「実際暑いぜ」
ケリーの呟きにクレインが答える。
「ランクAの魔獣ばかりのフロアだろうな。サクサク進もう」
グレイの言葉で砂漠の中を進軍していく一行。
遮蔽物はないが砂漠は起伏があり、砂の丘の上にランクAの魔獣が2体現れるとこちらに向かってくる。
クレイが挑発を連続2回発動させて2体の攻撃をがっちりと盾で受け止める。
「どんな感じ?」
強化魔法をかけたリズが心配そうに聞くが、
「全然平気さ」
とクレイン
「びくともしてないわね」
ケリーが2体の攻撃をがっちり受け止めているクレインを見て言う。
エニスとマリアが1体ずつ受け持って剣を振り回して、
「全くタゲがブレない。これは殴り放題だ」
2体の魔獣をあっさりと倒すと、
「クレイン、かなり安定してるな」
「グレイにもわかるか? 攻撃を盾で受け止めた瞬間に何か力が自分のモノになるって感じなんだよ」
「20%だっけか。しかも基本の防御力も上がってるし。こりゃまるで壁だな」
グレイとクレインのやりとりを聞いていたケリーは
「じゃあそろそろ私も本気の精霊魔法を撃たせてもらおうかしら」
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