第84話 グレイ 2度目のスキルアップ その3
グレイが新しい魔法を取得して数日後、いつもの森でのスキル上げを終えたグレイとリズ、そしてケリーの3人はギルドの扉を開けて中に入っていった。
そこにいた冒険者達の視線を一斉に浴びながら3人はカウンターにつくとギルマスとの面談を申し込み、すぐに奥のギルマスの執務室に案内される。
ケルベロス戦の報告を聞いていたギルマスは、グレイの説明が終わると、
「難易度が高くて立ち入り禁止にしたダンジョンボスのケルベロスが雑魚扱いかよ」
今日は領主のエニス夫妻がおらずに冒険者3人だけなのでギルマスも普段通りの対応だ。
「今の話を聞く限りだと、もうお前さん達にクリアできないダンジョンはなさそうだな」
「お前さん達じゃなくてグレイに…でしょ?」
ギルマスの言葉にケリーが返し、それを聞いたギルマスは苦笑しながら
「そう俺をいじめないでくれよケリー。俺としてはランクSの元勇者パーティの全員に敬意を表しているんだからさ」
「そうね。私もちょっと言いすぎたわ」
あっさり謝罪するケリーだが、すぐに続けて
「でもグレイの能力が頭1つ、いや2つ3つ抜け出ているのは確かよ」
「そりゃわかってる」
ケリーの言葉に即答するギルマス。グレイはギルマスの目を見て、
「俺というか賢者ジョブの能力が優れているんだけどな」
そこを強調する。自分が神格化されるのは違うだろうと思っているからだ。グレイの言葉にギルマスのリチャードはお前さんの言う通りだ賢者ジョブの能力が優れていると頷き、
「それにしてもエイラートの冒険者達は身近にこんなすごい冒険者が3人、いや領主も入れたら一応4人か。お前さん達を間近で見られて日々刺激を受けられる。ギルドとしたらありがたい話だよ」
「偉そうなことを言うつもりもないが、俺達を見て刺激になって冒険者の質が上がるのならそれは悪いことじゃないな」
グレイの言葉にケリーとリズも頷いてそしてリズが、
「冒険者の質が上がれば事故やトラブルも減るしね」
「そう言うことだ」
そうしてギルマスとの話を終えた3人がギルドの受付に戻ってくると、そこにいた冒険者達から頼まれそのまま隣接する酒場で3人は質問攻めにあった。
グレイはもちろん、リズとケリーも冒険者の質問には丁寧に答えていく、集まっている冒険者の中にはランクAの冒険者もいて、彼らからは特にスキルを上げる具体的な方法を聞かれ、
「スキルを上げるのに近道はないと思ってる。ただ言えることは同格、格上と闘う事だ。その方が冒険者のスキルは上がりやすい。格下ばかりじゃスキルは伸びないと思うぞ」
グレイの言葉に続けてケリーが、
「同格、格上が相手だと一つ間違うと死に繋がるから。戦闘には十分な準備をし作戦を練る事が必要ね。それと危ないと思ったら撤退する勇気。常に逃げ道は準備しておくこと」
魔法学院で教師をしているグレイは生徒達に聞かせる様な口調で話かける。
聞いている冒険者もグレイとケリーの話を真剣な目で聞いている。ケリーは続けて
「それと僧侶や賢者の強化魔法。これが同格、格上と戦闘するときのキーになるの。しっかり強化魔法をかけているかいないかで戦闘の難易度が大きく変わるから。特に格上と戦闘するときは強化魔法は絶対に切らさないのが基本よ」
「リズさん、強化魔法かけるときに注意している事ってあります?」
僧侶の冒険者が聖僧侶のリズに聞いてくると、
「そうね。魔獣のタゲを取っている人の強化魔法は絶対に切らさない様に注意してる。魔法をかける順番はまずタゲを取っている人、次に攻撃をしている人。とにかく前衛ジョブの人は強化魔法を切らない様に気をつけてる。あとは上書きのタイミング。これは経験からだけどそろそろ切れそうと思うタイミングですぐに上書きしてるわ。そうして後は回復魔法でフォローかな。戦闘中は結構忙しいよ」
リズは聞かれたことに丁寧に答える。それを真剣な表情で聞いている冒険者達。そしてケリーが皆を見ながら
「前にも言ったけど私たちもランクB、Aを経験してる。だからみんなも頑張ったら到達できるから日々鍛錬して強くなってね」
その後もいくつか質問を受けてそれに答える3人。そうしてようやくギルドを出た3人は夕刻のエイラートの商業区をのんびりと歩いていた。
「いつもと目の色が違ってたね」
「本当。でもいい傾向ね」
歩きながらリズとケリーが話しているのをグレイは聞きながらさっきのギルドでのやりとりを思い出していた。
ほとんどの冒険者は自分が一番戦闘が上手いと思っている。そういう彼らが頭を下げてグレイやリズ、ケリーに教えを乞う。自分達よりも実力が上の冒険者を認め、そしてそのレベルに早く追いつきたいと純粋に思ってるその気持ちがグレイには嬉しかった。エイラートの冒険者達は向学心の塊だ。彼らはまだまだ強くなるだろう。
「グレイ、どうしたの?黙って」
「いや、なんでもない」
リズの言葉に答えると夕暮れの街に3人の姿が消えていった。
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