第83話 グレイ 2度目のスキルアップ その2

 エニスが扉を開けると、そこにはこの前と同じ様にケルベロスが部屋の中央にいた。

 リズが強化魔法をかけると、前回と違うのは今回はグレイは飛ばずに先頭に立つとケルベロスにグラビティの魔法を唱える。


 5人を見て3つの首を5人に向けようとしたケルベロスの動作が急に遅くなった。

その隙を逃さずにエニスが走り込んでいき、右の首に剣を立てる。続いて走り込んできたマリアも同じ様に右の首に剣を突き立てる。マリアの剣は前回のボス戦で手にした剣で、その切れ味は鋭くて剣を振るたびに首に大きな傷をつけていく。


 ケリーの精霊魔法が着弾すると右の首が吹っ飛んだ。

すぐに真ん中の首に攻撃をするエニスとマリア。ケルベロスは50%の動作ダウンとなって首を動かす動作も遅くエニスとマリアは何の問題もなく首の動きを避け、死角に移動しては剣で攻撃を続ける。


 またしてもケリーの精霊魔法で真ん中の首が吹っ飛び、最後に残った首に攻撃を始めるエニスとマリア。グレイは時間管理をしていて、2つ目の首が飛んだところで再度グラビティの魔法をケルベロスに掛ける。


 結局ケルベロスは一度も有効な攻撃をすることなく3つの首を落とされてその場で倒れ、消えていった。



「…言葉がないわね」


 ケルベロスを倒したケリーが呟くとマリアも、


「これがこの前と同じNMだなんて信じられない」


 皆ボスを倒したことよりもNMに対するグレイの魔法の威力、効果を目の当たりに見た衝撃の方が強かった様だ。


「グレイ。これ違反レベルの魔法じゃない?」


「全くだ」


 エニスの言葉に頷くグレイ。グレイ自身も想像以上の魔法の威力にびっくりしている。


「空飛んでさ、消えてさ、移動してさ。それで最後はこれ? なんかグレイだけずるくない?」


「いや、ケリー。ずるいとかずるくないとかじゃないだろう? 俺だってスキルが上がってどんな魔法が来るかなんか全く知らなかったんだからさ」


 グレイの言葉に納得いかなそうだったケリーだが、


「そりゃそうだけどさ…まぁ考えたらこれってグレイの魔法というわけじゃなくて賢者の魔法なのよね」


「そう言うこと。賢者を極めたら誰でも身に付く魔法だよ」


 こうしてあっさりケルベロスを倒し宝箱から金貨とアイテムを持った一行はダンジョンを出てエイラートの街に戻ってきた。

 

 ギルドでアイテムを換金し皆に平等に分配を終えると一行はそのままグレイのBARに向かう。ギルマスにはボス戦の報告は後日すると説明した。ギルマスもエニスとマリアがいるのでそれ以上は聞かず、ただ一言。


「わかった」


 とだけいい。アイテムの査定を済ませた5人は早々にギルドを出て移動魔法でグレイとリズのBARに。


 貸し切りにしたBARのカウンターにエニス、マリア、ケリーが座り、グレイとリズはいつも通りにカウンターの中だ。


「リズ、いつも悪いわね」


 マリアが申し訳なさそうに言うがリズは自分の顔の前で手を振ってマリアに気を使わないでという仕草をして、


「ううん平気だよ。今日は討伐の後は多分こうなるかなと思って食事の下ごしらえをしていたの」


 そう言ってカウンターに食事を並べていくリズ。


「本当にグレイの奥さんにはもったいないわね」


「おいケリー、そりゃないだろう?」


 グレイがケリーに文句を言うが、エニスとマリアもケリーの言う通りだと言われてがっくりするグレイ。


 そうして5人で食事とお酒(ケリーはジュースだが)を飲みながらの話題は当然グレイの新しい魔法になる。


「実際に見てみるとグラビティっていう魔法は強烈だよね」


 口に運んでいたグラスをカウンターに置いたエニスが言うと、ケリーが


「50%の物理動作ダウンって言葉ではなんとなくわかってたけど、実際に見てみると想像以上のインパクトがあったわ」


「あのワイバーンがそのままストンと地面に落ちちゃったものね、びっくりした」


 リズがケリーの前にジュースのおかわりを置いて続ける。リズの言葉にケリーもそうそうと言って頷いて、


「しかも必中でしょ?今ならグレイ1人で魔王に勝てちゃうんじゃないの?」


「いや、流石にそれはないだろう」


 ケリーの言葉にグレイは否定をして、


「魔王は言い過ぎだと思うけどあの魔法を打つと敵のレベルが2ランク以上は下がる感じだよな」


「そんな感じ。NMが雑魚になっちゃってたよ」


 エニスがグレイの言葉に続けていい、そしてグレイを見て、


「これで賢者の魔法を全部入手したのかな?」


「どうだろう?リズもケリーも俺もとりあえずはスキルアップした。これが最終なのか、それともまだあるのか。ケリーはどう思う?」


 グレイから話を振られたケリーは、


「こればっかりは全然わからないわ。もっとも精霊士にまだ上があるなんてグレイがスキルアップするまで全く思ってもいなかったし」


「そりゃそうだよな。普通はランクSになるともう頂点にいると思っちゃうよな」


「でもね、エニス。グレイはそうは思わなかったのよ。そこがグレイのすごいところ」


 ケリーがジュースを飲んでエニスに顔を向けて言う。彼女は口調は別にして本心はメンバーを正当に評価しているのは付き合いの長い他のメンバーは皆知っている。


 ケリーの言葉を引き取ってグレイは、


「俺達って魔王討伐の時に相当数の格上と戦闘をしたよな。その時にかなりのスキルポイントが蓄積されてたんだと思う。普通はこんな経験って出来ないし今は魔王もいない。仮にまだ上があったとしてもそれは相当に高いレベルだろうし正直俺達でも届くかと言われたら難しいとしか言えないよな」


「じゃあグレイはもう上を目指さないってこと?」


 黙っていたマリア。彼女は薄めの果実酒を飲んでいたが顔を上げグレイを見て言う。グレイはそのマリアを見ながら


「上を目指すとか目指さないじゃなくて、スキル上げは冒険者をしている限り続けるよ」


 そう言って少し間を置いて、


「スキル上げが好きだからね」


「なるほど。スキル上げを続けてもし仮に更に上があったら良しだし、上がらなかったとしても気にしないってことね」


「そう言うこと」


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