第82話 グレイ 2度目のスキルアップ その1
それからしばらくは平穏な日々が続き、グレイとリズは日課の森でのスキル上げをしていた。
そうしてその時はやってきた。
『賢者のスキルがアップし、新しい魔法を習得しました』
グラビティ:
対象となる相手をヘヴィー状態にする必中魔法。
標的の物理動作を強制的に50%ダウンさせる。効果時間は3分。上書き可能。
ただし上書きするたびに魔法の効果時間は10%ずつ減少する。
任意の複数にも有効。ただし必要な魔力量はターゲットした数に応じて増大する。
「リズ、新しい魔法が来た!」
脳内のアナウンスと聞いたグレイがリズに言うと駆け寄ってきてグレイに抱きつくリズ。
「よかったね、グレイ」
そう言って抱きついているリズに新しい魔法について説明をすると、
「凄いじゃない。必中魔法で50%ダウンさせるって。しかも複数にも有効でしょう?」
「最後の最後で凄いのがきたな」
そうしてリズの前でグレイが森にいるランクAの魔獣を釣り、こちらに向かってくる魔獣にグラビティの魔法をかけると突然その魔獣が、まるでスローモーションを見てるかの様に動作が緩慢になっていった。魔獣を精霊魔法であっさり倒すと、
「想像以上だ。これでまた格上との戦闘が楽になる。相手の動作が緩慢になる分こちらからの攻撃の命中率も上がるな」
「本当ね。グレイが頑張ったからだよ」
エイラートに戻ってギルマスのリチャードに報告をすると、黙って聞いていたギルマスは、
「とうとう大陸最強になっちまったか」
と呟き、
「とんでもない魔法だな、そのグラビティっていう魔法は」
「想像以上の代物だ」
とギルマスの言葉に同意するグレイ。
「ダンジョンでも無敵になるんじゃないのか?」
「恐らくそうなるだろう。必中魔法らしいしボス戦でも負ける要素が無くなる」
「賢者をとことん極めた者のみが持てる究極の魔法か。ある意味グレイにふさわしい魔法だな」
「ありがとう」
その後ギルドから発表された賢者のグラビティについては冒険者達が色々と予想していたはるか上をいく魔法でその魔法の説明を聞いた冒険者達は一様に驚き、そして同時にこの魔法を覚えたグレイがこの大陸最強の冒険者になったことを理解した。
「物理動作を50%ダウンさせる必中魔法だって?」
「しかも範囲化ができる?もう無敵じゃないか」
「どれだけ鍛錬したらあの高みにいけるんだろう」
などと冒険者達はその魔法の効果について語ると同時に、その魔法を会得したグレイを尊敬の眼差しで見る様になっていった。
「最後に凄い魔法がきたな、グレイ」
オーブの向こうでエニスが感嘆した表情でグレイに話しかけている。
隣のマリアも、
「賢者を極めると本当に強くなるって事をグレイが証明してくれたわね」
とグレイの新しい魔法を喜んでくれている。
「でさ、グレイ俺もマリアも実際に見てみたいんだよ、そのグラビティっていう新しい魔法」
「じゃあ今度ケリーを入れて5人で、この前対戦したケルベロスにもう一度挑戦しようか」
「いいね」
グレイの提案に即答するエニス。そして続けて、
「ケルベロス戦だけなら半日もあれば十分だろう?今週末なら行けるよ」
その後ケリーに話をすると二つ返事でOKが出て、とんとん拍子に話が進んで週末に5人でダンジョンに繰り出すことになった。
グレイは既にクリアしている立ち入り禁止ダンジョンのボスに挑むことをギルマスのリチャードに伝え、
「お前さん達は好きにしてくれて構わないが、報告だけ頼むぞ」
とあっさりと了承をもらうと、週末にはダンジョンの入り口に立っていた5人。
「24層に飛んで慣らしてから25層のボスをやろう」
そうして24層に飛んだ5人。前を見ると荒野の空にワイバーンが飛んでいて、
それを見たケリーが、
「グレイの新しい魔法ならワイバーンも地上に落ちるんじゃない?」
「どうだろうか。落ちるならあいつらは雑魚になるな」
そう言って5人でフロアに歩みを進める。
エニス、マリア、ケリー、リズと歩きだし、グレイはその場で浮遊して最後尾からついていく。
ワイバーンがこちらを見つけて空から向かってくる正面からグレイがグラビティの魔法を撃つと、ワイーバンは急に羽ばたかなくなり、そのまま重力に負けて地面に落ちてきた。
「こりゃ凄いよ、グレイ」
落ちてきたワイバーンを剣で一閃するエニス。マリアもケリーも予想はしていたとはいえ、その威力にしばし呆然としている。
「何これ。無敵じゃない」
ようやくケリーが口にすると、マリアも
「敵がいないのと一緒じゃないの?」
「本当だね。無敵魔法だよ」
マリアに続いてエニスも感心していう。
「俺も想像以上だった。こんなにあっさり落ちるとはな」
「物理動作50%ダウンの必中魔法か。当然と言えば当然なんだけどさ、それでも実際見てみるとその威力というか効果は凄いわね」
ケリーが本当に感心した口調で話すのを4人が聞いていて、
「とにかくこのまま進もう」
グレイの言葉でフロアの進軍を開始する一行。
その後も空を飛んでいるワイバーンはグレイの魔法で次々と地上に落とし、地上にいるランクS魔獣には複数体同時にグラビティの魔法をかけて動作を鈍くさせるとエニス、マリアの片手剣、ケリーの精霊魔法でさっくり倒していく。
「この前の攻略と全然違うわね。人数は1人少ないのに今回の方が全然楽」
マリアが魔獣を倒してから呟く
「マリアの言う通り、同じフロアを攻略しているとは思えない程だ」
エニスもあまりの違いにびっくりしている表情だ。リズも、
「私も強化魔法をかける回数がこの前と全然違う。すごく楽」
と喜んでいる。
「グレイ、魔力はどんな感じ?ってグレイには関係ない質問だったか」
エニスがグレイの方を向いて聞いてくると、
「そうだな。魔力を持っていかれてるって感じは全くしないな。連発できそうだよ」
「本当にグレイって底無しの魔力持ちよね」
「そう言うケリーだって相当じゃないかよ」
そんな軽口を叩きながら24層をまるで上層の様に進んでいくと25層に降りる階段が見えてきた。
「あっという間に着いちゃったよ」
エニスがとぼけて言うと他の4人も頷き、ケリーが階段を降りながら、
「ボス戦やる前から結果が見えてるわね」
そう言ってボス部屋の前に着いた5人。
「とりあえず開幕で俺がグラビティをケルベロスにぶつける。3つの首は右から倒してくれ。万が一の時は他の2つの首は俺がキープするから」
グレイの指示に頷く4人。
「じゃあ開けるよ」
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