第81話 汚れ仕事は1人でいい その2
しばらく浮遊して見ていたがもう洞窟から出てくる気配はなさそうだ。大声で話ながら食事をしている連中の近くに降りると姿を現すグレイ。
「な、何だよ!お前」
突然現れたグレイにびっくりする盗賊達。
「悪さしてる奴らをとっちめに来たんだよ」
「てめぇ、1人で何ができるってんだ」
集団のボス格の様な男が声を出すと全員立ち上がって身近にあった武器を手に持って、
「1人でやってくるなんて死ににきた様なもんだぜ」
「そうかい?じゃあやってみなよ」
そう言うと近くにいた2、3人が武器を持ってグレイに殴りかかってきたが強化魔法で彼らの攻撃は全て弾かれる。
「どうなってるんだよ?」
「ふざけてないで全員でやっつけてしまえ」
その声に再び今度は大勢でグレイに殴りかかるが、同じ様に強化魔法で弾き飛ばされて地面に無様な姿を晒す盗賊達。
「威勢がいい割には大したことないな」
1人がボウガンを持っていきなりグレイに矢を撃ったがそれも弾かれると目の前にいる男が只者ではないとようやく気づき始めた盗賊達。
「大人しく捕まれよ」
グレイの言葉に、
「ばかやろう」
そう言って再び殴りかかってくるが結果は同じで…
グレイがチラッと見ると部下に命令していたボス格の男が宵闇に紛れて山に逃げようとしていた。
グレイはそちらを見ると無詠唱で魔法を発動させた。
逃げようとしていたボス格の男が炎に包まれてその場で大声を出しながらのたうち周りだした。
呆然と見ている他の盗賊達。そのうちに燃やされた男は動きを止めて地面に倒れ込んだ。
グレイは他の男達を見ながら、
「お前らも1人ずつ燃やしてやろうか?」
そう言うと全員武器を捨てて両手を上げ、
「勘弁してくれ。助けてくれ」
「頼む。焼かないでくれ」
口々に叫ぶ盗賊達。
「じゃあそこで背中に手を回すんだ」
グレイの言葉に一斉に全員が自ら両手を背中に回す。そうして1人づつ後ろ手に縄をかけていくグレイ。
盗賊達は目の前の男を恐怖の目で見ている。あっとう間にボスが魔法で焼かれて死んでしまったのを目の当たりしてもう抵抗する気力すら失われていた。
全員を後ろ手で縛りあげると、
「あの死んだのがお前達のボスか?」
頷く盗賊達。
「部下を置いて逃げようとするなんて、大したボスじゃないな」
グレイは穴を掘ってボスを埋めると、洞窟の中を見て人質がいないのを確認し洞窟にあった金や武器を全部アイテムボックスに放りこむと、そのまま十数人の盗賊を縄でつないで森から街道に出て近くの村を目指してゆっくり歩いていく。
日が暮れる頃に街道沿いの村についた一行。村の門にいた衛兵を見つけると、
「エイラートのグレイだ、この街道に出ている盗賊を捕まえてきた」
「大賢者グレイ」
グレイという名前を聞いて盗賊の1人が声を出す。それを聞いた他の盗賊達が
「とんでもないのに目をつけられちまった」
そう言ってその場で蹲み込んでしまう。
グレイは衛兵に話をすると、1人の衛兵が村の中に走っていって、そしてすぐに応援の衛兵達と一緒に戻ってきた。
「大賢者グレイか」
「そうだ。こいつらは街道に巣食っていた盗賊だ」
「ありがとう。被害が出ていて我々も困っていたところだったんだ。助かる。これで全員か?」
その問いかけには
「いや、ボスがいたんだが、こいつらを置いて逃げようとしたんで殺した」
殺したとあっさり言うグレイ。
「そうか。まぁ盗賊は殺しても罪にはならないからな。それでこいつらはこっちで預かってもいいのか?」
「頼む。エイラートに連れて帰るには遠すぎる。そっちで対処してくれると助かる」
他の衛兵が盗賊達を牢に連れていき、グレイは衛兵の責任者に盗賊退治の経緯とその時の状況を説明する。
グレイの説明を記述していた責任者は、
「これでOKだ。この書類をエイラートのギルドに渡してくれ」
「わかった」
「それにしても大賢者グレイに捕まるとはな、運がいいのか悪いのか」
衛兵の独り言を聞きながら、
「じゃあ俺はこのままエイラートに戻るがいいかい?」
「ああ。あとはこっちでやっておく。グレイ、助かったよ」
衛兵の謝意に手を挙げて答えると、グレイはそのまま村の外に出ると移動魔法で一気にエイラートの街に戻っていった。
「相変わらず仕事が早いな。助かる」
エイラートのギルドでギルマスと話しをするグレイ。テーブルの上にには盗賊の隠れ家から持ち帰った武器や金貨、銀貨が置かれている。
「この手紙はギルドで預かる、報酬はあとで職員から受け取ってくれ。それとこのテーブルの上のは全てグレイのもんだ」
そう言うと職員を呼んで手紙を渡して報酬を準備する様に指示する。
「ところで盗賊のボスは殺したと書いてあったが?」
「ああ。逃げようとしたからな、他の盗賊達への見せしめの意味も込めてその場で火の精霊魔法で焼いた」
その言葉にしばらく沈黙するギルマス。
「グレイお前、最初からこの展開を読んでたな」
グレイの目を見ながら話かけてくるギルマス。その視線を正面から受け止め、
「誰かは逃げようとするだろうと思ってた。まさかボスとは流石に思わなかったがな。そうなると寝かせたり、捕まえるより殺した方が他の奴らが大人しくなる。嫌な仕事になる可能性がある時は1人の方が気楽だ」
「…リズやケリーには見せたくないよな」
ギルマスの言葉に頷いて、
「汚れ役が必要なら、それは俺1人で十分だよ」
普段はよく軽口をたたいてる目の前の賢者だが、ギルマスは目の前にいるこの男の本当の姿を知っていた。責任感が強く他人への思いやりに富んでいる。盗賊退治と聞いた時から起こりうる最悪の事態を想定し、できるだけ他人に嫌な思いをさせない様に負の部分は全て自分で背負ってしまう性分。
「損な性格してるよな、グレイ」
「ああ。こればっかりは一生治らないな」
そうしてしばらくお互いに無言で座っていると職員が報酬を持ってきた。
報酬とテーブルの上にある金を集めると立ち上がるグレイ、
「盗賊のボスの件は内密に頼む」
「わかってる。ご苦労さんだった」
そう言ってグレイの背中を叩くギルマス。
「テーブルの上の武器はこっちで処分しとくぜ」
「好きにしてくれて構わない」
そうしてグレイが家に戻ると夕食の準備をしたリズが待っていた。
「グレイの事だからさっくり片付けて帰ってくると思ってたらその通りだったわ」
「盗賊ったって冒険者だとせいぜいランクCとかのクラスだからな。見つければ後は楽だったよ」
目の前でニコニコとしているリズの顔を見るといやな仕事のことも忘れてリラックスしてくるグレイ。しばらくすると普段のグレイになっていきリズとの夕食を楽しんだ。
夕食が終わりグレイがテーブルから立ち上がると突然その背中にリズが抱きついてきた。
「リズ…」
グレイの背中に顔を押し付けて抱きついたままリズが言う。
「…いつもいやな役ばかりさせてごめんね」
「…気付いてたのか」
背後から抱きしめて両手を前に回してきたリズの両手に自分の手を重ねながら言う。自分の背中でリズが頷いているのを感じるグレイ。
「私にはわかるの。家に帰ってきた時のグレイの表情、仕草でわかるの」
「そうか…」
「以前からグレイはいつもそう。嫌な仕事があると絶対に人を巻き込まずにいつも1人で決着をつけてくる」
背中にリズの声を聞き、リズの手を撫でながら、
「それが俺の性分だからな。こればっかりは治らないよ」
「うん。それも分かってる。だから謝ってるの。いつもごめんなさいって」
「リズが謝らなくてもいいじゃないか」
「いいの。私が謝りたいから」
そう言ってリズは続けて、
「グレイがやってることはいつだって正しい事だって信じてる。だからグレイは何も
変えなくてもいい。でもね、今は1人じゃないから。私がいることだけは忘れないでね。本当に困った時は隠さずに言ってね」
「…ありがとう、リズ」
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