第80話 汚れ仕事は1人でいい その1
夏真っ盛りのエイラート。
王国各地から避暑目的の旅行者や冒険者がやってきて1年で一番街が賑わいを見せる。
グレイとリズは月に1度の魔法学院での講師の仕事を終えて学院からギルドに向かって商業区内を歩いていた。
「この時期は本当に人が多いね」
「全くだ。店も旅館も稼ぎどきだな」
そんな話をしながらギルドの扉を開けるとそこにもそれなりの冒険者がたむろしている。ギルドに入ってきた2人を見て挨拶をするものや遠目から畏怖の目で見ている冒険者達。エイラート所属の冒険者にとってはグレイ、リズ、そしてケリーの3人はランクSとは言え身近な存在だが、夏場を利用して地方からこの街にやってきた冒険者にとってはランクSの元勇者パーティのメンバーは自分たちとは住んでいる世界が違っている雲の上の存在だ。
顔見知りと挨拶をしてから奥に消えていったグレイとリズ。2人の姿が消えると
地方からやってきている冒険者がエイラートで知り合った同じ冒険者に、
「想像以上にフランクなんだな」
「ああ。彼らはいつもそうさ。普通に話しかけてくるし。俺達にも敬語を使う必要は無いって言ってるしな、気さくでいい人たちだよ」
そう言ってから聞いてきた男を見て、
「ただ、本気モードになった時の彼らは別人だぜ」
と付け加えるのを忘れなかった。
「よう。久しぶりだな。元気だったか?」
ギルマスの執務室に案内されると自分の机から応接セットに移動してきてギルマスのリチャードが2人に話しかけてくる。
「おかげさまで。今日も学院に行ってきたんですよ」
「ああ。月に一度の講師か。それでどうだい?学生の質は?」
リズの言葉に聞き返してくるギルマス。
「優秀よ。そうだね?グレイ」
振られたグレイは頷き、ギルマスを見て
「なかなか優秀だよ。エニスの魔法師団に何人入るかわからないが、ギルドとしても十分に戦力になると思うよ」
「お前達のお墨付きか、こりゃ楽しみだな」
そう言うと、ソファに座り直して、
「今日来てもらったのはだな」
そう言ってギルマスが話し始めた。
夏になって大勢の人がエイラートにやってきている。エイラートに来るには複数の街道を通るルートがあるが、一番人が多いルートは麓にあるネタニアからの街道だ。この街道は王都に続く道でもあり広く、そして冒険者達が周辺の魔獣を定期的に討伐しているので安全な道として認識されている。
それ以外に西から来ている道と東から来ている道があり、この3本の道はエイラートの手前で合流して最終的に1本の道としてエイラートの商業区の城門に続いている。
西からの道は魔族領の手前まで続いていて、街道沿にあるいくつかの街や村の人が利用するだけで観光客はほとんど利用しない。
「問題は東からの街道なんだよ。ティベリアから続いている街道ってことはお前さん達も知っていると思うが、この街道で最近盗賊が出たという話しでな。調査してもらえないかと思ってさ」
「盗賊? まだそんなのいたのか?」
盗賊と聞いてびっくりするグレイとリズ。
「しばらくはそう言う話しはなかったんだがな、夏のエイラートを目指す旅行者や商人を襲っては身ぐるみ剥いでるらしい。既に2件の報告が来ている。これ以上被害が大きくなる前に手を打ちたいんだよ」
話を聞いていたグレイが真っ先に思ったのはスラムの連中だ。ただ、スラムの連中は最近は地区の再開発の流れの中でこちらと事を構える様なことはないだろうとすぐに否定して、
「わかった。東の街道だな。俺が行くよ」
「私は?」
リズが聞いてきたが、そちらを向いて
「所詮盗賊だろ? 俺1人で十分だよ。姿を消して飛んで、見つけたらとっ捕まえるだけだし」
「わかった。気をつけてね」
2人のやりとりを黙って聞いていたギルマス。
「グレイが行ってくれりゃあ大丈夫だろう」
ギルマスの部屋を出ると、酒場にたむろしている冒険者達に盗賊の情報を持っていないかと聞くグレイ。
「あれだろ?ティベリアとエイラートの間にある山の中で出たって話」
「そうそう。ケチって護衛をつけなかった商人がやられたって話だ」
冒険者達が言うのと聞いて、グレイは
「その山の中ってどのあたりなんだい?」
1人の冒険者が、
「こことティベリアの中間から少しエイラート寄り。この辺境領に入ってすぐあたりですよ」
大体の位置関係が掴めたとグレイが思っていると周囲から、
「グレイさんが盗賊退治に行くんです?」
「ああ。俺1人で行くつもりだ」
「盗賊共もかわいそうに。グレイさんが出張ったらもう終わりだぜ」
そうしてギルドにいた冒険者の声を聞きながらギルドを出ると、そこでリズと別れてグレイは1人城門を出て賢者の魔法で姿を消すと浮かび上がって街道を東に飛んでいった。
分岐を東に取ってしばらく飛んでいると前方に冒険者が言っていた山が見えてきた。時刻は夕刻にさしかかっていて陽が西に大きく傾いている。
(いい時間帯だ)
そのまま山に入ると速度を落として空から街道の左右のゆっくりと見ていくグレイ。しばらく飛んでいると、街道から離れた山あいの場所から煙が立ち上っているのが見えた。そのままゆっくり空から近づいて、木々の間を飛びながら地上に近づくと、
(いたいた、あいつらだな)
そこには洞窟の様な前に火を焚いている周囲に座っている10名ほどの男達の姿が。皆ガラの悪い出立ちで一眼で冒険者や商人じゃないのがわかる。
グレイはその場で浮遊して様子を見ていると、洞窟の中からさらに3人の男達が出てきて焚き火の周りで車座になって座ると火で焼いていた野生の動物の肉を切っては食べ始める。
(仕事前の腹ごしらえか…最後の食事だ。せいぜい楽しめ)
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