第79話 マリアの依頼 その2

 昼過ぎにホロンに着くと、すぐに領主代理がいる館を目指し、館の入り口でギルドカードとフランクリン家の紋章の入っている手紙を見せて領主代理に面談を求めた。


 すぐに案内されて屋敷に入ると、応接間には領主代理のケビンが3人を待っていた。


「エイラートからありがとうございます。手紙を拝見しましたし、フランクリン領主様よりも鳥便で3人が来られることを伺っていました。なんとか元勇者様のお力をお借りしたく、何卒お願いします」


 実直そうな領主代理の対応にグレイ以下他の2人も好感を持った。


「それで、聞いているのは大きな川から用水路を引いているその途中にある硬くて大きい岩が崩せないってことなんですが、それで合ってる?」


 ケリーが代表して聞く。


「その通りです。用水路はその岩で塞がれている部分以外は既に完成していまして、岩を崩せば水がこのホロンの街のすぐ外にある大きな溜池に流れ込む様になっています」


「なるほど。じゃあ困ってる様だし今から早速行こうか」


 そう言うと場所を聞いた3人は街を出て再び籠を吊り下げ、リズとケリーを籠に乗せると、既にできている用水路に沿って飛んでいく。


 小一時間もすると目の前に山が見えてきた。


 用水路は山あいの谷底の部分に作られているが、近づくと領主代理の話の通り山から落ちてきたと思われる大きな岩石が谷を塞ぐ様に重なっているのが見えてきた。


 「ケリー、見えるかい?」


 籠から顔を出して岩石を覗き込んでいるケリー。


「見える、結構大きな岩ね。しかも複数あるわ」


 グレイも同じ様に空から見ていて、


「4つか5つの岩が重なり合ってるな。まぁなんとかなるだろう」


 そうして現場を空から一回りしてから人が集まっている所に着地する。


 そこにいた工事関係の人や魔道士は籠を吊り下げながら空を飛んできたグレイらを見てびっくりしていたが、誰かが大賢者グレイだと言うと皆納得し、地上に降りたグレイの所に集まってきた。


「大賢者グレイと聖僧侶リズ、そして超精霊士のケリーさんですね?」


 現地の責任者と思える男が近づいてきて聞いてくると頷く3人。


「水はまだ来てないのね」


 ケリーの言葉に責任者は、


「この先にある大河と用水路はまだ塞いでいます。この岩をどかすことが出来ればすぐに大河と用水路を塞いでる門を開ける様になっています」


「なるほど。じゃあ早速やろうか。リズ頼む。皆は離れてくれ。岩の破片が飛んでくるかもしれないからな」


 現地にいた責任者、工事関係者、それと魔法士達が現場から離れるとグレイはリズを見る。リズは頷くとケリーとグレイに強化魔法をかける。スキルアップした以前よりもずっと強力な強化魔法だ。


「最初からいくよ」


 そう言うと弱体魔法を唱えるケリー、それに続けて精霊魔法を撃つとケリーとグレイの精霊魔法がドンピシャのタイミングで重なっている一番上の岩に命中。大岩は爆発して粉々に砕け散った。


「凄い」


「何という威力だ」


 離れた場所から見てる関係者らの前で2つ目の大岩がまた爆発して粉々になる。そうして今度は下にある3つの岩を順に爆発させて、あっという間に5つの大岩が粉々に砕け散った。


 唖然としている関係者達に、


「これでいいだろう?小石を退けて上から水を流してくれ」


 その言葉で我にかえった人たちは直ちに自分たちの仕事を始める。砕け散った岩をのけて水の通り道を作り上流に行った連中は大河から用水路に水が流れる様に塞いでいた水門を開けた。


 グレイらが爆発現場で待っているとしばらくして上流から水が流れてきて、砕いだ岩の間を通って下流のホロンの街に向かって勢いよく流れていく。


 それを見て歓声を上げる関係者立ち。グレイとリズ、ケリーも水の流れを見ながら


「うまくいったみたいね」


「そうね。これで旱魃の被害から解放されそうね」


「ありがとうございました。これでホロンの街も安心です」


 現地責任者が礼を言うために近寄ってきた。


「せっかく作った作物が無駄にならなくてよかったよ」


 グレイはそう答えると


「とりあえず俺達は先にホロンに戻ってる」


 そう言うとグレイの移動魔法でその場で3人が消えた。現地にいたランクAの魔道士達は、


「凄い魔法だな。飛んだし、消えたぜ。」


「ケリーもグレイも聞いていた以上だ。精霊魔法の威力が半端ないよな」


「聖僧侶リズも凄かった、あんな輝きが強い強化魔法は初めてみたよ」


 3人の魔法の威力に感嘆しまくりで、しばらくは3人のランクSの魔法の威力についてその場で盛り上がっていた。


 ホロンの街についた3人、領主代行のケビンに報告をして町のすぐ外にある大きな溜池の縁に立っていると、用水路から勢いよく流れてきた水がそのまま溜池に放流されて溜まっていく。溜池の周りでみていた市民たちが歓声をあげて喜んでいる中、


「これでこの街ももう大丈夫だろう」


「うん。よかったね」


「さてと、マリアにがっつりと傭兵代を請求するわよ」


 ケリーの言葉に笑うグレイとリズ。


 領主代理のケビンから何度もお礼の言葉を聞いたあと、3人はエイラートに戻っていった。


「傭兵としてちゃんと仕事してきたわよ、マリア」


 グレイの家でオーブを前にケリーがマリアに報告するのをリズとグレイは笑いながら聞いている。


「ありがとう。父にも言っとくからしっかり請求してくれていいわよ」


「大貴族のフランクリン家だものね」


ケリーとマリアのやりとりを聞いていたエニスがオーブに顔を出して、


「グレイ、ケリー、リズ。本当に助かったよ。ありがとう」


 エニスに頷きながらグレイは、


「俺達の魔法って本来こういう使い方が理想なんだよな。困っている人を助ける為に使うってのがさ。また何かあったらいつでも言ってくれよ」


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