第78話 マリアの依頼 その1
「グレイ。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
そう言ってオーブの向こうからマリアが言う。隣にはエニスが座っているが今日の主役はマリアの様だ。
「どうした?」
こちらはいつも通りソファに並んで座ってオーブを見ているグレイとリズ。
「実は父の領地の中にある街が今年の猛暑で旱魃が起こってるの」
そう言ってマリアが説明し始めた。
マリアの出身でもあるフランクリン家は王都の近くに広大な領地を保有しているが、その領地の中にあるホロンという街で近くの川が連日の猛暑で完全干上がってしまって旱魃が起こり、農作物に多大な被害が出ている。
フランクリン家としてはホロンから離れたところを流れている大河から用水路を引いてホロンに水を引き込もうと土木工事を始めたが、その工事の途中にある硬い岩がどうしても崩れないらしい。
ランクAの精霊士が束になって魔法を打っても表面を薄く削るだけに終わり、このままだと工事が大幅に遅れる間にさらに旱魃による農作物の被害が拡大するということで領主のフランクリンからマリアに対してエイラートのグレイとケリーに強力な魔法で岩を削ってくれないかという依頼があったということだ。
「ホロンの街ってのは行ったことがないんだがどの辺なんだい?」
グレイが聞くと、
「父の領地の東の端になるの。位置的には港町ティベリアからの方が近いかも。そこから徒歩で4日くらいの場所よ」
黙って聞いていたリズはグレイを見て、
「早く行く方法、ありそう?」
「ケリーとリズの3人で移動するからな。ティベリアまでは移動魔法で行って、そこからは徒歩じゃなくて飛行魔法で移動するか」
「でも3人よ」
オーブを前にリズと話しするグレイ。グレイはしばらく考える仕草をして、そして視線をリズ からオーブに映るエニスに向けると、
「エニス、そっちで大きな木の籠を作ってもらいたい。リズとケリーが中に入れる籠だ」
「籠?」
素っ頓狂な声をだしたエニスに、
「そう。籠だ。それを両手で下げてホロンまで飛んでいく。これが一番早いだろう」
話を聞いたエニスは
「わかった。軽くて丈夫なのをすぐに作らせる」
「急いでくれ。こっちはケリーに声をかけるから」
そう言って一旦連絡を切ると、2人でケリーの自宅に向かう。
学院の授業から帰ってきていたケリーを捕まえるとマリアの話をして、
「ケリーの弱体、精霊のコンボでないと削れないかもしれないからな」
そう言うグレイに、
「私はOKだけど、グレイ、あんた2人を籠に入れたまま空飛べるの?」
「普段から肉体も鍛錬しているからな。スピードは落ちるし休憩をとりながらだけど、それでも歩くよりはずっと早いだろう」
「グレイがいいって言うならいいんだけどね。私もリズも籠に入ってるだけだから」
そうして2日後、ホロンに向かう準備をした3人が領主の館に出向くと、館の庭に木製の丸い籠の様な物が置いてあった。籠にはロープがついている。
「このロープを身体に巻いて籠を吊り下げて飛ぶんだな」
説明を受けたグレイが言うと領主に依頼をされてその籠を作った木工職人が
「そうです。強度は保証します。大人2人が乗っても底は抜けません。軽い木ですが強度のあるのを選んでつくりましたから」
「ありがとう。ちょっと練習してみるよ」
流石に木工ギルドの職人達だ。籠を手でもつよりロープを体に巻いた方がいいだろうと判断して籠にロープをつけてくれている。
そう言って身体にロープを巻いたグレイ、籠の中にグレイとリズが入るとそのままその場でゆっくりと浮き上がってそうして前に進み出した。館の庭をぐるっと1周して戻ってきて籠を地面に着地させると、
「グレイ、どんな感じだい?いけそう?」
エニスが近寄ってきて声をかける。
「思ったより軽い。これならなんとかなるだろう」
その言葉を聞いてホッとした表情をするエニスとマリア。
「これ、気持ちいいわよ。乗ってるだけだし景色もいいしね」
籠に乗っていたケリーは上機嫌だ。
「現地についたらこき使ってやるからな、ケリー」
「ホロンに着いたら館の領主代理を訪ねて。父から話は通っているから」
マリアが領主代理に渡す手紙をグレイに託す。
そうして3人はまずはグレイの移動魔法でティベリアの街の外側に着いた。それからアイテムボックスから2人の乗る籠を取り出すとその箱の中に入る2人。
ロープを体にまきつけたグレイが、
「準備はいいかい?」
「いつでもOKよ」
そうしてその場で浮遊するグレイ。
地上20メートル程の高さになるとそのまま水平飛行になって街道に沿ってマリアから聞いたホロンの街を目指して飛んでいく。
街道には商人や冒険者らしき人が行き交っていて、籠をぶら下げて空を飛んでいるグレイを見ると一斉に見上げて何か話ししているが、グレイはそれらを無視してひたすら西のホロンを目指して飛んでいく。
籠の中ではケリーとリズが身を乗り出して外を見ながらアイテムボックスから取り出したおやつを食べていて、
「最高の景色ね」
「ほんとね。風がきもちいい」
とまるで旅行気分だ。
「2人ともあまり籠の中で動かないでくれよ。重心がずれて揺れて飛びにくいんだよ」
「わかったわよ」
そんなやりとりをしながら何度か地上に降りて休憩をしながら空を飛び、夕刻に小さな村に着いてそこで夜を過ごすと翌日再びホロンを目指して街道を飛ぶグレイ。
徒歩だと4日かかる道のりを1日半で移動して、彼らの前にホロンの街の城壁が見えてきた。
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