第76話 ギルドにて
グレイらがダンジョンの報告をしてから1週間後、ギルドより立ち入り禁止ダンジョンについての通知があった。
それを聞いた冒険者達はそのダンジョンを調査したのが勇者パーティであることを知り、またその勇者パーティは立ち入り禁止ダンジョンをクリアしたことも知る。
「クリアしたあいつらが危ないって言うくらいだから相当やばいダンジョンなんだろうな」
「でも、そう言いながら自分たちはクリアするところがやっぱりランクSだよ」
グレイらの実力と性格はエイラートのギルド所属の冒険者達には十分理解されているので彼らがやばいといえば本当にやばいということで、その発言を疑う者はここにはいない。
「エイラートじゃあグレイらの言うことは皆無条件で信用してるんだな」
ギルドの酒場で魔獣討伐から戻ってきた王都所属のオズボーンのパーティ4人が
こちらで知り合った同じランクAのパーティと酒を飲んでいる。
オズボーンの話しにエイラート所属のランクAの戦士のトムが、
「ああ、もちろんだ。グレイはこの街で長い。大抵の冒険者は奴に世話になったことが最低でも1度はあるはずだ。そして俺達は皆グレイが俺達冒険者の安全に関しては絶対に嘘をつかないって知ってるからな。奴がやばいと言えばそれは本当にやばいってことは俺達は分かってる」
「流石だな」
オズボーンのパーティのもう1人の戦士のネルソンが感心して言う。
「お前達も王都で見ただろう?グレイとリズ、ケリーの実力は本当に半端ない。しかも戦闘能力だけじゃない。人としても彼らは一流の中の一流だ。彼らは決して他の冒険者を陥れる様な言動はしないってエイラートの冒険者は皆知っている」
そんな話をしているとギルドの入り口の扉が開き、噂の2人がギルドに入ってきた。列の最後尾に並んで順番待ちをしながら酒場に視線を向けると見慣れた顔を見つけて手を振ってくるリズと軽く手を上げるグレイ。その仕草を見ながらオズボーンは
「ああやってるとランクSの最強の冒険者には見えないよな」
「全くだ。ただ俺はグレイとリズ、そしてここにはいないが超精霊士のケリーの本気モードを見たことがある。そん時の奴らは今とは全く別人だった」
エイラート所属のランクA冒険者のシモンズが2人を見ながら続ける。
「グレイの凄さは大抵の奴は知ってる。そして余り話題にならないが隣にいる聖僧侶のリズも本当に半端ない。魔法をかけるタイミング、パーティでの位置取り、もちろん魔法の威力も全てが完璧だった。普段が普段だけにそのギャップに驚いたもんさ。以前ダンジョンで瀕死の状態だった冒険者を治癒魔法であっと言う間に完全回復させたりもしている」
そうして話しているうちにカウンターで魔石の買取を依頼した2人が酒場にやってきた。
「オズボーン、久しぶり。エイラートの冒険者ともうまくやってる様じゃないか」
「おかげさまで。ここは高ランクの魔獣が多数いるので腕を上げるには格好の場所ですからね。こうやって情報交換しながら毎日討伐してますよ」
グレイとリズが近づくと、エイラートの冒険者達はもちろんのこと、オズボーンのパーティメンバーも頭を下げて2人に挨拶する。
勧められるままに酒場の椅子に座るグレイとリズ。そうすると周囲に冒険者達が集まってきた。
「ところで立ち入り禁止になったダンジョン、グレイらが攻略したダンジョンだろう?そんなにやばいのかい?」
シモンズがグレイを見ながら聞くと
「そうだな。ランクAのお前らにはダンジョンの中についてある程度説明しておいた方がいいだろう」
グレイとリズは1層から9層まではランクC、Bが出る普通のダンジョンだが10層でランクAが出てくる。しかもほとんどのフロアが洞窟の造りになっているので視界が悪い。そうして13層はモンスターハウスになっている。と周囲に説明していく。
「モンスターハウス。名前だけは聞いたことがあるが実在したのか」
グレイの説明に思わず唸り声を出す戦士のトム。
「モンスターハウスの魔獣はすべてランクAだ。ジョブも前衛、弓使い、魔術師と揃っている。普通なら全滅コースだ」
「グレイとリズさんらはどうやってモンスターハウスを攻略したんです?」
話を聞いていた王都パーティの狩人のリーファが聞くと、グレイは自分たちが攻略した方法を説明する。その説明を聞き終えると、
「空からか。そりゃグレイらじゃないと無理だわ」
誰かが言った言葉に同意する他の冒険者達。
「モンスターハウスをクリアした後でね、もし普通に攻略してたらどうなったかって話になったんだけど。私たちでも相当苦労しただろうという結論になったのよ。それくらいにいやらしくて難しいフロアだったわ」
リズが補足していうと、
「ランクSでも相当苦労するって、半端ないな」
誰かの声が聞こえ、グレイはその声に頷いて、
「なのでギルマスと話しをしてあのダンジョンは立ち入り禁止にしてくれって頼んだんだよ。1層から10層までならランクAなら普通に攻略できるっちゃあ出来るけど、わざわざやばいダンジョンに出向かなくても同じ難易度のダンジョンはあちこちにあるからな」
「そりゃそうだ。それでダンジョンボスは何だったんです?」
トムが聞くと、そちらを向いてグレイが一言。
「ケルベロスだったよ」
そう言うと周囲からえーっという声が上がり、
「ケルベロスってあの首が3つあってそれぞれの頭から火を噴くあのNM?」
「そう。そのケルベロスだ」
ケルベロスと聞いてランクAを含めた酒場の冒険者達が黙り込み、しばらくしてから
「そりゃ俺達じゃあ手も足もでないな。対戦したら即全滅だ」
トムが言うと周囲の冒険者達も首を縦に振って同意する。
「確かにやっかいなNMだよな」
「やっかいどころじゃないでしょ?ケルベロスですよ?」
グレイの言葉に突っ込むランクAの冒険者。
「倒し方はあるからな。時間は掛かるが炎を避けられるならいける。2つの首のタゲ取って火を避けながら相手してる間に1つ落とす。次は1つ相手をしている間にもう1つ落す。そして最後に残った首を全員で落とすんだ」
「そうは言うけどそれが難しいんじゃないんですか」
あっさりと攻略法を説明するグレイだが、その攻略がランクAの冒険者にとってはとてつもなく難易度の高いもので。
「グレイさんらはあっさり炎を避けろって言うけど、俺達じゃ無理だもんな」
1人が言うと周囲がそうだそうだと同意する。
「じゃあ、やっぱりあのダンジョンは立ち入り禁止で正解だよな」
グレイが言うと、しばらく黙っていたオズボーンが、
「残念ながら話を聞いてる限りそのダンジョンをクリアできるのはグレイさん達だけだ。俺達はまだまだ技量が足りない。ただ、いつかそのダンジョンに挑戦してやるぜ」
オズボーンの言葉を聞いて大きく頷くグレイとリズ。
「その心意気よ。日々訓練したら間違いなく強くなれるから頑張って」
「リズの言う通りだ。今は無理でも毎日鍛錬しているといつか挑戦できる日が来る。
期待してるぜ」
そう言うとグレイとリズは立ち上がって周囲からお礼を言われながらギルドの酒場を出ていく。
その背中を見ながらオズボーンは
「いつか…とは言ったが、一体いつになったら彼らの背中が見える様になるんだ」
そう呟くと戦士のトムが、
「彼ら以上に毎日鍛錬するしかねぇな」
その言葉に頷く冒険者達。酒場にいた冒険者達は改めて元勇者パーティメンバーの実力を認識するとともに、明日からの自分たちの活動のモチベーションがぐっと上がっていくのだった。
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